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    last_of_QED

    @LastQed

    ディスガイアを好むしがない愛マニア。執事閣下、閣下執事、ヴァルアルやCP無しの地獄話まで節操なく執筆します。デ初代〜7までプレイ済。
    最近ハマったコーヒートーク(ガラハイ)のお話しもちょびっと載せてます。

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    last_of_QED

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    ヴァル様とリッヒの昔と今の話。「あと一発食らったらHP0になるヴァル様を前にしてもフェンリッヒは回復アイテムに血を仕込めるか」悪魔の絆ってこんな感じだったらいいな。

    #ディスガイア4
    disgaea4
    #ヴァルバトーゼ
    varvatose
    #フェンリッヒ
    fenrich.

    【悪魔のキズナ】 いつかは忘れてしまうのでしょうか。いや、こんな痛み、こんなもどかしさを忘れられるわけ、あるものか。
     不要な情報、古い記憶は知らずのうちに淘汰され己の中から出て行ってしまう。到底耐えられない負荷が掛かった時もまた、生き物はあえて記憶を手放すという。心が、感情がある以上、ありとあらゆるすべてを抱えて生きてはいけない。忘却とは即ち生存のための防衛本能なのだろう。しかし、そうであるのならば。いっそその苦渋を抱き苦しみ抜いた先で、そのまま死んだ方がいくらかマシなのではないかと思えるほどに、この痛みは忘れてはならない重要なものであると、そう思った。

    「痩せ我慢はおやめください。お願いです。このままではあなた様は」

     身を潜める寂びれた小屋。そこに残されていたのは僅かばかりの家具だけで、他には何もない。住民不在のその空間は四、五十年前で時が止まってしまっていた。壁際のソファをベッド代わりに横たわる男を見やれば肩で息をしていた。衰弱していく主はもう、いつ消滅してしまうとも分からない。あれだけの膨大な力を誇った暴君がたったひとつの約束に蝕まれ息をするのもやっとの状態で。言うなればこれは絵に描いたような悪夢であった。あなたの力は、ここで終わっていいようなものではないはずなのに。死んだ女との約束など、どうとでもしてしまえば良いというのに。
     赤黒い液体を詰めた小瓶を差し出して見せるが、ヴァルバトーゼは焦点を定めようともせず、首を横に振るだけだった。狼男はぼんやりと思う。他人の生き死にをこんなに間近でまざまざと見たのはいつぶりだろうか。日に日に濃くなっていく死の気配をこんなにまで恐ろしく感じたのは。
     吸血鬼のもとより白かった肌は一層血の気が引いているように思えた。それもそのはずで、この人はもう二週間、血を口にしていない。今のヴァルバトーゼが元より在った魔力の蓄えを削って何とか生き永らえている状態であることは言われずとも察せられた。どれだけ強大な悪魔であろうと魔力は無尽蔵ではない。グラスの水を飲み続ければいつかなくなるように、注がれることがなければ魔力もいつかは底を尽く。

    「ヴァル様」

     返事はない。白状してしまえば、恐ろしかった。このまま、ヴァルバトーゼという存在そのものが消えてしまいそうな現実が。憎かった。あまりにも強固なその意思が。この期に及んでまだ女を恐れさせていないなどとのたまうならば、人間を襲わないと言い張るならば。無理矢理にでも血を飲ませてしまおうと幾度思い巡らせただろう。実際、何も口にしないよりはと出した食事に血を仕込んだことがあったが、結局ヴァルバトーゼは口をつけなかった。それどころか血の混入を認めてもオレに悪態ひとつ吐かなかった。それが酷く悔しくて、その一度きりでやめてしまった。

     けれど、それも過去の話。目の前の衰弱したヴァルバトーゼならば。やりようによっては力ずくで血を飲ませることだって出来るだろう。そうだ、難しく考えていないで今ここでそうしてしまえばいい。この小瓶が失敗に終わったとてどうということはない。いつ主が気変わりしても良いよう、人間の血液の準備だけは十二分にあるのだから。
     瓶の蓋を外す。決心して息を吐く。主人のそばに歩み寄り、その人を静かに見下ろした。

    「お許しください」

     長年手入れをされず革にヒビの入った古いソファ。体を沈ませていた主へとのしかかる。首を掴み羽交い絞めにして、無理矢理口を開かせた。必死に抵抗する彼の腕が想像以上に弱々しくて、手に込める力をつい躊躇うと紅い瞳がキッとオレを睨む。その瞳は決して弱さを滲ませない。

    「わたくし、は、」

     無抵抗にも等しい主に何をしているのだ、オレは。
     言葉が喉元につっかえる。わずらわしい。主にこうして迫っておきながら、自分だって「こんな簡単なこと」が出来やしないじゃないかと自嘲する。

