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    ムー(金魚の人)

    @kingyo_no_hito
    SS生産屋

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    モクチェズワンライ0807「辛」で参加です。からーい料理を食べるモクチェズのおはなし。
    ヴィン愛後の時空です。

    #モクチェズ
    moctez

    「チェズレイ、ごはんだよ〜」
    モクマのウキウキと弾んだ声にチェズレイはタブレットへ集中していた意識を剥がした。夕食の時間のようだ。今晩はメニュー決めと調理をモクマへ一任していた。今夜中に情報を整理するために書斎で集中したかったからだ。
    チェズレイは、眼鏡を取り去り書斎机の上に置いてから立ち上がった。
    廊下を進み、ダイニングテーブルへ向かう。
    (今日の献立は……)
    ランチョンマットの上には深めのお椀。その中は真っ赤な海で満たされており、アツアツの湯気が立っていた。白くて丸いものが浮島のように3つほど浮かんでいる。豆腐だ。その上に散らされた小ネギが島の草原のように見える。真ん中には黄色の円があった。卵の黄身が落とされている。
    これはたしか、スンドゥブチゲという料理ではなかっただろうか。辛い料理だったと記憶している。
    「ほい」
    チェズレイの対岸に座ったモクマが銀のスプーンを手渡してきた。
    受け取った銀の匙にチェズレイの苦笑が映る。
    「真っ赤に煮えたぎる海……まるで地獄の煮え湯のようだ」
    「詩的な表現だねえ。単に暑い日にこそ身体を熱くさせるものを食べたいってだけだよ。苦手だった?」
    「いえ」
    「そう。ダメそうなら真ん中のお月様を割ってやるといい。マイルドになるよ」
    「お気遣いをどうも」
    2人向かい合って手を合わせる。
    「「いただきます」」
    チェズレイはすぐにスプーンを手に取ることはしない。まずは目の前の男の様子を見守る。
    銀の匙にすくった赤いスープをモクマが飲み込むところだった。
    彼はぎゅっと強く目を瞑った。視覚を遮断して舌に意識を集中させて深く味わっている、わけではなさそうだ。どちらかと言うと、痛みに耐えている顔である。
    「んんっ……からっ! うまっ! くうッ……でも、からーい!! ひぃいいい……!」
    喚きながらモクマは匙を握る手を止めない。
    既にモクマの額には汗が滲み出している。カプサイシンによる発汗作用で汗腺が開ききっている。新陳代謝の良いことだ。
    「言葉に出すと五臓六腑に沁み渡って、より辛味の感覚が増すのでは?」
    クスクス笑いながらチェズレイも赤いスープを一匙口の中へ。ごろっと口の中へ転がって来たのはアサリのようだ。きちんと砂抜きされている。手で千切って入れた木綿豆腐も滑らかな舌触りで好みだ。
    小休止にとグラスに注がれた水を含んだモクマが「ぷはー」と息を吐き出した。
    「お前さんは涼やかな顔を崩さんねえ。辛いの得意な人?」
    「フフ、どうでしょう?」
    汗もかかずに辛口のスープを飲み進めるチェズレイへモクマが鋭い視線を投げかける。彼の目の色が怒りの赤へと変わった。
    「もしかして……、自己催眠で痛覚を麻痺させてる?」
    「……」
    辛味は舌の味覚細胞で感じ取る感覚ではなく、痛覚と温感覚で感じ取る刺激である。
    かつて痛覚を麻痺させて無茶をした前科がある手前、疑うのも仕方がない。
    チェズレイは再び喉を鳴らして笑った。とたんに喉の奥に残っていた辛味成分が喉を刺す。痛い。
    「フフフ……フッ……ゲホゲホ、ごほっ!」
    チェズレイは笑いながら噎せた。
    テーブルに伏せって肩を震わせ時折ゲホゲホ咳き込むチェズレイを見下ろしてモクマは困惑した。
    「え? 大丈夫」
    「……フッ、そんな、しょうもない理由で、自己催眠など施しませんよ。は、……折角、耐え忍んで食べていたというのに。あなたという人は……」
    チェズレイの目の端に涙が滲む。色んな理由で、この人には泣かされてばかりだと思った。
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    tobari_2p

