左側が温かい 13冠は忙しい。新米ともなれば、あちこちに顔を出して挨拶をしたり、愛想も振りまく。もちろん、面倒にならない範囲で、だけど。
そうやって忙しくするのも嫌いじゃない。でも、そのぶん彼女との時間が減ってしまう。
それでも今日はなんとか早めに切り上げられて、彼女も勤め先近くのショッピングモールで待ち合わせた。
「この辺りかな」
彼女からはもう着いたと連絡があった。待ち合わせの場所であたりを見回す呂と、いた。
駆け寄ろうとしたとき、別の男が彼女に声をかけた。
「……」
思わず足が止まる。
彼女は笑顔で何かを答えている。
羽管と尻尾の付け根が、ずしりと重くなった。
拳を握ると、爪が手のひらに食い込んだ。
男の手が彼女に伸びるのが見えた瞬間、足が動いた。
「この子に、なにか?」
彼女の目が大きくなる。何度か瞬いて、ニッコリ微笑む。
「あっ、メフィ……、大丈夫、こちら、会社の先輩」
「えっ、あ、失礼しました」
「いえ、こちらこそお待ち合わせの邪魔をして申し訳ない。失礼します」
男はそつのない笑顔で、その場を離れた。
気まずくなって彼女を見ると、さっきまでの外向き用じゃない、少し呆れた笑顔で俺を見上げていた。
「今の悪魔ね、会社の先輩」
「……うん」
「来年、娘さんがレビアロンに入学するから、記念に降誕祭を開くんだって」
「え……」
「だから、贈り物を買うならどこがいいか聞かれてたの」
「……ごめん」
「いいよ」
彼女は俺の手を取って歩き出し、すぐに立ち止まって手を持ち上げた。
「まったく、メフィストは馬鹿だな」
彼女の指が手のひらに触れて、じんわりと温かくなる。痛みが引いて、そっと握られる。
「ごはんを食べてからにしようと思ってたけど、すぐにメフィストの家に行く?」
「……いや、ごはん食べてからにしよう。俺と会えなかった間、どんなことがあったか聞かせて」
「いいの?」
キョトンとした顔で見上げられた。
いいんだよ。本当は今すぐにでも連れ帰ってベッドに押し倒したいけど、嫉妬にまかせて抱き潰すなんて、かっこ悪いことはしたくない。
好きな子には優しくしたいんだ。
「うん。美味しいもの食べよう。お酒とつまみを買って帰って、家でダラダラして、他にすることがなくなったらベッドに行こう」
「わかった」
にこにこ笑う彼女に手を引かれた。
指を絡めて肩を寄せると、ようやく安心できた。