    「血を飲んでいただきたい。力を取り戻していただきたい。……ただ、それだけなのです」
    「……すまんが、それは出来ん」

     人間を襲わないという約束ならば、人狼(あくま)の私の血を飲めばいい。何故ここまで意固地になる。あの聖職者との約束が、私との約束よりも重要だと言うのですか。ああそうだ、ヴァル様と先に約束を交わしたのはこの私ではありませんか。あの月が輝き続ける限り尽くせと命じたのはどこのどなたですか。今この瞬間だって月は我々を見下ろしているのに、人間との約束を守って私をひとり置き去りにして逝くというのですか。

    「馬鹿者、約束は必ず守る。それは何も、アルティナとの約束に限った話ではない。お前のような見上げた男を仲間に迎え入れたのだ。こんなところで……俺は死にはせん」

     心を見透かされていたのか、それとも声が漏れ出ていたのか。暴君ヴァルバトーゼは穏やかに言って、覆いかぶさるオレを抱きしめ、そのまま頭を撫でた。大の大人が大の大人をあやす様は明らかに異常であったけれど──遂にはオレは頭を垂れ、身を委ねたのだった。その穏やかさが何もかもを諦めてしまった者のそれではないことを感じ取ったからだ。布越しに人肌など伝わってこようはずもない。それでも感じる初めてのぬくもりを、今だけ、と享受する。

     ああ、この気持ちを何と呼称すれば良いだろう。良く分からない。分からないが──本当に恐るべき力を秘めた悪魔だ、この人は。





    「チッ、しつこいゴーストどもだ」
    「閣下、このままでは体力が! こちらをお使いくださ、い……?」

     目と鼻の先でぽわ、と特有の回復音がして拍子抜けする。狼男の手元にはヴァルバトーゼに渡そうと構えていたひとつのガム。それが突如として行き場を失い、フェンリッヒは驚いて目の前の人を見た。

    「回復は私にお任せくださいと申しましたのに」
    「ああ、そうだったな。勿論、俺が回復行動をとらなければお前が俺を支援するだろうとは思っていた」

     いつかの仕返しをするように、けれど嫌味なく吸血鬼は笑った。

    「だが、血を仕込まれていては敵わんからな。食わねば死ぬ、食えば約束を破ることになる。……そうなる前に自分で回復するのは道理だと思わんか、フェンリッヒ?」
    「……フフ、さすがは我が主。私のことを良くご存じでいらっしゃる」
    「日頃の行動を反省するのだな。……俺はお前の見初めた主だぞ? こんなところでくたばる訳にはいかないのだから」

     そう言ってヴァルバトーゼはオレの頭をわしゃ、と撫でた。ぎこちない、白手袋の手。いつかの懐かしさが蘇り、同時に湧き上がったのは紛れもない「照れ」だった。

    「なっ……何をなさいますか!? 敵に集中してください!」

     手に握ったままになっていたガムを乱暴に自身の口に放り込む。舌に触る甘味がほんの少し、嬉しかった。ガムは鉄の味などするはずもない。本当はヴァルバトーゼもそのことは知っていたはずで。

    「さあ、背後は任せたぞ、フェンリッヒ」

     剣を大きく振りかざしたヴァルバトーゼと背中合わせになるように立ち、取り囲む亡霊たちと対峙する。頷き、膨らませたフーセンガムが狼男の口元でぱちんと弾けた。
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    last_of_QED

    DOODLEガラハイ🐺🦇【stand up!】
    お題「靴擦れ」で書きました。ハイドがストーカーに刺された過去を捏造しています(!?)のでご注意ください。

    ガラさんとハイドには、互いの痛みを和らげてくれる、一歩を踏み出すきっかけになってくれる…そんな関係にあってほしいです。
    【stand up】「ガラ、休憩だ」

     背後から名を呼ばれ、狼男は足を止めた。気配が背中まで迫って来るや否や、声の主はウンザリだとばかり、息を吐く。

    「休憩って……おれたち、さっきまでコーヒートークに居たんだよな?」

     両名は確かに五分前まで馴染みの喫茶店で寛いでいた。ガラハッドとゾボを頼み、バリスタ、それから偶然居合わせたジョルジと街の噂や騒動について会話を交わし別れたばかりだ。にも関わらず再び休憩を所望するこの友人をガラは訝しんだ。傾き始めた陽のせいかハイドの表情は翳り、どこか居心地が悪そうに見えた。

