キログラムの愛情 「黒雪!よかった!見つけた!」
「槐…?どうしたのそれ」
正面が見えなくなりそうほどの箱を持って危なげに歩く槐に呼び止められた俺は驚きつつも槐からその箱を受け取るとゆっくり床に降ろした。
「…手紙?」
「あ、はい、うん…そうなの…これ、全部……私かあ黒雪に宛てたものなの」
「…俺?」
「うん」
読んで、と言うように槐に一通の手紙を受け取る。中を開いて内容を読んでみると俺だけに送られた槐の文字が綴られていた。
【黒雪が村を出てもう七日も経ちます。ちゃんとごはんは食べていますか?怖くて、心細くて泣いてはいませんか?私は、寂しい。黒雪に会いたい、会いたいです。】
次の手紙。
【もうすぐ黒雪の誕生日ですね。もう今の黒雪は私の背なんてとうに追い越してしまっているのでしょうね。淋しくもあり、嬉しいです。私の中の黒雪は思い出の中の小さな黒雪のままだから…会いたい、早く会って黒雪の顔が見たい。見たいです。】
次の手紙。
【まだ任務に行けません。皆は大丈夫だって言ってくれるけどやっぱり何かしたいと思ってしまう。会ったら黒雪は何か言ってくれるのでしょうか。何か言ってくれると、嬉しい。】
槐らしい綺麗な字で、可愛らしい字で、俺の名前を綴って、会いたいと声が聞きたいと何度も書いてくれていてそれが嬉しくて、望まれていたことが嬉しくて俺の頬を一筋の雫が伝って落ちていた。
「……えんじゅ、」
「はい」
「この手紙……俺にくれない?」
「勿論です。そのために引っ張り出して来たのですから――たくさん、たくさん、黒雪に聞いて欲しい話があったんです。それを忘れないようにと書き記しました。だから…たくさん、読んでくれると嬉しいです」
「っ…うん、知りたい、聞きたい、読みたい…えんじゅが、俺に話したいこと。聞いて欲しかったこと。槐が俺に向けて書いてくれた手紙を俺は受け止めたいんだ」
「うん、読んで…読んでほしい」
そうやって笑う槐が眩しくて、確かに物量としてそこにある槐からの優しさを、愛が俺だけに向けられることが嬉しくてほろほろと涙を零し続けた。
-了-