2/24無限に菓子を食べさせたくなる 風呂上りに厨房に行くと、秘書がカウンターの下に潜っていた。
「なにしてるのさ」
「メフィストさまぁ」
声をかけると、メソメソしながら出てきた秘書の顔はいつもとは違って悲しそうだ。
「どしたの」
「メフィスト様にもらったピアスが一個どっかいっちゃって」
よれよれしながら擦り寄ってきて、珍しいしかわいい。
俺があげたものを一つ無くしたくらいで、そんなにしょげなくても。
「また買ってくるよ」
「そういう問題じゃないんです! 気に入ってずっと着けてた、あれがいいんです!!」
かわいいことを言う。
どうやら、ずっと着けていたらピアスのキャッチャーが緩くなっていて、いつの間にか外れていたらしい。
「昼ごはんの後にはあったんです。それに今日は家を出ていないので、絶対にどこかにあるはずなんですよ」
「寝室は?」
「なかったです」
「食堂は?」
「なかったです。あと探しきれていないのは厨房と脱衣所です」
それじゃあと、一緒に脱衣所へ向かう。
でも落としたのが浴室だと、俺が入っちゃったから流れてるかも。ピアスだと小さすぎて、魔術で探すのも難しいし。
「魔術で探した?」
繊細な探索の魔術なら俺よりも彼女の方が得意だ。しかし彼女は首を横に振る。
「なかったです。だから、床じゃなくてどこかに引っかかっているのかも」
「どこかに――あ」
あった。彼女のスーツの首のところに引っかかっている。
「はい」
「わ、ありがとうございます!!」
彼女は目を丸くしてピアスを受け取る。新しいキャッチャーを取ってくると、いそいそと走っていくのを眺めてから、俺は髪を乾かして待つ。
「着けてきました!」
「うん、よかったね」
ニコニコぺかぺかと満面の笑みの彼女がこちらを見上げている。可愛いから捕まえて鼻をかじる。
「えっ、痛い」
「今度、またピアス買ってくるね」
「今ので間に合ってますよ」
「俺が着けてあげたいんだよ」
ちょっとしたことで、すぐに喜ぶから。もっともっとと与えたい。その気持ちは別に伝わらなくても構わないんだ。