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    エイリアン(小)

    @4Ckjyqnl9emd
    過去作品封じ込める場所です、時々供養とか進歩
    お絵描きは稀に

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    POIPOI 11

    七五(過去作品)
    第0回お題「料理」

    #七五
    seventy-five

    ...労働はクソだ。
    体全体を包み込む倦怠感、目の奥がジンとして熱い上、吹き付ける風は冷たく、指先から体温が奪われていくのを感じる。ひどく眠い。
    少し早足気味に入ったエレベーターホール、ボタンを押して、やってきたエレベーターに乗り込んだ。
    ゆっくりと上がっていくエレベーターの中でこめかみをほぐすように押す。
    別に呪霊に手こずったわけではない。全ての任務において呪霊の級は二級が殆どであり、幾つかの任務では一級討伐のものもあったものの、そのどれもが一級でも下、どちらかと言えば二級に近い程度の呪霊だった。
    問題なのは、その量。
    呪術高専を規として2、3時間の移動を必要とする任務が多数あり、全てこなすのに丸四日。
    柔らかいとは言えない車内のシートで短時間睡眠のみを取り続け、食事は冷たいコンビニ食ばかり。
    決して車のシートやコンビニ食を卑下しているわけではないのだが、やはり体は柔らかい布団や温かい食事を求めてしまう。
    時刻は0時、深夜帯に差し掛かるこの時刻に外を出歩くような住民なんてこのマンションには少ない。
    静まり返った廊下に自分の足音のみが響く。
    部屋の前、鍵を取り出して差し込み、回した。
    まずは入浴だろうか、ただ夕食も食べていないから何かしらを腹に入れたい。
    冷蔵庫に何があったかも思い出せないが、食べれるものは一つくらいあるだろうとドアノブを回す。
    瞬間、視界がブレた。
    体の前面、主に額にドアを打ちつけたのだと認識し遅れてやってくる額への痛みに顔を顰める。
    「あっごめんね〜七海、わざとじゃないんだよ」
    ...ふざけた調子の聞きなれた声にらしくもなく動揺した、思わず出した声が震える。
    「...五条さん?」
    「やっほ、七海。お邪魔してるよ」
    目隠しもサングラスも取っ払って顕になった彼の目が楽しげに細められていた。

    何故ここに、と言いかけて、止める。
    そういえばこの人にはスペアキーを渡していたのだった。仕事疲れか、数日前のことさえ曖昧になっていた自分を恥じる。
    「なーに突っ立ってんの、早く入りなよ」
    ぐい、と手を引かれた。
    まるで自分の家であるかのような振る舞いに文句の一つでも言ってやろうと口を開いた。
    が、ふわりと、食欲を刺激する匂いが鼻腔に流れ込み一度口を閉ざす。この匂いは...
    「味噌汁...?」
    「おっ七海鼻がいいね〜!!だいせいか〜い!!」
    「アナタが、作ったんですか?」
    肌寒い廊下を抜けるとキッチンが出迎える、より一層匂いが濃くなり空腹が存在の主張を一層強めた。
    「いや〜伊地知が七海が疲れてるって言うからさ、折角だし労ってあげようと思ってね!」
    嫌だった?とこちらの顔を伺うように尋ねる五条さん、その顔にほんのり心配の色が浮かんでいるのに気付いた。
    「...いえ、とても嬉しいです。ありがとうございます」
    「そ、それならいいんだ。先に風呂入ってきちゃいなよ。その間に魚焼いとくから」
    「分かりました、ご心配おかけして申し訳ありません」
    「いーの、七海は真面目すぎるからね〜。どーせ上の連中にアホほど任務入れられてたんでしょ、仕方ないさ」
    ほい、と言う短い声と共にバサっとバスタオルを投げつけられる。さっさと入ってこいという意味だろう。
    既に秋刀魚をまな板に置いている五条さんに一礼して私はバスルームへと向かった。

    風呂は既に湯が張られていた。
    料理が作られていることから察しはしていたが、ここまで世話を焼かれてしまうと調子が狂う。
    少し熱めだった湯の温度は暫く経つと身体が馴染んで心地よい温度となる。
    その心地よさにほっと息をついた。
    「...五条さん」
    小さく、その名前を口の中で転がす。
    最前線を歩く、現代最強の男。
    ・・・私の、恋人。
    いつだって私の中には、彼の背中がある。彼が私の前で一人になる瞬間も見ていた。
    一度は彼を見捨てた私が、今こうして彼の隣を寄り添うことを許されている。
    まさか、ここまでしてくれるとは思ってもみなかったが。
    「私は、随分と幸せ者だ」
    ゆだった頭で、そんなことを考えた。

