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    Jeff

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    お題:「二回目」
    #LH1dr1wr
    ワンドロワンライ参加作品
    2023/10/15

    Southern Cross「な。言ったとおりだったろ」
     浅瀬で海水を跳ね上げる、裸足の指先。
     膝までまくった白い足は、以前より目に見えて細い。
     ああ、まあな。
     ラーハルトはしぶしぶ認めて、夕暮れの浜辺に腰を下ろす。
     
     乱気流のため気球でも到達困難な、断崖絶壁の孤島。
     小型の帆船で丸一日格闘し、やっと唯一の入江に潜り込む。
     命がけの航海ゲームをやり遂げて、島に隠された清い泉ではしゃぎ、遮るもののない絶景で朝日を浴び、割れずに無事だった蒸留酒で乾杯して。
     若さを持て余し、意味のない無謀な冒険を繰り返したあの頃は、もう何年前になるのか。
     
    「二回目はないな、などとほざいていたな、ラーハルト」
    「貴様。少しは自覚しろ。病で先が短い身で、またこんな無茶を繰り返せると誰が思う」
     そう言うと、ヒュンケルは鼻で笑った。
     つるつるした巻貝を拾い上げて、相棒に放る。
    「意外としぶとかっただろう」
     淡い紫の巻貝。なんとなく耳に当てながら、ラーハルトは砂の上で大の字になった。
    「しぶといも何も。誰が止めても嬉々として出かけようとするではないか。まったく、世話の焼ける」
    「悪かった」
     ヒュンケルはクスクス笑って、上からラーハルトを覗き込む。
     さかさまに映る痩せた頬と、夢のような夕空。
    「必ずもう一度、お前とここに来る。そう約束した」
    「そうだな」と、ラーハルトは目を閉じる。
    「いくら賭けたっけ?」
    「百ゴールド」
    「千ゴールドだ。そして俺の勝ちだ」
    「……くそ」
     懐から銀貨を一枚取り出して、ぴん、と空に放る。
    「ああ、お前の勝ちだ、ヒュンケル」
     勝者は銀貨をキャッチして、得意げに指先で転がした。
    「次は何を賭ける?」ヒュンケルがうきうきと畳みかける。
     
     その声。
     師匠やきょうだい弟子には決して見せない、傲慢で楽観的で、子供のように自由な。
     永遠にラーハルトとともに冒険を続けていられると、本気で信じているような、あの笑顔。

     ぽとり。
     銀貨は頬に落ちてきて、音もなく砂に埋もれた。

     見上げれば紫色にたなびく雲と、輝き始めた南の星々。
     体を起こし、膝を抱えて、丸い水平線を静かに眺める。
     星砂を歩む小さな蟹が、不思議そうに半魔の男を見ている。
     
     無数の人間が住むこの地上で、たった一人が見つけられない。
     永遠に失われた面影は、あらゆる場所に現れ、そしてどこにもいない。
     
     我ながら、何をしているのか分からない。
     死んだ友との旅路を辿り続けて、いったい何になるのだろう。
     それでも。
    「お前の勝ちだ」
     銀貨を握って、満ち始めた夜の海に思い切り投げる。
    「お前の勝ちだと言っているだろう。拾えよ」
     返事はない。
     
     波を蹴って走る銀色の幻が、ほんの一瞬、見えた気がした。
     南十字星の慈悲なのか、ラーハルトが創り出した幻覚なのかは分からない。
     ラーハルトは膝をつき、大きく息を吸う。
     そして、喉が枯れるまで叫び続けた。

     広大なる地上でこの場所だけは、狂おしき喪失を受け止めてくれる気がして。
     
     
     
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