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    限界羊小屋

    @sheeple_hut


    略して界羊です

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    限界羊小屋

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    フレリン 2w4dのif
    微妙距離感

    #フレリン
    frelin

    A trip of half an hour 鈍痛がする。額から、膝のあたりから。とにかく身体の前面から。どういうぶつかり方をしたのだろう、と自分でも不思議に思いつつリンドウは道路から身を起こす。大通りの真ん中で少しばかり気を失っていたらしい。
     信号が変わったのか、幾台もの車が迫ってくる。見ているうちにその一台が自分の体の輪郭に触れた。ボンネットが胸の辺りを通過し、羽根飾りで一杯のダッシュボードと前部座席が、その車内に充満したヒップホップらしき音楽が、後部座席に座った女性が、順番に自分の身体をすり抜けていく。別に痛くはないがあまり気分の良いものではない。自分を無視して居場所となる空間を侵されているような違和感があった。
     未だに重い痛みが残る頭を抱えてのろのろと歩道に向かう。そうしている間にも何台もの車が勝手にリンドウを通り過ぎては、別次元から鈍色の排気ガスを吹きかけてきた。
     見上げた信号機脇には、「神泉町」と書かれた表示が煤に汚れていた。渋谷駅前の界隈よりは少しだけ街路樹のスペースが広く取られており、車通りの多い通り沿いにずっと遠くまで同じような規格のオフィスビルが立ち並んでいる。お祭りのような渋谷の騒がしさとは違う、整えられたビジネス街の賑わいがどこまでも続いているように見えた。親指の先でWebマップを検索する。地図の画面が大きく動いて、やがて指し示された「神泉町」は渋谷区と目黒区のちょうど境目のあたりに位置している。
     いずれにせよ渋谷から出ることができない。それを悟り、リンドウは失意に肩を落とした。
     ここ「神泉町」にだって決して来たくて来た訳ではない。「渋谷の謎を解け」という不可解なミッションに導かれるままに西口バスターミナルに足を運んだまでは確かに意識が繋がっている。しかし次の瞬間、彼の身体は何故かバスの中にあった。窓の外ではニヤニヤと赤パーカーの男がこちらを見つめており、チームメイトの一人 — 新メンバーの金髪の青年、ビイトが大きな動作で自分に向けて手招きをしていた。
     新しいケージに入れられた鼠よろしく戸惑うリンドウには目もくれず、運転手は扉をさっさと扉を閉めてしまう。運悪く次のバス停では乗車も下車もなく、どこまで連れて行かれるかと不安になって来た頃に額に強い衝撃が走った。そして気がつけば道路の真ん中に倒れ伏していた。 — どうあっても”渋谷区”からは出られないということらしい。
     どう戻ったものか、とメッセージアプリを立ち上げると、10分ほど前にビイトから1通連絡が入っている。文面はひどくシンプルなものだった。
    『すぐ追いつく』
     これでは下手に動くこともできない。それきり黙り込んだアプリ画面に返信を返そうとして、やめた。すぐに会えるのであれば特に話すべきこともないのだった。”渋谷の謎”とやらも検索では出てこないことは先ほど確かめている。諦めてスマホを仕舞い込み、植え込みの緑陰に身を寄せてぼんやりと空を見上げる。生温い風が吹いて、少しだけ前髪が乱される。
     —暇。
     久しぶりの感覚だった。1週間と少しの間、駆け回っているか、食事や買い物をしているか、そうでなければ眠っていた。久々に少しばかりの自由時間を与えられたが、ポケコヨもできず話しかけるべき友人もいないこの状況ではどうも持て余してしまう。
     向かいのコンビニから高校生らしい二人の女子が笑い合いながら出てくる。青い空には入道雲がむくむくと湧き上がっていた。ゲリラ豪雨でも降らなけりゃいいけど、と他人事のようにリンドウは思う。

