僕はあの顔を見た途端、殺意が沸騰するように湧いてきた。それにより記憶の一部を思い出す。生前通っていた大学の同級生でもあり『リスト』にも載っていた顔、あいつは
「俺を殺した男・・・!」
直ぐ様ナイフを構えるが寸のところで理性を取り戻す。今いる場所は大通りで、もし殺そうものならば、パニックに包まれるであろう。それに、この時間帯では人通りが少ないとはいえ皆無ではない。そんな場所で殺人を犯すなど愚行だ。しかし、奴に復讐するチャンスでもある。ここは我慢して後をつけよう。そう思いながら尾行を続けると、彼はマンションに入っていった。ここは生前僕が住んでる部屋で今は麻里が一人で暮らしている。ベランダに回ると、都合よく麻里の部屋の窓の鍵が開いていたのでそこからお邪魔させて貰うことにした。足跡がつかないように、ハイヒールを脱いでコートにしまう。おまけにドアが開いていたので覗くと、何やら麻里と会話しているようで聞き耳を立てた。
「君のお兄さんが亡くなったことは本当に残念だけど、俺にできることがあれば何でも言ってくれよ」
「はい・・・ありがとうございます・・・」
「でも、俺もショックだったなぁ・・・同級生が死ぬなんてさ・・・」
「私、もうどうすれば良いのか分からなくて・・・」
「無理もないよ。あんな酷い殺され方されたんだからね・・・」
「はっ?」
思わず声を出しそうになるが何とか堪えた。腸が煮えくり返るほどの苛立ちを覚えた。僕のことを惨たらしく殺害した男が、まるで兄のように振る舞っていることに。すると男は続けて言った。
「君みたいな妹がいたらな~ってたまに思うことがってね~」
「・・・チッ」
我慢ならない僕は拳銃を取り出すと外に向けて二、三発撃ち、テーブルを蹴っ飛ばすとベランダを飛び降りた。もう死んでいるので何ともないが、生前なら大怪我していただろう。そして、銃声を聞いて駆けつけて来た警察官たちに男と麻里が質問されていると。
「あいつら、邪魔だな・・・」
あの男に対する憎悪と殺意が沸き上がる中、僕は計画を練った。死ぬよりも辛い地獄を味わわせてやるにはどうしたらいいだろうか?まずは麻里に危害を加えないようにしないといけない。そう考えた結果、僕は麻里を人質に取るという手段が思い浮かんできた。が、今ここでやっても意味はない。
「・・・おい、お前」
警官の一人を呼び止めて話しかけると、「はい?」と言って振り返ってきた。丁度見える人間だったので振り返ったところを
「・・・なっ」
首の付け根にナイフを深く突き刺すとそのまま引き抜いた。血飛沫を上げながら倒れる警官を見て、他の警官たちが騒ぎ始める。見えてない人間からすれば突然の血飛沫を上げて倒れたのだから何が起きたのかわからずパニックになるのは当然だ。
「何!?何が起きてるの!?」
「落ち着いて!」
麻里が不安のあまり男に抱きつき、男は麻里を抱きしめるが、その顔は恐怖に染まっている。不安を煽るには丁度いい。僕はその場を後にして、男をどのようにして惨たらしく殺すか考えながら歩み続けた。
****
「何だ、また君か。機嫌が悪いようだが何かあったのか?」
普段ならコツコツとハイヒールの音が聞こえてくるのだが、早歩きで歩いてきたため足音が違うことに気づいた。
「ああ、ちょっとな」
「まあ、そんなことより今日は何をしに来たんだい?」
「愚痴吐きだ」
普段の無機質な口調と違い、感情が籠ったような喋り方をする。いつもとは違う彼に違和感を覚えるが、彼は瓦礫に座ると溜め息をついて話し出した。
「僕を殺した相手が見つかったんですよ、誰だったと思います?自分の同級生ですよ、信じられますか?それに僕の妹に馴れ馴れしく近づいて君みたいな妹がいたらな~って聞いてるだけで腸が煮えくり返るわ!この世に生まれてきたことを後悔させるまで苦しめてやる!骨の髄まで穢して絶望の底へ叩き落としてやる!!」
普段ならこんなに口数多く話さない彼がここまで饒舌に話す姿は初めて見た。普段に光の無い無機質な目が赤い色を輝かせているのもそれほどまでに腹を立てている証拠である。
「そんなに殺したいのか?」
「ああ、死ぬよりも恐ろしい苦しみを与えてやりたいくらいに」
「ならば私が手を貸そう」
「えっ?」
彼は驚きに満ちた表情を浮かべる。まさか協力してくれるとは思わなかったらしい。
「本当ですか?」
「ああ、必要とあらばな」
「それなら────」
彼は爪を弾きながら私の方を見ると、不敵に笑った。
****
あの人と出会ったのは兄の葬式だった。その人は兄の同級生で、私を気遣いながら色々と喋ってくれたりしてくれた。だけど、何故か分からないけど私はその人に会う度に何故か違和感を抱いている。でも優しく接して相談に乗ってくれて、たまに家に来ておかずを分けてくれたこともあった。
「君のお兄さんが亡くなったことは本当に残念だけど、俺にできることがあれば何でも言ってくれよ」
「はい・・・ありがとうございます・・・」
そう言ってくれはするけど、何故かこの人が兄を殺したのではないかと思えてならない。根拠があるわけでもないのに、どこかそんな気がするのだ。
「でも、俺もショックだったなぁ・・・同級生が死ぬなんてさ・・・」
そんなこと言われても、私はどう返せばいいか分からないし、どんな反応すればいいのかも分からない。その後も色々話していると、突然部屋から銃声が聞こえた。部屋を見ると、少しだけ開けていた窓が全開になって、テーブルがひっくり返されていた。
「何!?」
恐怖で私は彼に飛びつく。しばらくするとパトカーのサイレンが聞こえてきて、数台のパトカーが走ってくるのが見えたためホッとする。その安心感からか、彼が私を抱きしめてくる。
「大丈夫、僕がいるから」
そう言ってくれるのは嬉しいけど、なんだか怖い。私は彼に守られながらパトカーが通りすぎるのを見ていた。パトカーが通り過ぎた後は警察が事情聴取すると言って来たので応じることにしたのだが、警察官に質問されていると、後ろにいた警察官が突然、首から血を吹き出して倒れた。何がなんだが分からず混乱していると、彼が私を宥めるように抱きしめた。でも、彼の後ろに黒い服を着た人物が棒立ちして見ていたのを私は見てしまった。赤い目でこちらを覗き込むと、そのまま去っていった。
「・・・ムグッ!?」
後ろから近づいてくるコツコツという足音に振り向くと、黒い服を着た人物が私の口元を塞がれるとそのまま気を失った。