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    ことにゃ

    @kotonya_0318

    各種サイトで細々と活動中。19歳。
    いろいろ垂れ流してます。うちの子語り多め。
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    ことにゃ

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    バーベナ七夕創作
    ミーナちゃん、キースくん、ユリウスさん、カザミ先輩お借りしました。

    #バーベナの花が咲く頃に
    whenVervainFlowersBloom.

    わたしのねがいごと 己の出身国である日本の風習の一つ、七夕の話を寮の談話室で話題に出したのは、本当に何気なくだった。……いや、本当は、少しだけ、故郷や家に対する懐かしさたいなものはあったのかもしれないけど、それでもほとんど無意識下のそれだった。
     
     同郷であるキースやゼン先輩とその話題で盛り上がり、そこにミーナとロゼッタさんが加わり「七夕」の説明を三人でして、そうこうしているうちに気づけばその場に全員の白寮寮生と、どこから聞きつけたのか、知り合いの他寮生の何人かまで集まっていた。
     
     そうして、気づけば我がアングレス・アルブス寮の好奇心と行動力を兼ね合わせる寮長によって短冊を飾るための笹が用意されていたのだった。
     
    「お待たせしました」
     
     いつぞや町で見かけて買ったきれいな折り紙。買うだけ買って、使い道に困っていたそれを部屋から持ってきたのは、自分でした申し出だった。せっかくなら、寮のみんなに使ってもらった方がいいだろうと思ってのことだった。
     
    「ミキ! ありがとう、でも、ほんとに使っていいの?」
     
     自室から戻るなり駆け寄ってきたのはミーナだ。何度目かのその問に、やや呆れの混じった笑みを浮かべながら頷く。
     
    「うん、大丈夫。使い道なくて、困ってたので」
    「そう? なら、いいんだけど」
    「本人もこう言ってるし、ありがたく使わせてもらおうか」
     
     横から会話に入ってきたのは、我らが寮長であるユリウスさんだ。「そうしてください」と言って、折り紙を手渡す。
     
    「これを細長く切って、これに願い事を書けばいいんだよね?」
     
     私を含め日本出身である三人に向けられた問に頷く。それを見たユリウスさんが、どこからかハサミを取り出した。
     
    「じゃあ、今から分けていくよ~、予備含めて一人二枚ね。学年下の子達から来てね」
     
     生徒それぞれの、個性あふれた返事がしかし同じタイミングで談話室に響く。最低学年である私、ミーナ、キースの三人がまず寮長の元に集まった。
     
    「はい、じゃあ提供者であるミキから。どれがいい?」
     
     いつの間にやら綺麗に切り分けられて短冊となった折り紙が、目の前にずらりと差し出された。少し迷って、薄く桜の花弁の模様が入った淡いピンクのそれを取った。
     
     他の皆の邪魔にならないようにすぐにどけて、談話室の椅子に座る。用意してあったペンを取り出した。少しして、同じく短冊を持ったキースとミーナが同じテーブルを囲んで座った。
     
    「キースは願い事決まってるの?」
    「んー、まだ少し考え中」
    「そう。ミキは?」
     
     自分に来ると思っていなかった話題が回ってきて、返答に少し間が開く。
     
    「えっ……と。まだ、あんまり考えてなかった、です」
    「あら、ミキもなの」
     
     私の言葉に意外そうに眼を丸くしたミーナが、すぐに得意げな表情に変わって口を開いた。相変わらず表情が豊かだな、とぼんやり思う。
     
    「私はね、もう決まってるの。これからも、皆で元気に過ごせますように、って」
    「なんだ、思ったより普通じゃん。そんな得意げに言うことか?」
    「なによ、なによりも大事なことじゃないの!」
     
     言い合う二人に少し笑ってから、改めてペンを握り直す。時間をかけ過ぎても良くないだろう。何を書こう。
     
     ねがいごと、と考えて、浮かんだそれを気づいたら短冊に描いていた。
     
     ”おねえちゃんと、”
     
     そこまで書いて、自分で書いたその文字に驚く。私は、いったい何を書こうとしていたんだろう。おねえちゃんと、なんて。
     
     もう叶うわけ、ないのに。
     
     慌ててその短冊をぐしゃりと握りつぶす。予備があってよかった。ゴミ箱に潰した短冊を投げて、改めて何を書くべきか考える。
     
    「キースは……ふーん。美味い飯が食えますように、ね。なによ、そっちだって普通じゃない?」
    「はー!? お前な、日本人の舌がどれだけこっちの食事に合わないか分かってないからそんなこと言えんだよ。最近ミキが日本食作ってくれるからだいぶ改善されたけど」
    「あら、それなら自分で作ればいいんじゃないの?」
    「う、それは、そうかもしれねぇけど……」
     
     二人の声をBGMに、考える。私の願い事。一体何だろう。
     だって、今はあの頃の、戦場に居た頃に比べたらずっと恵まれている。暖かいベッドがあって、一緒に戦う仲間が居て、頼れる人たちもいる。これ以上望むことなんて、何かあるだろうか。
     
     一人でぐるぐると考え込んでいると、気づけば他の皆は書き終えて笹に短冊をかけ始めていた。一番最初に短冊貰ったのは私なのに、まだかかっている。どうしよう。再び短冊に視線を落とす。
     薄く桜の花弁の模様が入った、淡いピンクのそれ。おねえちゃんとお父さんが居た頃、道場の皆を集めてやったお花見を思い出した。あの頃は、本当に幸せだったんだな、とそう思う。
     
     思考がまた沈み始めたところで、慌てて頭を振って考えを飛ばす。今考えることはそれじゃないだろ、自分に言い聞かせて改めて願い事を考えようと姿勢を正した時、懐の短刀の存在を感じた。
     
     ああ、そうだ。あのときから、私が願うことなんて、一つしかなかったんだ。
     
     ”つよくなれますように”
     
     さらさらと書いて、すぐに笹の方に向かって駆け寄る。
     
     大丈夫、だって、ここは、いろんなことが学べて、強くなれる場所だ。
     
    「お待たせしました」と言って輪に入れば、カザミ先輩と目が合った。
     
    「お、完成したか。自分でかけるか? もし上の方がいいなら俺が預かってかけるけど」
     
     その問に、少し迷ってから頷く。
     
    「じゃあ、お願いしても良いですか」
    「おっけ。どこがいいとか、あるか? って言っても、もう割と埋まってるけど」
     
     カザミ先輩に促されて笹を見上げる。みんなが短冊をかけるには十分な、しかし談話室に置いても邪魔ではない大きさの笹は、確かに既に結構埋まっていた。うろうろと視線を彷徨わせて、開いているスペースを探す。
     
    「お、この辺とかどうだ? 横にミーナの短冊もあるし」
     
     カザミ先輩の提案は、普通にありがたかった。自分ではうまく見つけられなかったから。
     
    「じゃあ、そこでお願いします」
     
     それに頷いて、カザミ先輩に短冊を渡す。それを受け取ったカザミ先輩が「任せろ」と言って短冊を笹にかけた。
     
     笹の上の方に、私の書いた短冊がかけられる。室内でもかすかに揺れるそれは、今の私では手の届かない場所にある。
     
     でも、私は。
     
     懐にずっとしまっている、短刀を制服の上からなぞる。
     
     私は、強くなって。もう、あんな思いをしないようにするんだ。
     
     最初はあんなに重く感じた短刀は、気づけば気にならないぐらい私に馴染んでいた。
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