    「リーダー!探したぜ!」
     5分後。シャアとボードが滑る音と共に、金髪の逞しい青年 — ビイトが目の前に姿を現した。その後からツイスターズの残りの二人も追いついてくる。見えない空中の足場を跳ね渡るような身軽なステップは、はたから見ていると人間の動作とも思われない。
    「大丈夫だったか?」
     案ずる声をかけられたリンドウは小さく頭を下げる。
    「スミマセン……バスに乗る気とか全然なかったんですけど、気がついたらあそこにいて……」
    「あぁ気にすんな、西口でサボってた死神のイタズラだとよ」
    「悪戯」
     苦々しい顔でリンドウは繰り返す。悪戯でミッションの時間を消費させられたら堪ったものではない。
    「ノイズまで仕掛けて来やがった、ちっと苦戦したぜ」
    「そうだったんですか」
     最初に聞いたときはやや地味と思えたビイトの固有能力だが、改めてその有用性を思い知らされる。狭い道とはいえバスで走って来た距離を、邪魔されながら15分もかけずに追いつかれていた。
    「ま、これで謎は解けたし、とっとと報告だ」
    「そうですね」
     行くぞ、と再びボードを構えたビイトを横目に、ちらりとだけ神泉町を振り返った。交差点を挟んだ向かい側までの空間にはきっと目に見えない壁があって、向こう岸に渡ろうとする自分を拒絶するのだろう。先程バスに乗り込んだリンドウを無碍に振り落としたのと同じように。
     少しだけ遠い。決して、向こう側へは行けない。
    「……この辺、来たことなかったよな」
     不意に声がかけられる。振り向くと、先週と打って変わってすっかり疲れた目をした友人 — フレットが同じように道路の向こう側を眺めていた。
    「そうだけど」
     渋谷から歩いて30分ほどだろうか。そう離れてもいないが、自分たちがダラダラとぶらつくいつものルートからは大きく外れている。そこそこの数の休日を共に渋谷で過ごしたが、当たり前のように駅前からセンター街、東急ハンズ、PARCO……せいぜいがキャストまで足を伸ばす程度だった。自覚している以上に、自分たちの住う世界は狭いのかもしれない。
    「この先って何があんのかね」
    「……目黒区。でかい大学。シモキタ」
    「ふぅん」
     それきり相手は黙り込み、しかしすぐにはビイトの後を追おうともせず、つまらなそうに道の向こうを眺めている。自分も何か口に出したい言葉があるような気がしたが、何を言っても相手には届かないという気もした。飲み込んで胸の奥に仕舞い込んだ言葉が、蒸し暑い空気の中で溶かされ流れ落ちていく。見かねたナギが「行きますぞ」と声をかけるまで、黙り込んだまま二人で目黒区を見つめていた。
     — RGに戻ったら行ってみるか?この道の向こう。

     帰ってみれば30分ほどもかかっていない、ささやかな休み時間のような空白だった。
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    限界羊小屋

    DONE用語
    <キルドレ>
    思春期で成長が止まり決して大人にならない種族。一般人からは異端視されている。
    ほとんどが宗教法人か戦争企業に所属して生活する。
    <戦争>
    各国に平和維持の重要性を訴えかけるために続けられている政治上のパフォーマンス。
    暴力が必要となる国家間対立は大方解決されたため実質上の意味はない。
    <シブヤ/シンジュク>
    戦争請負企業。
    フレリン航空士パロ 鼻腔に馴染んだガソリンの匂いとともに、この頃は風に埃と土の粉塵が混じっていた。緯度が高いこの地域で若草が旺盛に輝くのはまだもう少し先の話。代わりのように基地の周りは黒い杉林に取り囲まれている。花粉をたっぷりと含んだ黄色い風が鼻先を擽り、フレットは一つくしゃみをした。
     ここ二ヶ月ほど戦況は膠着していた。小競り合い程度の睨み合いもない。小型機たちは行儀よく翼を揃えて出発しては、傷一つ付けずに帰り着き、新品の砂と飲み干されたオイルを差分として残した。だから整備工の仕事も、偵察機の点検と掃除、オイルの入れ直し程度で、まだ日が高いうちにフレットは既に工具を置いて格納庫を出てしまっていた。
     無聊を追い払うように両手を空に掲げ、気持ちの良い欠伸を吐き出した。ついでに見上げた青の中には虫も鳥も攻撃機もおらず、ただ羊雲の群れが長閑な旅を続けていた。
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    DONEフレリン クリア後世界
    ワンライのテーマ「バッジ」
    バッジ操作デモが彼らの撮影動画だったら?というとこからの発展形
    Forget me not.「リンドウと撮ったやつさ、全部消えてた」
     「死神ゲーム」が終わって2日目の朝。早い時間の教室で、リンドウと一つの机に向き合っていた。机の上に載せたスマートフォンは何も変わらない渋谷の風景を映し出している。
    「フレットも?俺も消えてた」
     同意を返される。全く同じ状況らしい。
     本来ならば動画に映っているのは、コートを風になびかせて鮮やかな斬撃を叩き込む新米サイキッカー・リンドウの姿のはずだったのに。

     撮影会を始めたきっかけはほんのお遊びだった。バッジに念を込めることで「サイキック」が発動し、不思議な力で炎やら水やらを出して自在に操ることができる。サイキック能力を使って襲ってくる動物型の「ノイズ」を撃退する。まるで映画の主人公になったように感じて刺激的だった。試しに虚空に斬りかかるリンドウをスマホのカメラで撮影してみると、特撮を爆盛りにしたSF作品の主人公のようにバッチリ決まっていた。UGに来たばかりの頃はそれが新鮮で、豪華なイベントだなどとはしゃぎながらお互いの姿を撮りあっていた。
    2051

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