Amensia風は季節を巡らせる…春を目覚めさせ、夏を呼び秋に染まり冬を連れてくる…回れよ回れ、風車…からからと、からからと…回れよ回れ…幾年月
村正は風車を持ちながら海を見つけていた。ざざ…ざざ…と波の凪いだ音が穏やかだ。
「村正さん、隣…いいですか?」
「おや、あなたは……」
村正が顔を上げると、隣に立っていたのは昨年顕現した松井江だった。表情は悲しいような、切ないような、ふたつが入り混じった表情をしている。
「どうぞ。一緒に海を見ましょうカ」
「はい。……その、風車は……」
「ああ、コレデスカ?これは、私が大好きだった人がくれたんです。くるくる回るのが、なんか人生みたいですよね」
「人生……」
「松井江、豊前江とケンカでもしましたか?」
「……え」
「アナタの顔を見たらわかりましたよ」
松井江は分かりやすいなあと村正は思った。とくと豊前江のことに関しては態度と顔に出やすい。同じ刀派と言っていたが、二人の間には周りからは見れない絆があるのだろう。
さて、話しを戻そうか。顕現した男士が直面することは«歴史を守ることの意味と自分たちの存在意義»。最初はどうしても躊躇う。出陣先でヒトの優しさに触れて、情を持てばヒトを助けたい気持ちが少なからず芽生える。だが、そこは刀剣男士。いくら情が移ったとしても、斬らなければならない時が来る。そこで葛藤し、精神を壊す男士もいた。
松井江は優しいから、ヒトを斬ることに躊躇しているのだろう。
「ぼくは……刀剣男士失格です」
「失格ではありませんよ。いまのワタシたちは人間の身。現世の言葉で言うと人間1年目、赤ちゃんみたいなものです」
「僕は…僕は……ヒトを斬ったらっ」
「心が痛みますカ?」
村正の問いかけに松井江はこくりと頷いた。松井の肩は微かに振るえている。その双肩にはどれほどの重責が乗っているかは計り知れない。この問題は刀剣男士が皆通過する儀礼みたいなものだ。
「それでいいんですヨ。辛くなったら、アナタは豊前江の胸で思い切り泣けばいいのデス」
「え……」
「ほら、御覧なさい。お迎えがきましたよ?」
「まーーーーつーーーー!」
音よりも疾いとはまさにこのこと。息を切らした豊前江が松井江の隣に立っていた。ずっと探していたことが滴る汗から見て取れる。
「豊前……」
「いきなりいなくなるなよ…!こんの、心配しただろうが!」
「……すまない。だが、僕は刀剣男士としてしっ……」
「ストップ!それ以上は言わなくていいぜ。なんで俺がお前の分も背負えるって言ったかわかるか?両手だとな、まつを抱きしめることができるんだよ」
豊前は爽やかな笑みを浮かべると、松井江を腕の中に閉じ込めて力強く抱きしめていた。松井江は、豊前苦しいよと口にするが豊前江は離す気はないようだ。
「ひとりで抱え込むなら、俺に言ってくれ。それで言い合いになったり、ケンカになった方がマシだ。まつがいなくなった方が俺は辛ぇ」
「豊前……ありがとう」
「いいってことよ。村正さんもありがとな」
「いいえ♪松井江のこと頼みましたよ」
「おう、任せておけ!」
「ふふ。それを聞いて安心シマシタ」
貴方たちは二人でひとつのメサイアみたいな存在ナノデスカラ。
「ワタシはまだ海を眺めたいので、先に帰っててください」
「おう!おやすみ、村正さん!」
「おやすみなさい……あの、ありがとうございました」
「イイノデスヨ♪おやすみなさい」
海みたいに、すべてを包み込めるようになったらどんなにラクなんでしょうねえ。
「信康さん、ヒトの身はたいへんデスネ」