    DONEモクチェズ版ワンライお題「怪談」
    もはやワンライじゃねえんですけど…っていう恒例の遅刻魔ぶり…。
    ゲストにリモートなアとル。諸君はミカグラ後も定期的にオンライン会合してるとよいなっていう願望を詰めました。チェが名前しか出てこないけどモチェです、と言い張る。
    それにしてもお題怪談なのにぜんぜん怖くないな!
    憑いているのは……?里を出て二十数年になるが、外界の技術の進歩は目覚ましいものがある。
    出奔した先で便利な道具に触れるたび、モクマは目を瞠ったものだ。
    そして今もその便利な道具に助けられ、大切な仲間と定期的に連絡を取り合えている。
    『……で、ですね、署内の人間の間で噂になっているんですけど、遅くまで残業していると必ずどこかから呻き声が聞こえてくるんです……僕もこないだ残業してたときに聞いてしまって……』
    分割されたPC画面の向こう側でルーク・ウィリアムズが落とし気味の声で囁く。
    モクマは神妙な面持ちのルークにどう返したものか、といつものへらりとした笑みを崩さぬまま考える。
    『……なんだそれ。寝ぼけてんのか』
    と、モクマが返答する前に、分割されたもう一方の画面に表示されたアーロンが呆れた様子を隠しもせず言い放つ。
    2683

    💤💤💤

    INFO『シュガーコート・パラディーゾ』(文庫/152P/1,000円前後)
    9/19発行予定のモクチェズ小説新刊のサンプルです。
    同道後すぐに恋愛という意味で好きと意思表示してきたチェズレイに対して、返事を躊躇うモクマの話。サンプルはちょっと不穏なところで終わってますが、最後はハッピーエンドです。
    【本文サンプル】『シュガーコート・パラディーゾ』 昼夜を問わず渋滞になりやすい空港のロータリーを慣れたように颯爽と走り去っていく一台の車——小さくなっていくそれを見送る。
    (…………らしいなぁ)
    ごくシンプルだった別れの言葉を思い出してると、後ろから声がかかった。
    「良いのですか?」
    「うん? 何が」
    「いえ、随分とあっさりとした別れでしたので」
    チェズレイは言う。俺は肩を竦めて笑った。
    「酒も飲めたし言うことないよ。それに別にこれが最後ってわけじゃなし」
    御膳立てありがとね、と付け足すと、チェズレイは少し微笑んだ。自動扉をくぐって正面にある時計を見上げると、もうチェックインを済まさなきゃならん頃合いになっている。
     ナデシコちゃんとの別れも済ませた今、ここからは本格的にこいつと二人きりの行き道だ。あの事件を通してお互いにお互いの人生を縛りつける選択をしたものの、こっちとしてはこいつを離さないでいるために賭けに出ざるを得なかった部分もあったわけで、言ってみれば完全な見切り発車だ。これからの生活を想像し切れてるわけじゃなく、寧ろ何もかもが未知数——まぁそれでも、今までの生活に比べりゃ格段に前向きな話ではある。
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    nochimma

    DONEモクチェズワンドロ「ビンゴ」
    「あ……ビンゴ」
     もはや感動も何もない、みたいな色褪せた声が部屋に響いて、モクマはギョッと目を見開いた。
    「また!? これで三ビンゴ!? しかもストレートで!? お前さん強すぎない!? まさかとは思うが、出る目操作してない!?」
    「こんな単純なゲームのどこにイカサマの余地があると? 何か賭けている訳でもないのに……」
    「そりゃそうだが、お前さん意外と負けず嫌いなところあるし……」
    「……」
    「嘘です……スイマセン……」
     ため息と共に冷ややかな視線が突き刺さって、肩を落として、しくしく。
     いや、わかっている。療養がてら飛んだ南国で、早二週間。実に何十年ぶりという緊張の実家訪問も終え、チェズレイの傷もだいぶ良くなり、観光でもしようか――とか話していたちょうどその時、タブレットがけたたましく大雨の警報を伝えて。もともと雨季の時期ではあったけれど、スコールが小一時間ほど降ったら終わりなことが多いのに、今回の雨雲は大きくて、明日までは止まないとか。お陰でロクにヴィラからも出られなくて、ベッドから見える透き通った空も海も(厳密には珊瑚で区切られているから違うらしいが)もどんより濁って、それで暇つぶしにとモクマが取り出したのが、実家にあったビンゴカードだったのだから。ゲームの内容を紹介したのもさっきだし、数字はアプリがランダムに吐き出したものだし……。
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