誘惑する青空 休日の屋上公園を吹き抜ける熱風は湿ったアスファルトの匂いを孕んでいる。隣に腰掛けた友人の前髪が、風に嬲られてぶわりと持ち上げられている。それを見て、今朝から纏わりついていた違和感の正体に初めて思い至った。前髪に隠れていた右耳に銀の点がひとつ、増えている。
普段学校に来る際は律儀にピアスを外しているから、こうして休日を共にする間柄でもなければ彼のフル装備を目にする機会はない。定点観測しているのは自分くらいかもしれない。彼と連み始めた頃、それは確かに耳たぶの一点だけだった。けれど、梅雨に入る頃には両耳の上側に増え、夏休みの始めにまた増え、少し置いて冬にまた一つ増えた。
そして今日また一つ、右耳の頬に近い部分に真新しいスタッドが光り、根本が少し赤くなっている。
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