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    限界羊小屋

    @sheeple_hut


    略して界羊です

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    限界羊小屋

    DONE用語
    <キルドレ>
    思春期で成長が止まり決して大人にならない種族。一般人からは異端視されている。
    ほとんどが宗教法人か戦争企業に所属して生活する。
    <戦争>
    各国に平和維持の重要性を訴えかけるために続けられている政治上のパフォーマンス。
    暴力が必要となる国家間対立は大方解決されたため実質上の意味はない。
    <シブヤ/シンジュク>
    戦争請負企業。
    フレリン航空士パロ 鼻腔に馴染んだガソリンの匂いとともに、この頃は風に埃と土の粉塵が混じっていた。緯度が高いこの地域で若草が旺盛に輝くのはまだもう少し先の話。代わりのように基地の周りは黒い杉林に取り囲まれている。花粉をたっぷりと含んだ黄色い風が鼻先を擽り、フレットは一つくしゃみをした。
     ここ二ヶ月ほど戦況は膠着していた。小競り合い程度の睨み合いもない。小型機たちは行儀よく翼を揃えて出発しては、傷一つ付けずに帰り着き、新品の砂と飲み干されたオイルを差分として残した。だから整備工の仕事も、偵察機の点検と掃除、オイルの入れ直し程度で、まだ日が高いうちにフレットは既に工具を置いて格納庫を出てしまっていた。
     無聊を追い払うように両手を空に掲げ、気持ちの良い欠伸を吐き出した。ついでに見上げた青の中には虫も鳥も攻撃機もおらず、ただ羊雲の群れが長閑な旅を続けていた。
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    DONEフレリン 本編後
    お気に入りの場所でチルアウトする二人の話
    「空白」の続き
    Emptiness 図書室の奥、カウンター裏にある小さな扉を開けた先には一面の灰色が広がっていた。垂れ込めた曇り空が校舎とその向こうの街の沈んだ色を煙らせている。暖房の効いた屋内から一歩踏み出すだけでちりちりと凍らせるような冷たい空気が肺に染み入る。
     通い慣れた白い階段に歩み寄り腰を下ろすと、金属の床の冷たさが制服越しに伝った。季節が夏から秋、そして冬へと歩みを進めるにつれて校庭の人影も減っていった。今やはしゃぎ声は聞こえず、4階の高さを吹き抜ける風の音だけが棟を掠めて鳴っていた。
     校庭の端の木々はすっかり葉を落としてしまっている。

