ラッピングはいかがですか◇◆──────────
莇は悩んでいた。
誕生日でも何でもないプレゼントにリボンを付けるか付けないかを、である。
レジに差し出したセーターは、店員の手によって一瞬で綺麗に畳まれた。現金で会計を済ませた後、店員に「ご自宅用ですか」と聞かれた莇は、「いえ」と短く答えた。すると店員は続けてこう尋ねた。
「プレゼント用でしたら、有料になりますがラッピングはいかがですか?このようにリボンもお付けいたします。こちらの三種類の色からお選びいただけますよ」
三色のリボンを見て、莇は顎に手を当てて考え込んだ。店員は莇がどのリボンにしようか悩んでいるのだと思ったろうが、実のところ莇はもっと前の段階で二の足を踏んでいた。
(プレゼントはプレゼントだけど、「リボンをお付け」したらあまりにもガチっぽくないか?)
莇はこのセーターを、友人に渡すつもりで購入した。友人というのは、同じ劇団の仲間で高校の先輩でもある兵頭九門のことである。
数週間前に九門と学校帰りに寄り道をした時、マネキンが着たセーターを指差して、九門が「ああいうのを着こなせるようになりたい」と言ったのだ。ローゲージのセーターは、確かに九門が持っている服にはなかった。
「いいんじゃね」
その時、莇はこう言った。九門はそれを聞いて「お前には似合わねーって言われると思った!」と驚いてみせた。
莇は実際に似合うと思ったから言ったし、九門もおそらくそれがわかっていた。しかし九門があの服を自分で買うことはないのだろうと、莇には簡単に想像がついた。
九門の誕生日にはもうとっくに別のプレゼントを渡した。夏組の公演成功祝いにしても少し遅い。しかし、あのセーターが、一つも九門に着られることなく売り切れてしまったら、こんなに勿体ないことはないと莇は思った。
莇は九門のことが好きだった。顔も、声も、性格も、演技も、野球が好きなところも、全てが愛おしいと思えた。その感情は莇にとって汚いものでは決してなかったけれど、莇自身が「破廉恥だ」と言ってきた「恋愛感情」というものに限りなく近かった。
今まで何度か「九門のことが好きだ」と言ってしまいたくなったことがあるが、莇はその度に心の中に仕舞い込んだ。言ったところで九門を困らせるだけだろうし、自分自身が貫いてきた考え方を簡単に曲げることには抵抗があったからだ。
莇は、このなんでもないプレゼントにリボンを付けてもらうことで、自分の気持ちが九門に伝わってしまうのではないかと懸念した。普通のショッピングバッグに入れて渡す方がずっと気楽だ。
九門は、金額を上乗せしてまでラッピングされた包みを見て、引いたりしないだろうか。不安ではあるけれど、三種類のリボンのうちの一つが九門の瞳の色とよく似ていて、それが莇をさらに悩ませた。
「…いかがなさいますか?」
なかなか決められない莇に痺れを切らした店員が、控えめに問いかける。
「お願いします」
ほとんど勢いだった。
セーターは新品の袋に包まれて、さらに黄色いリボンを掛けられていく。やってしまった、と思うのに、莇の心臓はなぜかじわじわと温かくなった。
(まあ、でも)
莇は己に言い聞かせる。
(こんなんで気づくわけないよな)
◇◆
九門は動揺していた。
誕生日にはもうとっくに別のプレゼントをもらっていて、夏組の公演成功祝いにしても少し遅い。そんな時に、プレゼントをもらったからである。
黄色いリボンが掛けられた袋は触ると柔らかくて、中に入っているのは服だとすぐにわかった。ブランド名は見慣れたもので、どの店舗で買ったのかも容易に見当がついた。
九門は同室の三角に尋ねた。
「友達にあげるものに、普通ラッピングってしますか?」
三角はうーん、と考えてから、「大好きな人だったら、すると思う!」と答えた。続けて、「プレゼントを貰ったら、素直に喜んでいいんだよ!」と言った。三角は九門が誕生日でもないのにプレゼントを貰ったことを引け目に感じているのだと思ったろうが、実のところ九門の動揺の原因は別のところにあった。
(このお店のラッピングって有料だよね?わざわざリボンまで付けてもらったってことだよね?オレに渡すために…)
九門はこのプレゼントを、ある友人から受け取った。友人というのは、同じ劇団の仲間で高校の後輩でもある泉田莇のことである。
数週間前に莇と学校帰りに寄り道をした時、九門はマネキンが着たセーターを指差して、「ああいうのを着こなせるようになりたい」と言った。編み目のざっくりしたセーターは九門が持っている服にはなかった。
「いいんじゃね」
その時、莇はそう言った。九門はそれを聞いて「お前には似合わねーって言われると思った!」と驚いてみせた。
莇は実際に似合うと思ったから言ったのだろうと九門にはわかっていた。しかし九門は、あのような大人っぽい服を購入する勇気がどうしても出なかった。
その日の莇はずっと何か言いたそうにしていて、九門は謙遜とはいえ莇が勧めてくれたのに受け流してしまったことを申し訳なく思った。
九門は莇のことが好きだった。顔も、声も、性格も、演技も、メイクが好きなところも、全てが愛おしいと思えた。その感情は九門にとって汚いものでは決してなかったけれど、莇が「破廉恥だ」と言っていた「恋愛感情」というものに限りなく近かった。
今まで何度か「莇のことが好きだ」と言ってしまいたくなったことがあるが、九門はその度に心の中に仕舞い込んだ。言ったところで莇を困らせるだけだろうし、何より莇自身の考え方を尊重したかったからだ。
九門は、リボンの掛けられた包みを見て、もしかして自分の思いと同じものを莇が抱いているのではないかと期待した。
莇は、普通のショッピングバッグで渡した方がずっと気楽なはずなのに、料金を上乗せしてまで、ラッピングすることを選んでくれた。しかも、リボンの色は九門の瞳の色によく似ていて、それが九門をさらに惑わせた。
「…開けないの?」
なかなか包みを開けない九門を不思議に思った三角が、控えめに問いかける。
「あ、開けます!」
ほとんど勢いだった。
黄色いリボンを解いて、新品の袋を開けると、中から出てきたのはやはり、あのセーターだった。莇と一緒に見た服なのだから、これが入っているのは自然なのに、九門の心臓はなぜかどきどきと高鳴った。
(まあ、でも)
九門は己に言い聞かせる。
(まさか、そんなわけないよね)
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