2/20それが、人形だとしても、だ「なに、それ」
バビルスから出てきた彼女の肩に、謎の生き物――らしきものが乗っていた。
「これはメフィぬいです」
「メフィぬい?」
ドヤっとした彼女は可愛かったけど、肩に乗っているそいつまでドヤ顔でこちらを見ている。――なんだ、こいつ。
「――と、言うわけでして。私が魔力を込めたらメフィスト様の姿になりました」
「君が考える俺が、こんな感じってこと? ……なるほど」
指でそいつを突こうとしたら、小さい手で叩かれた。
「捨ててくる」
つまみ上げたら、素早く取り返される。
「な、ダメですよ! こんなにかわいいのに!」
「俺の方がかわいいでしょうが!」
彼女は「なに言ってるんですか」と、呆れた顔で家の方へ歩き出す。肩に乗るぬいぐるみが、やっぱりドヤ顔で振り返ってきて、腹立たしい。
いやいや、あんなぬいぐるみ相手に怒るのも大人気ない。彼女に追いつくと当たり前のように手が差し出されるので指を絡めた。
「それ、連れて帰るの? 俺以外の男を家に入れないでほしいんだけど」
「魔力でこの姿にしているだけですので、一日で元のまっさらなぬいぐるみにもどりますよ」
「……つまり、俺が魔力を込めたら君になる?」
「……私のことを考えていれば、そうですね」
「貸して」
「嫌ですけど!?」
彼女が身を引くのと同時に、ぬいが彼女の髪の中に隠れた。
そこに触れていいのは俺だけだ。
「ねえ」
「……はい」
「出して、それ」
「そんなに怒らなくても。そもそもこの子に性別とかないですよ」
彼女が髪の中からぬいを引っぱり出す。
そいつは怯えてるのかなんなのか、彼女の指にしがみついている。
「……それ、君が考える俺なんだよね? つまり、君から見た俺だ」
「……そうとも、言えますね」
彼女はうつむいてしまったけど、耳が真っ赤になっている。
「想像の俺じゃなくて、本物を見てほしいな。想像よりずっと離れないから」
「……そういうとこですよ」
ぬいの頭を掴むと激しく抵抗される。もし俺が彼女から引き剥がされそうになったら、俺が激しく抵抗するのだと、彼女は思ってくれているらしい。
――惜しい。
正解は「俺と彼女の間にそもそも他人を挟まない」だ。ぬいに僅かな魔力を流しこむ。それはまっさらなぬいぐるみに戻った。