    「具合でも悪いのか?」
    「……ああ、もう一歩も歩けそうにない。助けてくれ」

     かつて、オークに集団で殴られようが、ストーカーに刺されようが、皮肉を吐いて飄々としていた男が今、明確に助けを求めている。数十年に及ぶ付き合いの中でも初めてのことで、ガラは咄嗟にスマートフォンに手を掛けた。「911」をコールしようとした時、その手を制止したのはあろうことかハイド自身だった。
    1434

    last_of_QED

    DONEガラハイ🐺🦇【As you wish, Mr.Hyde.】
    バレンタインのお話🍫Xにてupしたもの。記録用にこちらにも載せておきます✍️
    【As you wish, Mr.Hyde.】 今にも底の抜けそうな紙袋が二つ、どさりとフローリングに下ろされる。溢れんばかりの荷物、そして良く見知った来訪者を交互に見比べて人狼が尋ねた。

    「なんだこれ」
    「かわい子ちゃんたちからの贈り物だ。毎年この時期事務所に届く。……無碍にも出来ないからな、いくつかはこうして持ち帰るんだ」
    「マジかよ……これ全部か……?」

     愕然とする人狼を横目に、ハイドは手が痺れたと笑うだけだった。今日は二月十四日、いわゆるバレンタインデー。氏に言わせれば、これでも送られてきた段ボールの大半を事務所に置いてきたのだという。

    「さすがは天下のハイド様だ……」
    「まあ、悪い気はしない」

     ソファに腰を下ろし、スリッパを蹴飛ばしてしまうと吸血鬼はくじ引きのように紙袋へと腕を突っ込んだ。無作為に取り出したファンレター。封を開き便箋を取り出すと、丁寧にしたためられた文字の列をなぞった。一通り目を通した後で再び腕が伸ばされる。次にハイドが掴み取ったのは厚みのある化粧箱だった。リボンを解けば、中には宝石にも見紛うチョコレートが敷き詰められていた。どれにしようかと迷う指先。気まぐれに選んだ一つを口の中に放り込んだ時、ガラがおもむろに通勤カバンを漁り始めた。
    1853

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    last_of_QED

    DOODLE【10/4】ヴァルバトーゼ閣下🦇お誕生日おめでとうございます!仲間たちが見たのはルージュの魔法か、それとも。
    104【104】



     人間の一生は短い。百回も歳を重ねれば、その生涯は終焉を迎える。そして魂は転生し、再び廻る。
     一方、悪魔の一生もそう長くはない。いや、人間と比較すれば寿命そのものは圧倒的に長いはずであるのだが、無秩序混沌を極める魔界においてはうっかり殺されたり、死んでしまうことは珍しくない。暗黒まんじゅうを喉に詰まらせ死んでしまうなんていうのが良い例だ。
     悪魔と言えど一年でも二年でも長く生存するというのはやはりめでたいことではある。それだけの強さを持っているか……魔界で生き残る上で最重要とも言える悪運を持っていることの証明に他ならないのだから。

     それ故に、小さい子どもよりむしろ、大人になってからこそ盛大に誕生日パーティーを開く悪魔が魔界には一定数いる。付き合いのある各界魔王たちを豪奢な誕生会にてもてなし、「祝いの品」を贈らせる。贈答品や態度が気に食わなければ首を刎ねるか刎ねられるかの決闘が繰り広げられ……言わば己が力の誇示のため、魔界の大人たちのお誕生会は絢爛豪華に催されるのだ。
    3272

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    last_of_QED

    DONEディスガイア4で悪魔一行が祈りに対して抵抗感を露わにしたのが好きでした。そんな彼らがもし次に祈るとしたら?を煮詰めた書き散らしです。【地獄の祈り子たち】



    人間界には祈る習慣があるという。どうしようもない時、どうすれば良いか分からぬ時。人は祈り、神に助けを乞うそうだ。実に愚かしいことだと思う。頭を垂れれば、手を伸ばせば、きっと苦しみから助け出してくれる、そんな甘い考えが人間共にはお似合いだ。
    此処は、魔界。魔神や邪神はいても救いの手を差し伸べる神はいない。そもそも祈る等という行為が悪魔には馴染まない。この暗く澱んだ場所で信じられるのは自分自身だけだと、長らくそう思ってきた。

    「お前には祈りと願いの違いが分かるか?」

    魔界全土でも最も過酷な環境を指す場所、地獄──罪を犯した人間たちがプリニーとして生まれ変わり、その罪を濯ぐために堕とされる地の底。魔の者すら好んで近付くことはないこのどん底で、吸血鬼は気まぐれに問うた。

