歳上のお姉さん(概念)「それで、本能寺が燃えるわけです」
瘴奸の言葉に常興は筆を置いて顔を上げた。書き損じてしまった紙を丸めて、瘴奸に向かって投げる。丸めた紙は真っ直ぐに飛んだが、瘴奸をすり抜けて後ろにあった柱に当たった。瘴奸はだらしなく寝転んだまま、転がっていく紙屑へと視線を向ける。
「何度も言うようですが、私は幽霊なので触れませんし、物を投げても当たりませんよ」
「わかっておるわ」
死んだはずの瘴奸が初めて常興の前に姿を現したのはいつだったか。瘴奸が小笠原にいたのはたった二年だが、死んでからも幽霊となって居座っている。
「そう苛立っては血圧が上がりますよ。塩分を控えて野菜を摂ると良いとか」
常興は更に苛立って瘴奸を睨んだ。あの世で未来の知識にかぶれた瘴奸は、何かと常興に知識を披露したがる。はっきり言って鬱陶しかった。
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