悪魔は誓いを立てるのか バタバタと廊下を駆け抜けて新聞部の部室のドアを勢いよく開く。
「ひゃー、メフィストごめんっ」
「なっ……! ちょっと待て、そこを動くな!」
メフィストは俺が大声をあげながら騒々しく部室に入ってきただけでも驚いたに違いない。それに加え、大洪水に流されてきたようにびしょ濡れに濡れた俺の姿を見て、きっと目眩がしただろう。
しかし、それでも卒倒したり激怒したりせずに、急いでタオルを取りに走ってくれた。大切なのは俺のことだろうか、それとも、紙だらけで水分に弱い新聞部の方だろうか。
メフィストは奥の部屋から白い大きなバスタオルを持って俺の前に帰ってきた。どうしてそんな物まで部室にあるのだろう。考えている間に、俺は洗われたあとの犬のようにわしゃわしゃと体中の水滴を拭き取られる。
「一体全体どういうことだ、傘は持っていなかったのか」
「突然降ってきたんだよ、しかも、かなりのゲリラ豪雨が」
俺だってびしょ濡れで泣きそうだ。
「教室に行くよりもこっちの方が近かったんだよ、メフィストがいてくれて良かった」
最後にもう一度頭にバスタオルを掛けられ、髪の雫を拭き取られた。
「よし、これで一応は大丈夫そうだな。あとは着替えを……」
頭に掛かったバスタオルを両手でめくられる。開けた視界にほっとしたようなメフィストの顔が見えた。俺よりずっと背の高いメフィストが真正面から俺の顔をじっと覗き込んでいる。
(わぁ……)
俺の妄想力が高いことは認めるが、白いバスタオルがウェディングドレスのベールのようだ。
「誓います」
「はっ?」
健やかなる時も病める時も、この命ある限り真心を尽くすことを……いや、神に誓っても仕方ないか。悪魔だもんな。