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    限界羊小屋

    @sheeple_hut


    略して界羊です

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    限界羊小屋

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    フレリン クリア後世界
    ワンライテーマ「壁ドン」
    デート帰り山手線概念

    #フレリン
    frelin

    時速60kmと5cm 環状線がぐらりと揺れ、車内の人混みが動く。自分もバランスを崩しかけたが、横に突かれたフレットの手に抑えられてその場に留められる。代わりにフレットはかなりツラそうな表情をした。
     二人で遊びに行った帰りのこと。お互いの家までの線に乗り換える渋谷駅まで、鶯色の電車に乗りこんで立ち乗りしていた。……が、並走する線の人身事故とかで急に人が乗り込んできたのだ。休日の帰りの時間にも関わらず、車内は急にラッシュアワーのような混雑になる。瞬く間に俺とフレットは窓際に追いやられ、そうしている間にも次々と帰り道を急ぐ人々が乗り込んでくる。密着状態になるだろうな、と思ったところで、間一髪フレットが俺を庇うように窓に手をついた。これが壁ドンって状態か、とぼんやり思う。確かに、至近距離に相手の顔があると結構意識してしまう。
     ようやっとドアが閉まる頃には車内は息もつけぬほどの混雑だったが、フレットが隙間を作ってくれているお陰で俺の身体に圧力はかかっていなかった。但し、顔の横に両手が突かれていて独特の緊迫感はある。真向かいで頑張っているフレットに小声で話しかける。
    『無理しないで寄り掛かっていいんだけど』
    『いや、いーよ……その代わりドア開いたら降りていい?』
    『オッケ、降りよう』
     同意を返す。フレットは律儀に俺の目の前の空間を確保し続けている。電車が揺れ、人々がそれに合わせてよたよたと動くたびに彼の腕に力が入るのが見えた。自分より少しだけ背が高いフレットにそうして囲ってもらっていると、何だか守られているような気分でくすぐったい。
     スマホや窓の外を見るだけの隙間も無かったから、手持ち無沙汰にフレットの顔を眺めていた。蒼い瞳、整った鼻筋。いつもつけている矢印のバッテンの代わりに、今日はリング型のピアスをつけている。何をつけても似合うな、と思う。もともと顔がいいのに加えてセンスのある彼のこと、さぞや女子にはモテるんだろう。……つらつらとそんなことを考えながら見つめていると、だんだんと彼の顔に赤みがさしてきた。
    『リンドウ……ちょっと、恥ずかしいんですけど』
    『あ、ゴメン』
     マジマジとガン見されたらいい気はしないに決まっている。気まずい思いをさせてしまって申し訳ない。視線を逃し、彼の肩越しに電車の真ん中あたりに目をやった。休日にも関わらずスーツを着込んだサラリーマンらしき男と一瞬目が合い、忌々しげに視線を逸らされた。
     2分後。次の駅に着いた途端、車内から半ば圧されるようにして俺とフレットは勢いよくホームに吐き出された。ちょっと離れてよう、と誘導されるに従ってホームの内側まで退避する。そのまま乗ってきた電車を一本見送った。
    「いや〜めっちゃキツかったわ」
     ブンブンと肩を回す彼にそっと礼を言う。
    「ありがと……ってか、別に寄り掛かってくれてもよかったんだけど」
    「いやぁ……それはちょっと」
     何故か彼は誤魔化すようにしきりに頭を掻いていた。「俺の方がちょっとアレかも」
    「アレって何だよ」
    「ってか俺、リンドウに壁ドンしちゃったね」
     見当違いの回答。はぐらかされたような気分になるが、ちょうど自分も車内で同じことを考えていた。
    「おまえやっぱりああいうのサマになるな」
    「お、ドキッとした?」
    「女子ならすると思う」
     そう告げるとフレットは心外そうに口を尖らせる。
    「女子ってかリンちゃんの意見を聞きたいんですけどー」
    「まぁ、近いし目線に困るのはあった」
    「そういうのじゃなくてさぁ……」
     ふぅ、とフレットは息を吐き、先ほどの再現のように片手を俺の頭の横に回した。
    「”俺のことだけ見てろよ”」
    「……何?」
    「”どこにも行くな”」
     低い声でわざとらしく言ってのけるフレットに思わず吹き出してしまう。
    「あっは……何それ、乙女ゲー?」
    「そう、レガストで勉強しましたー」
     戯けているうちに時間が過ぎていたのか、ホームのチャイムが鳴って次の電車がもうすぐ訪れることを告げた。……ついでに、しばらく俺たちのいる3番線の電車は混み合うであろうこともアナウンスされた。
    「しばらくはあの調子だろうな……」
    「じゃさ、駅ナカとかで時間潰してちょっと待たない?」
    「そうするか」
     二人でホームに背を向け、地上階に出る階段へと向かう。同じ考えだろう人波に混じってゆるゆると階段を降る。彼らは一様にうんざりしたような、疲れた表情をしていた。

