meow,meow九莇版ワンドロワンライ一本勝負　( @kuaza_dr_wi_1 )
「猫」

◇◆──────────

「なぁ九門」
「なに？」
「今度の休みさ…」
　呼ぶとすぐに反応するところが、犬に似ているな、と莇は思う。遊びの予定を提案すると、目を輝かせながら「うんうん！」と頷いて、まるで尻尾を振っているみたいだ。去年までは九門の方から誘ってくるばかりだったからなのか、こうやって莇の方から誘うと大げさなくらいに喜ぶ。莇は九門のその顔が嫌いじゃなかった。
「いいね、行こ行こ！」
　土曜日に映画を観に行くことになった。九門が面白いと言っていた漫画を原作としたアニメ映画だ。莇はその漫画を電子書籍で買って、スマートフォンで読んだ。少々残酷なシーンがあるが、ストーリーがよくできていて面白いのだ。それに九門と同じものを面白いと感じられることが嬉しくて、最新巻まで読み切るのにそう時間はかからなかった。
「うわー、すげぇ楽しみ！　でもオレ絶対泣いちゃうんだけど！　原作のあのシーン悲しすぎない⁉︎」
「ちゃんとハンカチ持ってけよな」
　映画の上映はちょうどこの週末からだ。もしかしたら九門は同級生の誰かと既に観に行くつもりかもしれないと思って、断られたときにどう返すかも少し考えていたけれど、杞憂だった。休みの日まで自分と一緒でいいのかと、莇は少し心配になった。

「……あ、なぁ」
　莇は足を止めて、目に留まった看板を指差した。『オススメ！角煮まん』。
「あ、角煮まん！　食べる？」
「おー」
　九門は角煮まん、莇は普通の肉まんを買った。
「あれ？　莇、角煮まん食べたいんじゃなかったの？」
「いや、九門が食うかと思って」
「そうなの？　じゃ、半分こしよ…って、あっつ！」
　手で割ろうとしたけれど、熱すぎたらしい。莇は九門の持つ角煮まんに直に噛みついて、一口ぶんだけもらった。もぐもぐ咀嚼しながら自分の肉まんを差し出して、今度は九門がかぶりつくのを眺めた。制服姿で九門と寄り道できるのはあとどれくらいだろう、と考えながら。

「なぁ、次の夏組公演のさ」
　別に、今話さなくてもいい話題だったけれど、九門がうんうん、と楽しそうに相槌を打つものだから、莇は試したい髪型のことを話した。
「いいじゃん、それ椋に似合うと思うよ！　早速今日帰ったらやらせてもらいなよ！」
　普段はあまり自分から話す方ではないのに、九門と居るときは話をしたくなるのはなぜなのか。手元の肉まんがどんどん小さくなっていく。

「なぁ九門……」
「なになに？」
「あ、いや」
　話しかけて、莇は口を閉じた。さすがに喋りすぎだと思ったからだ。
「ねぇ莇、こっち向いて」
　黙った莇を不思議がるでもなく、九門はそう言った。呼ばれるままに横を向くと、九門の左手が伸びてきた。顔にゴミでも付いているのだろうかと素直に目を閉じると、顎の下にさわさわとした感触があって、莇は驚いて肩を跳ねさせた。
「うわっ！　なんだよ急に…」
「ん〜？」
　九門はニヤニヤと微笑むばかりで、莇には九門の行動の意図がわからない。
「なんか、似てるな〜って、思って」
「はぁ？　何にだよ」
「怒りそうだから言わな〜い」
　莇は首を傾げる。九門は構わずその手を莇の頭にのせて、今度は動物でも愛でるようにやわらかく撫でるのだった。

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