ここに残るかどうか迷っていたロイドも腹を括り、特務支援課が発足し。本格的に業務を始めようかというこの日、端末を確認したロイドたちが出掛けようとしたところでセルゲイから待ったがかかった。
「おい。お前らに渡すモンがあるからちょっと待て」
「渡す物、ですか?」
「ああ。業務上、お前らは一般市民と接する機会が多くなる訳だが、警察官の制服じゃ威圧感を与えちまうかもしれねえ。かといってその格好じゃ警察とは信じてもらえねえ可能性もある。なんで一応、C.S.P.D.――クロスベル警察のロゴの入った揃いのジャケットと、SSS――特務支援課のバッジを用意させた」
「あら。確か服は自由だって聞いた覚えがあるのですが」
「ああ、自由だ。だから着たくなきゃ別に着なくてもいい。……が、ロイド。せめてお前ひとりくらいは着とけ」
「え、俺ですか?」
「ああ。こいつもリーダーの役目だと思ってくれ」
「わ、わかりました……」
「おーおー、リーダーってのも大変だねえ」
「他人事のように言ってくれるじゃないか。で、ランディは着ないのか?」
「俺か? ん~、あんま似合いそうにねえし、俺はパスかな」
「私も、遠慮させてもらおうかしら」
「そ、そうか……。えっと、ティオは?」
「私が着るとでも?」
「だよな。……はあ、ま、良いけどさ。みんな、今着てる服がよく似合ってると思うし」
ロイドがため息をつきながらぽろりとこぼした言葉に、セルゲイとロイドを除く3人はぱちりと瞬きをして顔を見合わせる。
「……なあ、こいつ今、さらりと何か言わなかったか?」
「言ったわね。……この何日かでうすうす察してはいたけど」
「これはとんでもない人タラシの予感がしますね」
そしてロイドが着ていたジャケットを脱いでロゴ入りのジャケットに着替えるのを横目に見ながらぼそぼそと小声で会話を交わしていれば、着替え終わったロイドは怪訝そうな顔で3人を見つめる。
「何か言ったか?」
「何でもないわ、ロイド。気にしないでちょうだい?」
「けど、今何か言ってただろ? 俺のことじゃないのか?」
「大したことじゃねえから、な?」
「……怪しい」
「全く怪しくありません。それより、そろそろ業務を始めた方が良いのでは?」
「思いっきり話を逸らそうとしてないか?」
「……お前ら、いつまでくっちゃべってる。着替え終わったのならさっさと仕事を始めろ」
「あ、は、はいっ!」
セルゲイの鶴の一声にその話はうやむやになり。受け取ったバッジをそれぞれしまいながらほっと胸をなでおろした3人とそれをじと目で見たロイドが外へ出て行くのを眺めたセルゲイは、何とも賑やかなこって、とため息を落とす。だがその顔には微かに笑みが浮かんでいて。
こんな風に賑やかなのも悪くないと、そう思っているのは明白だった。
「そういやロイド。お前、上着のベルト、ちゃんと締めるんだな?」
「だって、そうしなきゃ動きづらいだろ?」
「そ、そうか。……ま、お前にゃ似合ってるし良いか」
「それってどういう意味だよ?」
「まだまだお子ちゃまってことだよ」
「ランディっ!」
~・~・~
オークション会場でキーアという少女を保護してから数日。
ルバーチェからの報復、あるいは接触があるかもしれないと通常の業務は全てストップして、支援課ビルに缶詰めになったロイドたちは少し暇を持て余していた。
「はあ、暇だなあ」
「そんな事言っても仕方ないだろ? ランディ」
「とはいえ、確かにちょっと暇よね。何かここでも出来る事があれば良いのだけど」
一階に集まってそんな会話を交わすメンバーはビルの中ということもあり上着を脱いでいて。
椅子の背にかけられたロイドの上着を見たキーアが、目をキラキラと輝かせながらこれ、着てみたい、と言い始めた。
「え? これ……って、俺の上着?」
「うん、そう! あのね、なんだかカッコいいなあって思って」
「何だよキー坊。俺の方がカッコいいだろ?」
「えっとね、ランディもカッコいいんだけどね? キーアはロイドの方がカッコいいと思うな!」
「あら。キーアちゃんはやっぱりロイドが一番好きなのかしらね?」
「く、お子ちゃまには俺のアダルティーな魅力はわからんか」
「それ、言外にロイドさんはお子ちゃまだと言ってますか? ランディさん」
「っな、ランディ!?」
「あ、こらっ、余計な事を言うな、ティオすけ」
途中で少し話が脱線したものの、ロイドがキーアの頼みを断るはずもなく、サイズがかなり大きいロイドの上着を羽織ってくるくると回りながら嬉しそうにはしゃぐキーアを見ていると退屈も紛れ。
その後、キーアにせがまれる形でエリィとティオもロイドの上着を羽織り、やっぱりあなた結構肩幅があるわよね、だの、大きすぎてちょっと重たいです、だのと言う中、自分だけ蚊帳の外みたいで少し面白くないランディが無理やりジャケットを羽織ろうとしてロイドに怒られる光景が繰り広げられ。
やけに賑やかだな、と課長室から出てきたセルゲイは、その様子を眺めながらあいつら状況がわかってるのか? と呟いたのだった。