『アイコンタクト』
ひなたくんはこういうのが上手いな、と思う。不器用な俺はこんな風に目配せしても上手く伝わらず、結局声に出した方が早くなるからだ。
――ねぇ、そろそろこの講習会抜け出さない? 飽きてきちゃったよ。
――駄目ッスよ。いくら出入り自由だからって人が喋ってるのに。
俺が目線で訴えれば、ひなたくんは唇を尖らせる。なんだかそれが子どもっぽく見えて思わず笑ってしまったら、ひなたくんも何故か勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
『夏休み』
「鳴上先輩は夏休み家に帰るんスか?」
「そうねェ……あまり日はないけど1日くらいは帰ろうかしら。鉄虎くんはどうするの?」
「それが迷ってるんスよね~……早く決めないといけないんスけど」
鉄虎クンが苦笑してそう言う理由は【アイドルロワイヤル】のことだけが原因ではないだろう。
「ご両親はお盆休みはありそうなの?」
「あるのはあるみたいなんスけど……俺と予定が合うかどうか……」
「それなら顔だけでも出しておいたら? きっと喜ぶと思うわよォ?」
きっとご両親も中々会えない鉄虎クンのことを心配しているだろうし。ここで背中を押すのは同質であるアタシの役目だ。
『夕焼け』
「うわぁ……! 綺麗ッスね……!」
思わず感嘆の声を上げると、一彩くんは満足そうに頷いた。
「ウム、とっても綺麗だね!」
「一彩くんが見つけたんじゃなかったんスか?」
「マヨイ先輩に教えてもらったんだよ。藍良が『映える』って喜んでたね! ……ここで綺麗な夕焼けを見ていると故郷を思い出すんだ」
懐かしい気持ちになった後、また明日も頑張ろうと思えるからここに来るのだと一彩くんは笑った。……俺は懐かしい気持ちにはならないけれど、心が澄んでいくような心地がする。一彩くんの故郷を見た時も俺は同じことを思うのだろうか。