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    そのこ

    @banikawasonoko

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    文責 そのこ

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    ⓒKonami Digital Entertainment

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    そのこ

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    アナベルとフリック。アナベルさん、ビクトールはもう二度と隣に誰かを置かないと思ってたのにフリックがいてビビったろうな。これはビクフリの文脈です。

    #ビクフリ
    bicufri

    2025-04-24


     定例の報告会の後、少し時間が余ってしまった。次の予定まで、アナベル自身も時間があったし、今日は一人で来たフリックもまたすぐに帰らねばならぬ事もないらしい。茶を淹れてしゃべるといっても、お互いにどうしても共通の知人の話になる。
     フリックはどうやら昔の話を殆ど聞いていないらしい。ただ故郷を滅ぼされ、誰にも頼らずに復讐の旅に出た。どうして誰も頼らなかったのか、忘れてしまうことは出来なかったのか。
     10年前のビクトールが、どれだけ暗い目をしていたか。
    「解放軍の頃はそりゃあ信用できない顔してたけどな」
    「でもするっと懐にはいるんだろう」
    「そう。だからこそ俺は嫌いだったけどな」
     笑うフリックの表情はどこか甘さが勝つ。容貌のやわらかさと言うよりも、ビクトールに向ける感情に、言葉ほどのとげのなさから来る甘さなのだろう。もう帰ってこないと思っていたビクトールが、隣国からたった一人連れ帰ってきた男は、その事実の重さと甘さには何も気づいていないようだった。
    「変わらないんだねえ、そういう芯のところは」
     すこし冷めた茶をすする。ティーポットの中身ももう空だがもう一杯淹れるには少し時間が無さそうだった。もう少し話していたいが、お互いに忙しい身だ。
     時計を見やったアナベルは、ふいに名を呼ばれて視線を戻した。フリックのカップももう空いていて、このお茶会がお開きになることは彼も多分察している。
    「今にして思えば」
     だからこれは、最後に思いついた程度の言葉だ。
    「アナベルさんが待っているのに、随分と薄情ではあるな」
     唇の端を上げるべきか、下げるべきかアナベルはわずかに迷った。おかしな表情になったのは、それこそフリックが本当に少しだけ眉を上げて目をすがめた事で分かってしまう。
     待っている。10年前、確かにアナベルはビクトールにそう言った。故郷も家族も許嫁も全部全部失ったビクトールは、まるで死にに行くかのような顔で吸血鬼を探しにいくと言った。
     着いてきてくれとも戻ってくるとも、ましてや待っていてくれ、などたったの一言も、ほんのわずかな目配せさえもアナベルには向けられなかった。もし殺されたのがアナベルで、ノースウィンドウでの何か一つでも残っていれば、ビクトールはきっとノースウィンドウを優先した事だろう。
    「待っていたんだよ、私が、勝手に」
     誰かを隣に置くことはもう二度とないのだろうと勝手に思っていた。それだけビクトールに空いた穴は大きかったし、アナベルにその穴は塞げなかった。
     失言か、そうでないかと言われれば、この男にだけは言われたくはない言葉ではあった。何も分かっていないだろうに、うっかりかもしたアナベルの雰囲気だけを理由に謝ったフリックに、アナベルは笑ってみせる。
    「大した話でもないさ。ほら、茶菓子も食べなさい」
     だれも隣に置かない。ビクトールの隣には過去だけがあって、そこを埋めるものは永久に存在しないと自分を納得させていたのに、差し出した菓子をなんだか困ったように頬張る優男がその穴を埋めた。
    「おいしいかい」
    「ああ」
     昔、ミューズに来た時にビクトールも気にいっていた茶菓子だ。土産にたんと持たせてやろう。
     
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    そのこ

    DOODLEアナベルとフリック。アナベルさん、ビクトールはもう二度と隣に誰かを置かないと思ってたのにフリックがいてビビったろうな。これはビクフリの文脈です。
    2025-04-24


     定例の報告会の後、少し時間が余ってしまった。次の予定まで、アナベル自身も時間があったし、今日は一人で来たフリックもまたすぐに帰らねばならぬ事もないらしい。茶を淹れてしゃべるといっても、お互いにどうしても共通の知人の話になる。
     フリックはどうやら昔の話を殆ど聞いていないらしい。ただ故郷を滅ぼされ、誰にも頼らずに復讐の旅に出た。どうして誰も頼らなかったのか、忘れてしまうことは出来なかったのか。
     10年前のビクトールが、どれだけ暗い目をしていたか。
    「解放軍の頃はそりゃあ信用できない顔してたけどな」
    「でもするっと懐にはいるんだろう」
    「そう。だからこそ俺は嫌いだったけどな」
     笑うフリックの表情はどこか甘さが勝つ。容貌のやわらかさと言うよりも、ビクトールに向ける感情に、言葉ほどのとげのなさから来る甘さなのだろう。もう帰ってこないと思っていたビクトールが、隣国からたった一人連れ帰ってきた男は、その事実の重さと甘さには何も気づいていないようだった。
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