    「お言葉ですが、閣下、突然いかがされましたか」

    また始まってしまった。そう思った。かすかに胃痛の予感がし、憂う。
    我が主人、ヴァルバトーゼ閣下は悪魔らしからぬ発言で事あるごとに俺を驚かせてきた。思えば、信頼、絆、仲間……悪魔の常識を逸した言葉の数々をこの人は進んで発してきたものだ。 5897

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    CAN’T MAKE十字架、聖水、日の光……挙げればきりのない吸血鬼の弱点の話。おまけ程度のヴァルアル要素があります。【吸血鬼様の弱点】



    「吸血鬼って弱点多過ぎない?」
    「ぶち殺すぞ小娘」

    爽やかな朝。こともなげに物騒な会話が繰り広げられる、此処は地獄。魔界の地の底、一画だ。灼熱の溶岩に埋めつくされたこの場所にも朝は降るもので、時空ゲートからはささやかに朝の日が射し込んでいる。

    「十字架、聖水、日の光辺りは定番よね。っていうか聖水って何なのかしら」
    「デスコも、ラスボスとして弱点対策は怠れないのデス!」
    「聞こえなかったか。もう一度言う、ぶち殺すぞアホ共」

    吸血鬼の主人を敬愛する狼男、フェンリッヒがすごみ、指の関節を鳴らしてようやくフーカ、デスコの両名は静かになった。デスコは怯え、涙目で姉の後ろに隠れている。あやしい触手はしなしなと元気がない。ラスボスを名乗るにはまだ修行が足りていないようだ。

    「プリニーもどきの分際で何様だお前は。ヴァル様への不敬罪で追放するぞ」

    地獄にすら居られないとなると、一体何処を彷徨うことになるんだろうなあ?ニタリ笑う狼男の顔には苛立ちの色が滲んでいる。しかし最早馴れたものと、少女は臆せず言い返した。

    「違うってば!むしろ逆よ、逆!私ですら知ってる吸血鬼の弱 3923

    last_of_QED

    DOODLE【10/4】ヴァルバトーゼ閣下🦇お誕生日おめでとうございます!仲間たちが見たのはルージュの魔法か、それとも。
    104【104】



     人間の一生は短い。百回も歳を重ねれば、その生涯は終焉を迎える。そして魂は転生し、再び廻る。
     一方、悪魔の一生もそう長くはない。いや、人間と比較すれば寿命そのものは圧倒的に長いはずであるのだが、無秩序混沌を極める魔界においてはうっかり殺されたり、死んでしまうことは珍しくない。暗黒まんじゅうを喉に詰まらせ死んでしまうなんていうのが良い例だ。
     悪魔と言えど一年でも二年でも長く生存するというのはやはりめでたいことではある。それだけの強さを持っているか……魔界で生き残る上で最重要とも言える悪運を持っていることの証明に他ならないのだから。

     それ故に、小さい子どもよりむしろ、大人になってからこそ盛大に誕生日パーティーを開く悪魔が魔界には一定数いる。付き合いのある各界魔王たちを豪奢な誕生会にてもてなし、「祝いの品」を贈らせる。贈答品や態度が気に食わなければ首を刎ねるか刎ねられるかの決闘が繰り広げられ……言わば己が力の誇示のため、魔界の大人たちのお誕生会は絢爛豪華に催されるのだ。
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    last_of_QED

    DONER18 執事閣下🐺🦇「うっかり相手の名前を間違えてお仕置きプレイされる主従ください🐺🦇」という有難いご命令に恐れ多くもお応えしました。謹んでお詫び申し上げます。後日談はこちら→ https://poipiku.com/1651141/5571351.html
    呼んで、俺の名を【呼んで、俺の名を】



     抱き抱えた主人を起こさぬよう、寝床の棺へとそっと降ろしてやる。その身はやはり成人男性としては異常に軽く、精神的にこたえるものがある。
     深夜の地獄はしんと暗く、冷たい。人間共の思い描く地獄そのものを思わせるほど熱気に溢れ、皮膚が爛れてしまうような日中の灼熱とは打って変わって、夜は凍えるような寒さが襲う。悪魔であれ、地獄の夜は心細い。此処は一人寝には寒過ぎる。

     棺桶の中で寝息を立てるのは、我が主ヴァルバトーゼ様。俺が仕えるのは唯一、このお方だけ。それを心に決めた美しい満月の夜からつゆも変わらず、いつ何時も付き従った。
     あれから、早四百年が経とうとしている。その間、語り切れぬほどの出来事が俺たちには降り注いだが、こうして何とか魔界の片隅で生きながらえている。生きてさえいれば、幾らでも挽回の余地はある。俺と主は、その時を既に見据えていた。堕落し切った政腐を乗っ取ってやろうというのだ。
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