     駅ナカのコーナーでウィンドウショッピングに勤しむフレットの傍ら、俺はスマホで乗り換えの検索を始めていた。幹線の遅延を受けて、駅から出ている路線は大方ひどい混雑予想が出されている。
    「ってか救出作業でしばらく復旧しないって」
     報告を聞いて、ショーウィンドウの中の冬用コートを見つめていた友人が顔を上げる。駅構内の清潔な光が明るい茶髪を照らしている。
    「マージかー……」
    「帰る時も混んでるかも」
    「最悪、詰め込まれるのカクゴで帰るしかないっか」
    「だな……諦めてそろそろ乗るか?」
    「リンドウ」
     何、とスマホから目線を上げると、相手は何やら悪巧みを思いついたようなニヤニヤ笑いを浮かべていた。
    「もし次同じ感じになったらさ、リンドウも壁ドンして俺のこと守ってくれる?」
    「あー……?どうだろ」
     先ほどと逆のシチュエーションを思い浮かべてみる。車内にギュウギュウ詰めにされて密着状態で運ばれるのと、腕を痛めてでも一応距離を取って渋谷駅まで我慢するのとどちらがマシだろう。……どちらも気まずいが、相手が痛いとか苦しい思いをするのは嫌な気がした。なるほど、それで先ほど彼も俺を庇ってくれたのだろう。
    「する……かもしれない」
    「まじ!?したら俺リンドウに惚れちゃうわ」
    「はいはい」
     相変わらず大袈裟な友人をあしらいながら、再びホームへの階段へと向かう。軽く早足になってついてきた友人は、俺本気なのになー、つれないなーリンドウ、と不満げな声を上げていた。
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    限界羊小屋

    DONE用語
    <キルドレ>
    思春期で成長が止まり決して大人にならない種族。一般人からは異端視されている。
    ほとんどが宗教法人か戦争企業に所属して生活する。
    <戦争>
    各国に平和維持の重要性を訴えかけるために続けられている政治上のパフォーマンス。
    暴力が必要となる国家間対立は大方解決されたため実質上の意味はない。
    <シブヤ/シンジュク>
    戦争請負企業。
    フレリン航空士パロ 鼻腔に馴染んだガソリンの匂いとともに、この頃は風に埃と土の粉塵が混じっていた。緯度が高いこの地域で若草が旺盛に輝くのはまだもう少し先の話。代わりのように基地の周りは黒い杉林に取り囲まれている。花粉をたっぷりと含んだ黄色い風が鼻先を擽り、フレットは一つくしゃみをした。
     ここ二ヶ月ほど戦況は膠着していた。小競り合い程度の睨み合いもない。小型機たちは行儀よく翼を揃えて出発しては、傷一つ付けずに帰り着き、新品の砂と飲み干されたオイルを差分として残した。だから整備工の仕事も、偵察機の点検と掃除、オイルの入れ直し程度で、まだ日が高いうちにフレットは既に工具を置いて格納庫を出てしまっていた。
     無聊を追い払うように両手を空に掲げ、気持ちの良い欠伸を吐き出した。ついでに見上げた青の中には虫も鳥も攻撃機もおらず、ただ羊雲の群れが長閑な旅を続けていた。
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    ワンライのテーマ「バッジ」
    バッジ操作デモが彼らの撮影動画だったら?というとこからの発展形
    Forget me not.「リンドウと撮ったやつさ、全部消えてた」
     「死神ゲーム」が終わって2日目の朝。早い時間の教室で、リンドウと一つの机に向き合っていた。机の上に載せたスマートフォンは何も変わらない渋谷の風景を映し出している。
    「フレットも?俺も消えてた」
     同意を返される。全く同じ状況らしい。
     本来ならば動画に映っているのは、コートを風になびかせて鮮やかな斬撃を叩き込む新米サイキッカー・リンドウの姿のはずだったのに。

     撮影会を始めたきっかけはほんのお遊びだった。バッジに念を込めることで「サイキック」が発動し、不思議な力で炎やら水やらを出して自在に操ることができる。サイキック能力を使って襲ってくる動物型の「ノイズ」を撃退する。まるで映画の主人公になったように感じて刺激的だった。試しに虚空に斬りかかるリンドウをスマホのカメラで撮影してみると、特撮を爆盛りにしたSF作品の主人公のようにバッチリ決まっていた。UGに来たばかりの頃はそれが新鮮で、豪華なイベントだなどとはしゃぎながらお互いの姿を撮りあっていた。
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