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    Passion! VIRTU@L STAGE!6 展示①
    掃除中に怪我をしたのがクリスさんにバレた雨彦さんの話。
    当然のように同棲している雨クリです。

    #雨クリ
    raincoatClipper

    「雨彦!大丈夫ですか!?」
     驚いたような声が耳に届いて、雨彦ははっとした。周囲を見渡すとそこは勝手知ったる我が家の玄関。目の前には心配そうな表情で近づいてくるクリスの姿。
     少しずつ現状が頭に入ってきて、雨彦は失敗した、と内心歯噛みした。

     現在時刻は、もうすぐ日付が変わろうという時間。今夜の雨彦は、掃除屋としての仕事に足を運んでいた。
     ことの始まりは、その掃除の対象というのがいつになく難敵で、少々手こずってしまったこと。掃除自体は無事に完遂したものの、いくつか傷を拵える結果になってしまった。傷とはいっても、軽い擦り傷がほとんどなのだが、左腕に負った切り傷だけは誤魔化しが利かなそうな具合だ。
     アイドルになってからは、顔の怪我にだけは気を付けるようにしているのだが、掃除の仕事というのはいつも完全に無傷とはいかない。それでも基本的に人目につくような怪我をすることはなかったし、多少の傷は掃除中に不注意で負ったものだと言えば、周囲にも納得してもらうことができていた。
     クリスと恋仲となってからそれなりに時間が経ったが、未だに雨彦は掃除屋としての仕事について詳しく話していない。その代わりクリスに余計な心配を掛けないために、より怪我に気をつけるようになっていた。それでも怪我を負った日には、理由をつけて清掃社の方に帰るようにしていたのだが、今日に限って家に帰ってきてしまった。
     正直なところ、掃除を終えてから家にたどり着くまでのことは、あまり覚えていない。心身ともに疲れ果てていたせいで、自然とクリスが待つ家に足が向いてしまったのだろう。
     クリスに見つかってしまったからには、今回はもうこのまま乗り切るしかない。
    「掃除中にちょいとアクシデントがあってな。悪い、救急箱を用意してくれるかい?」
    「わかりました。すぐに持ってきますから、雨彦は座っていてください」
     左腕の傷以外は平気なのだと主張するように、無傷の右腕を動かしながら告げると、慌てた様子でクリスが背を向ける。それを見届けた雨彦は小さく息を吐いて、重い身体を叱咤しながら靴を脱いだ。

     リビングのソファに腰掛けると、急に疲れが押し寄せてくる。すぐにパタパタとスリッパの音を立てながら救急箱を手にしたクリスが戻ってきて、雨彦の隣に座った。
     失礼します、と一言断ったクリスは、雨彦の作業着のファスナーを下ろして傷の様子を確認する。幸い血はほとんど止まっていたので、水で軽く洗い流して手当を始めた。
    「痛くはありませんか……?」
    「大丈夫だ。見かけほど大した傷じゃないさ」
     心配そうな表情を浮かべながらも、クリスは何も聞かない。それでも琥珀色の瞳が不安げに揺れているのを見ると、申し訳ないという感情が強くなる。
     クリスは昔から、雨彦の隠し事には触れようとしない。何かあることはわかっているはずなのに、ミステリアスなところも雨彦の魅力だ、などと言って笑ってみせる。こういう関係になる時だって、全てを知っていなくたって、雨彦を想っていることに変わりはないのだと雨彦を受け入れてくれた。
     雨彦はそんなクリスに甘えながらも、時折本当にそれでいいのだろうかと考える。このままクリスと共に生きていくのであれば、いつかは全てを伝えなければいけないだろうとも思う。
     雨彦はもっと欲張って生きていこうと決めた。その対象には、もちろんクリスも含まれている。手放せないなら、覚悟を決めるべきなのではないか。
     手際よくガーゼを当て、包帯を巻いていくクリスを見守りながら、そんな思考が頭の中を巡る。
    「……なあ古論、俺に何か聞きたいことはないか?」
    「聞きたいこと、ですか?」
     自分から切り出す覚悟もないまま、そんな言葉が自然と出てきた。少々ずるい言い方ではあるが、今の雨彦にはこれが精一杯だったのだ。
     突然の雨彦の言葉に、クリスは目を瞬かせる。
    「お前さんには心配をかけちまったからな。お前さんが知りたいと思っていることに何でも答えるさ」
    「そうですね……」
     クリスはじっと雨彦の顔を見つめる。今の自分はどんな表情をしているのだろうか。クリスがこちらの様子を伺いながら、真剣に考え込んでいるのを見るに、雨彦の言いたいことは察したのだろう。
     何でも話すだなんて、これまで言ったことはない。自分が柄にもなく緊張しているのがわかって、雨彦は内心苦笑する。
    「では、次のオフをどう過ごすか、雨彦の希望を聞きたいです」
    「……は」
     思わぬ回答に完全に意表を突かれた雨彦は、ぽかんとした顔でクリスを見た。クリスは穏やかな笑みを浮かべながら、雨彦の回答を待っている。
    「次のオフは二人一緒でしょう?どこかへ出かけるのも良いかと思いまして。もちろん傷に障らないようにしないといけませんが……」
    「……待て古論、それでいいのかい?」
    「はい、これが今知りたいことですが……」
     何かを我慢しているような素振りもなく、クリスはさらりと答える。肩透かしを食らった雨彦は、呆けた顔でクリスを見ることしかできない。
    「……俺が普段どこで何をしているのか、気にならないのか?」
    「気にならないと言ったら嘘になりますが……」
     そんな会話をしている間にすっかり手当を終えたらしいクリスは、徐に雨彦へ顔を近づける。覗き込むようなその瞳に、雨彦が考えていることも、戸惑いも全て見透かされているような感覚がした。
    「けれどまだ、私が知るべき時ではないのでしょう?」
     どうやらクリスは、雨彦の中途半端な覚悟まで見抜いてしまったらしい。クリスは自分のことを、人の機微に疎いと評するが、時折こうして本質を鋭く見抜いてみせるのだ。
    「雨彦が私を気遣ってくださったことは嬉しいです。けれど時期ではない事を無理に知りたいとまでは思いません」
    「古論……」
    「それよりも、あなたの好きなことややりたいこと、未来のことが知りたいのです」
     その言葉を聞いた雨彦は、思わずクリスのことを抱き寄せる。小さく声を上げたクリスは、傷に触れないようにそっと雨彦の背に手を回した。
    「……悪い。もう少しだけ、その時が来るまで待っててくれるかい?」
    「もちろんです。でもちゃんと、何があってもここに帰ってきてくださいね」
    「ああ」
    「またこうして怪我をするようなことがあったら、隠さずに手当をさせてください」
    「ああ」
    「私にできることはあまりないかもしれませんが、それでも頼ってほしいのです」
    「わかった」
     雨彦が頷けば、それで十分だとクリスは笑う。それにどこか救われたような心地がした。
    「なあ古論」
    「はい」
    「俺は、お前さんと出会えて良かった。お前さんが俺を選んでくれて良かったよ」
    「ええ雨彦、愛しています」
     雨彦がなかなか言葉にすることができない愛すら、クリスは真っ直ぐに与えてくれるのだ。
     クリスを抱きしめる腕にほんの少し力が入る。クリスはくすりと笑って、身体を密着させるように雨彦の方へ頬を寄せた。
     二人の間にそれ以上の言葉は、いらなかった。
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