かえる2七五♀「俺は、人間を認識できない」
「え?」
原宿、クレープ屋に連れ回され、散々並んで、やっと買えて一口、甘さを脳が認識し、果たして、食べ切れるのかとげんなりしたとき、五条は世間話くらいのノリで切り出した。
「おまえは知らねえかもだけど、六眼って呪力の計測器みたいなもので、俺の場合それが強すぎて、人間が人間として認識できない。いまそこらを歩いているやつらがどんな顔なのかよくわからない」
「病院に行った方がいいのでは?」
「呪術師が病院に行ったらなんて診断されんだろな」
五条はそう呟いて、ふと周りを見た。時間帯も場所もだが、女子高生が多い。その多くが五条と七海を見て、きゃあきゃあと黄色い歓声を上げている。生物学上、五条は女ではあるが、同じくらいの身長の七海がいること、男性用の制服を着ていることなどもあって、勘違いをされているようだった。もしかするとそれが狙いなのかもしれない。
「かっこいい」「どこの制服?」「レベル高すぎ」などの声をする方に、五条は目を向けて、ふと口角を上げた。そうするとぎゃーというアイドルさながらの歓声。
「…見えてるじゃないですか」
「人間つーことはね、わかるの。呪力を持たない人間って枠ね。術師は、もう少し違う色をしている」
「色」
「これが六眼特有のものか、俺個人の特性なのかはよくわからなくて、でも、高専に入って、傑と硝子のお陰で、初めて他人が人間って、認識できた」
この間の、夏油の話に繋がるのだろうか、と考える。
「あいつらが初めてなんだよ、俺以外の初めての人間」
クレープをぱくつきながら、そう言った。七海が一口、二口のうちに食べきってしまっている。
「だから特別、ですか?」
「うん。あ、おまえのクレープ頂戴」
「…いいですよ」
どうせ食べきれない。
「ヤどうなんだろ。最初あいつからも黒い固まりだったから、認識力の問題かねぇ。俺が、単純にあいつらのことを知りたいと思ったからか」
「お涙頂戴感動のストーリーじゃないですか」
「それがどっこい七海くん。実はね、最初から認識できた人間がいんだよ」
イチゴチョコクリームのクレープの最後の一口は、あっさりと五条の口の中に消えた。口元にチョコがついている。
「口にチョコ、」
「おまえのことだからな」
「え」
五条はくしゃりとクレープの紙を握りつぶして、七海のズボンに突っ込んだ。
「やめてください」
口を拭って、「腹一杯になったから、帰ろーぜ」とか言い出し、すたすたと歩き出したのだった。
「な、」
慌て、五条を追う。
「慣れてない。だから、おまえに慣れないといけない。あと、なんで、おまえだけ、見えるのかも、ちゃんと、理解しないといけない」
「それ、私の意思存在しませんよね…」
「むしろあると思ってた?」
「………………いえ…」