     何かに嫌気がさして逃げ出したくなるたびにこの場所を訪れている。
     成績は悪い方ではない。家庭環境も恵まれていると思うし、父さんも母さんも程よい距離を持って接してくれる。何か病気があるわけでもないし今日もご飯は美味しいと思う。それなのに何かが吹き溜まっていた。閉塞して行き場がなかった。ダラダラと続けているポケコヨやゲームの類の他にこれと言った趣味は持っていないし、子供の頃に習わせてもらったピアノや水泳で才能が見つかることもなかった。鳩みたいに平凡。それが自分で分かっているだけに胸が塞がる。
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    DONEフレリン Final Day''のフレット側のif
    リンドウがFD''の世界線で虚無っている時間、フレットもフレットでリンドウが失われた世界の夢を見ていたら……というお話。
    風の行方 あの日、あの時間の前に渋谷駅前で何が起こっていたのか俺は知らない。多分何かがあったのだと思う。
     気づいた時にはスクランブル交差点の白線の上で俺たち5人で輪を作るように突っ立っていた。信号は緑色だったが、賑わった道路の真ん中でぼさっと突っ立っていたらそりゃ通行人の邪魔にもなる。急いでハチ公前側に歩を進める俺たちを、道ゆく人々はじろじろ迷惑そうに睨んでいた。
     “俺たち5人”なんて言ったけど面識なんて全く無くて、ただたまたまそこに居合わせただけに過ぎない。少し話をした結果も「全員直前の記憶を失っている」というおかしな共通点しか見出すことができなかった (但し、ガットネーロの白服を着た青年とヘッドフォンをつけた金髪の兄ちゃんは友達同士なのだと言っていた) 。彼らが連れ立って離れていき、大きな眼鏡をかけた少女と猫耳フードの子と3人で取り残されて何となく目を見合わせる。特にそれ以上話すこともなかったから、互いに気まずい思いを抱えたまま「じゃあ、」とだけ挨拶をした。彼女らはそれぞれ別の方向に歩き去っていった。
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    DONEビイネク ワンライテーマ「スマホ・ケータイ」より
    ネク君のスマホデビュー
    Galápagos「それでは、番号移行の手続きはこちらで完了になります」
    「あ、はい」
     白く清潔なカウンター越し、銀のスマートフォンがネクに手渡される。日曜日の携帯ショップは子供たちの賑やかな笑いと、柔らかに嗜める家族の声で満ちていた。スマホに変えることをビイトに相談したのは正解だった。「休みの日は混んでるからな」と代わりに予約を取ってくれたお陰で、チケットの発行から殆ど間も無く名が呼ばれ、カウンターへと誘導された。しかしそれにしても、ここまで時間がかかるとは思っていなかった。
    「すみません、色々教えてもらって」
    「とんでもございません、お役に立てて光栄です」
     艶のある茶髪をポニーテールに結んだオペレーターが、カウンター越しに整えられた微笑みを返す。実際の手続きは10分もかかっていないのだが、ネクがスマートフォンの操作についていちいち尋ねていたために応対時間は大分延びてしまっていた。彼女が親切に、まるで幼子にするように画面の立ち上げ方やメニューの開き方を教えてくれるものだから、ネクは申し訳ないような恥ずかしいような気持ちで一杯だった。
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    DONEフレリン 本編前
    リンちゃん呼びの由来とお台場デートの話
    サイハテ紀行記 タンブラーに少し残ったショコラを前に、肘をついたリンドウは大きな溜息を吐き出す。フードコートは女子高生のグループや小さな子供を連れたパパさんママさん、それからせいぜい大学生と言った出で立ちのカップルに満ち満ちていた。正直言って自分は浮いている。
     高校生にもなって親と、しかも母親と買い物というのは正直恥ずかしい。恥ずかしいが、カッコ悪くない程度に服を揃えておこうとすると高校生の小遣いでは太刀打ちできない。ECサイトでも使わせてくれればいいものを、母親は「見てみないと似合うか分からないじゃない」などと遅れたことを言ってお台場くんだりまでリンドウを引っ張ってきた。ついでに荷物持ちにする魂胆らしい。
     高校生活が始まって1ヶ月と少し、クラスメイトの顔は大体覚えた。幸いにして今日は誰とも顔を合わせずに自分の買い物を終えることができた。シームレスに自分の買い物に連れ回そうとする母親に「俺休んでるから」と告げて1階のフードコートに逃げ込み、ドリンク一杯で暇を潰している。やることもなくスマホでネットニュースを検索していた彼の耳に、学校のどこかで聞いた声の呼びかけが届いた。
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    DONEモトリン
    AnotherDay次元

    最近はこの次元なら二人は幸せになれるのではないかと言う仮説が熱いです
    はじめての再会 友人はよく何かに没頭して周りが見えなくなる。そう珍しいことではないし、もう自分も慣れている。6割ほどの席が埋まっている休日のカフェで、丸いテーブルとコーヒーのマグカップ2つ分を隔てて彼は大判の本を開き、熱心に見入っていた。ページを繰っては、はぁ、と恋する乙女のような甘い溜め息を漏らしている。コーヒーに手を伸ばそうと彼が本を置いたタイミングでフレットはそっと話しかけた。
    「本当に”アナザーさん”?好きだね、リンドウ」
     マグカップからコーヒーを一口啜ったリンドウが目を輝かせて答える。
    「当たり前!お前も読んだだろ!」
    「う〜んまぁ、パラパラとは読んだけどさ……正直俺には刺さんなかったかなぁ」
     いいこと言ってるから!と半ば押し付けられるようにして彼と同じカラー本 ~ アナザーさん語録集 ~ を手渡された時は驚いた。特典のサイン会応募券のために3冊買って、もう1冊は抜かりなくガールフレンドへの布教に使ったのだという。手垢の付いていない新品の語録集は巻末の切り取り部分だけがなくなっていた。なお中身について特にコメントはない。
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