12/24万年ペーパードライバー「そういえば、君は運転できるんだっけ」
昼時、メフィスト様に聞かれた。私はすんっと真顔で少し考えてから、
「免許は持ってます」
と、事実のみを伝える。
「苦手?」
「……得意では、ないです。その……理論上可能、くらいの腕前だと思ってもらえれば」
そう言うとメフィスト様の顔がめちゃくちゃ優しくなった。ほんとすみません。
「そっか。じゃあ明日はタクシー呼ぼうね」
すみません!!! ちなみに明日は大貴族会である。アムリリス様が主催で私にも招待状をいただいたので久しぶりに貴族みたいな顔をせねばならないし、挨拶やなんかもメフィスト様と並んでする必要がある。
……というか、この方は私をなんと言って紹介する気なんだ? 正確な私の肩書は悪魔学校6年生であり、メフィスト様の秘書(研修中)である。それを馬鹿正直には言うまいと思うけど、じゃあ、なんなのかは謎のまま……。
まあ、なんでもいいので、タクシーの手配をしたり明日の衣装の手入れをしたりする。大貴族会様にちゃんとした、いつもとは一桁違う衣装を仕立ててある。私の分もメフィスト様とお揃いのデザインで仕立てられていて、嬉しいけやら気恥ずかしいやら、あまり直視出来ずにいる。
「今いい?」
「はあい」
衣装部屋の入り口にメフィスト様が顔を出す。入ると着せ替えられるからと中に入ってくれないのだ。
「13月中に運転の練習しようか。出来た方がいいでしょ」
「そうですけど、お付き合いいただくのは申し訳ないですし危ないので、他の方にお願いしますよ。オペラさんとか」
「は? 俺以外を助手席に乗せるって言ってる?」
怖い怖い! ただの練習!
「オペラさんならヒトを乗せての運転に慣れていらっしゃるからいいかなって思ったんですけど」
「ダメ」
「ダメですか」
「ダメです。俺が付き合います」
圧が強いなあ。私は左様ですかと頷くことしか出来ない。
「一応聞くけども、誰か他に乗せたことある?」
「教習所の鬼教官くらいですね」
「それは仕方ないから、まあ、いいか」
それすら嫌そうなのめっちゃウケるし、かわいい方だ。
「じゃあ練習、お願いします」
「喜んで」
ニコーっとするメフィスト様に、私は事故らないように頑張ろうと思うのだった。……善処しますが、期待はしないでほしい。