ハチャメチャに甘やかされている自覚は、ある 今夜は爪隊の新人歓迎会、なんて名ばかりの飲み会!
下っぱのあたしは下座で、飲み物を頼んだりお皿を回したりしている。隣にはバディを組んでいる准尉。中堅の先輩なのに、なんでこんな隅っこに?
「准尉、なんでこんな端っこにいるんですか?」
「うるせえ中に混ざりたくないから。あとお前のダーリンからよろしく言われてるから」
「アザミく……アミィ様にですか?」
「そ。なんなの、アザミ様。過保護?」
「過保護ですかね? 甘いのはそうなんですけど」
「上官と後輩ののろけとか聞きたくねえな……」
そう言いながら、准尉はグラスや皿を片付けてくれる。
メインの肉料理もほぼ無くなり、ごはんものを配ったころ、准尉とあたしの間に先輩が来た。
「おつかれーっす。准尉、ここいいッスか?」
「ダメ。こいつのダーリンから釘渡されてるから」
「は? 釘?」
准尉がニヤッと笑う。
「図々しい間男くんにはそろそろ釘刺しておかないと、ってね。本人に言われる前に引いとけよ」
「……そもそも、彼氏と別れたって話あったけど、どうなの?」
先輩がこちらを見る。またそれ? 前にも否定したのに。
「別れてません。死んでも別れません。同じお墓予約してるんで」
「おっも」
准尉がゲラゲラ笑う。つられて、うへへと、笑っちゃう。
「その割には大佐とも距離近いじゃん。浮気?」
「大佐?」
誰? キマリス様? そんなに近かったっかな?
「アミィ大佐だよ! 幼馴染なんだっけ? それ、彼氏的にアリなの? 大佐がいいなら、俺も良くない?」
……何言ってんの? 准尉は相変わらず笑ってる。
「准尉、准尉。先輩は何言ってるんですか?」
「俺に聞くなよ。お前のダーリンの名前を知らねえんだろ?」
「ああ、そういうことですか! そろそろ迎えに来るんで、紹介しますよ」
「え、来るの? 過保護!!」
また笑い出した准尉を無視して、キマリス様に先に帰ると挨拶する。キマリス様にも過保護だと笑われた。そんなことないよ、あたしが会いたがるから、甘やかしてくれてるだけだよ。
店を出ると先輩と准尉が付いてくる。ちょうどアザミくんが降り立ったところだった。羽をしまって、認識阻害メガネを外すのを待つ。
「もういいのか」
「うん。帰る」
アザミくんの腕に手を絡めて、振り返る。
「先輩、紹介しますね。あたしの彼氏……んー、婚約者です」
「え、は? アミィ様が……彼氏!? 婚約者!?」
「そです。最強かっこいい、あたしのダーリンです」
先輩は目を白黒させている。別に明言してなかったけど、隠してもなかった。何で気づかなかったのかな。
アザミくんが准尉を軽く睨んだ。
「釘を刺しておくよう言ったはずだが?」
「そいつがバカ過ぎて刺さんなかったです。本人があしらってるんだから、大丈夫ですって」
「……まあいい。行くぞ」
「はーい。お疲れ様でした!」
「まあ、説教くらいはオマケでしときますよ。キマリス様と」
「はっ!?」
准尉が先輩の首根っこを掴んだ。あたしは羽を広げて、ふわっと浮く。
「アザミくん、迎えにきてくれてありがとう。あたしもアザミくんが飲み会のときは迎えに行くね」
「来なくていい」
「やだやだ、あたしも牽制したい!」
「……いらないだろう」
「いるの!」
二人で並んで飛ぶ。春の終わりの風が、ひんやりと吹き抜ける。