誕生日の話 彼がよく口にする言葉がある。
『時間は有限だ』
それがまるで自分に言い聞かせているみたいだと、そんなふうに思えたのは、いつの頃だったろう。
紅茶を入れている時。お菓子を食べている時。あるいは軽く咳き込んだ時。
ふとした瞬間に、彼の——天祥院英智の声があんずの頭の中で再生される。
生来病弱な彼にとって『時間がない』ということは、健康な人と比べて『やれることが少ない』に直結するのかもしれない。けれど、だからといって『何もしない』人ではないし、むしろその言葉を口にすることで『時間を無駄にしない』ように自身を戒めているようにも思う。
突然病気で倒れる、なんてことはないにしても、やはり生まれ持った身体と向き合うなかで得た生き方というのは彼を彼たらしめていた。
その日も、英智はESビルで仕事をしていた。
「天祥院先輩、おはようございます」
「おはよう、『プロデューサー』ちゃん。例の件だね。これが終わったら行くからちょっと待って」
英智が資料をまとめている間、あんずは緊張気味に待っていた。