なんで、わたしだけ アオガミは常に少年の側に居る。それは、ダアトに限らず東京でも――学校でもそうだ。
付かず離れず、少年を守る。それがアオガミの使命であり、彼自身の望みであるから。
そんな、ある日のこと。
「……」
下校の時刻、眼鏡を掛けた生徒に呼び止められ、少年は彼と会話を交わしていた。傍に居るが故に聞こえてくる内容はここ最近の犯人不明の凶悪事件の話。先輩も気をつけて下さいね、と生徒に声を掛けられて少年は僅かに微笑みを浮かべて頷いた。
「……?」
その瞬間、アオガミは痛みを感じた。
具体的に何処が痛むと進言する事は出来ない痛みだ。
しかし、どうにも少年が眼鏡の生徒と会話を交わしている様子を見続ける事が出来ず、アオガミは僅かに視線を逸らす。
直後に彼らの会話は終了するが、今度は別の生徒が少年に声を掛けてきた。
生徒達と少年の関係性をアオガミは知らない。しかし、人間社会で人付き合いは不可欠なもの。
少年が問題無く学生生活を送れている事実は、アオガミにとって喜ばしい事である筈であるというのに。
「アオガミ、大丈夫?」
心配そうにアオガミの顔をのぞき込む緑灰色の瞳。
アオガミが慌てて周囲を見渡すと、既に校舎の外に出ており、彼らは人気の無い細い道路を進んでいたのであった。
「少年、すまない。私は護衛を兼ねているというのに」
「謝らなくて良いよ。寧ろ、思い悩んでるアオガミの姿が珍しくて、俺の方こそここまで黙っててごめん」
「君こそ、謝る必要は無い」
「それじゃ、お互い様ってことで」
アオガミの直ぐ横に身を寄せ、少年は微笑む。
――己だけに向けられる笑顔。
自身を苛む痛みが融解していく事実に疑問を抱きつつ、アオガミはほっと息を吐き出すのであった。
(私は、少年と共に在る)
少年と日常生活を過ごす事は出来ないとしても、と。
――尚、遠くない未来の話だが。
「は?」
アオガミが感じ続けていた疎外感。
彼の心中を聞いた少年は怒りに声を荒げ、涙を流しながら叫んだ。
「アオガミが隣に居るのが俺の日常だよ!」
はらはらと大粒の涙を流す少年の体を躊躇いながらも抱きしめ、アオガミが己の"心"に巣食う負の感情と正面から正しく向き合い消化させることになるのであった。