    「上がりました、ありがとうございます」
    「おっ!丁度いい感じだよ、席着いて」
    「いえ、流石に配膳くらいはしますので」
    五条さんは一つ瞬きしてそう?とほおを緩めた。
    「じゃあこれ持って行って」
    そう言って手渡されたの牛肉といとこんにゃく、大きめのにんじんとホクホクのじゃがいもが入った肉じゃがと、空っぽの茶碗だった。
    「白ご飯、欲しかったら欲しい分だけよそって、一応二合炊いてるから」
    「分かりました」
    肉じゃがを置いて、炊飯器を開ければぶわりと湯気が上がる。熱々の白ご飯をよそって自分の端の前に置いた。
    「白ご飯、五条さんは要りますか?」
    「僕はいいかな、そんなにお腹空いてないし」
    「...そうですか」
    ことりと食卓に食事が並べられていく。
    程よく油が乗った焼き秋刀魚に肉じゃが、味噌汁、おひたしに納豆白ご飯。
    「七海、あったかい麦茶でよかった?」
    「ええ、何から何までありがとうございます」
    「ふは、七海が素直にお礼言うなんて、珍しいこともあるもんだね」
    「...素直じゃなくて悪かったですね」
    「拗ねないでよ〜!!ほらご飯冷めちゃうから食べよ」
    いただきます、二人でそう言って手を合わせる。
    ずずと啜った味噌汁は出汁と味噌の塩梅が丁度よく、具の油揚げも味がよく染みていて、とても温かい。
    「...美味しい」
    「ほんと?よかったよかった!人に料理を振る舞うのなんて初めてだったからね〜!それでも完璧にこなしちゃう辺り、やっぱ僕ってばイッケメン!」
    「...初めてなんですね」
    え、と五条さんは動作を止めた。
    唯我独尊天上天下、最強を名乗るあの人が、ここまでしてくれるのは私だけなのか。
    ...自惚れても、良いのかもしれない。
    「...私のことを、本当に好きなんですね。アナタ」
    「はっ、えっ?!待って七海ってば僕の気持ちを疑ってたの?!」
    「いえ、疑ってた訳ではないのですが、俄には信じられませんでした」
    アナタが私を好きだと言うことが、そう付け足すと、五条さんはその青い相貌をこれでもかと言うほど見開いてどんとテーブルを叩いて立ち上がった。
    「そーれを疑ってたって言うんでしょ!!あーーこれは僕も怒っちゃうなーー!!いくらgood looking guyの僕でも許せないよ?これ!」
    「すみません、」
    そう謝る。五条さんは不機嫌そうにしながらも大人しく席に座り直した。見開かれた相貌が伏せられ、白い睫毛が映える。
    「....僕、ちゃんと七海のこと好きだよ」
    「...はい」
    ぱくりと、五条さんがおひたしを口に運んだ。
    それを見て私も秋刀魚を口に運ぶ。冷たくなってしまっては美味しさも半減してしまう。
    油の乗った秋刀魚はやはり塩加減が丁度良く、白ご飯が進む一品だ。
    そっぽを向いて食事をする五条さんがチラリとこちらを見て、美味しい、と聞いた。
    口にまだ料理が入っていたので、首を縦に振ると五条さんはそう、とだけ言った。
    暫く無言の時間が続く。あれだけあった食事も今はすっかり腹に収まっている。
    未だうっすらと湯気を立てる麦茶を一口飲んだ。
    「五条さん、」
    「何」
    「...愛してます」
    「...うん、知ってる」
    「貴方も、私のことを」
    「ちゃんと愛してるよ、さっきから言ってる」
    むす、としながらそう言った五条さんが私を見る。
    「僕がこうやってきてやってるんだから、察しろよな」
    僕が甘やかすのなんて、お前くらいだよ。
    そう言った五条さんが、今度は恥ずかしそうにそっぽを向いた。
    その動作がひどく愛おしくなって、私は目の前に彼に声をかける。
    なに、とさっきより小さな声で彼が答えた。
    これから先ずっと生きていくなんて、この世界ではありえない。
    きっと私はこの人より先に逝ってしまうだろう。
    けれど、それでも。

    「また、料理を作って貰えませんか」

    今はまだ、この幸せを噛み締めていたいと思った。
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    エイリアン(小)

    PROGRESS進んでるところまで
    夏五共依存
    「さとる」
    そっと呟いても、その声に答えてくれる筈の人間はまだ目を覚まさない。
    さまざまな機械に繋がれ、死んだように眠る悟はまるで精巧な人形のようだった。
    「悟」
    もう一度、名前を呼ぶ。
    ピクリとも動くことのない瞼を見て、思わず投げ出された手を握った。
    ただでさえ冷たい悟の手がさらに温度を失っているのに気付いて、強く、強く握る。あわよくば、この感触に気付いて起きてくれる期待を抱いて。
    「悟...」
    なのに、強く握った手を持ち上げても、悟は目を瞑ったまま。
    抵抗しない。何も言わない。
    それが酷く悲しくて、私はぐっと唇を噛み締めた。

    『五条が暴走車に撥ねられた』
    そう言った硝子の震えた声を、今でも容易に思い出すことができる。
    変わらない日、いつもと同じ金曜。
    いつも通り二人で朝食を取って、悟がゴミを持って出勤する。
    ゴミを持つ悟に、いつまで経っても似合わないな、なんて思っていた。
    昨日の夕食も思い出せないくせして、悟が撥ねられたその日の過ごし方は馬鹿みたいにはっきり覚えているのだ。
    それなのに、彼がいつも通りに放った、行ってきます。その声が薄らぼんやりとしてきているのが恐ろしくて仕方ない 2408

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