ふゆのせいざ 年末のせいか、今夜はいつもより空が近く見える。女王陛下が時計係以外の仕事を下さったのは、こんな日だったと、タクシーの後部座席で外をみやりながら豊穣は思い返す。星々の名をもつあの方々と、地に生きる我々とは、文字通り天と地ほどの差があることはわかっていた。頑ななまでに、時計係と、お茶の相手しか任せなかったあのお方が、初めて自分に仕事を任せてくれた。そのことだけ考えるようにしていた。その日がWinterTri-Angelsのライブの初日であることは、考えないようにしていた。嫉妬に目が眩んで、女王陛下をあのような窮地に追いやってしまったのかもしれない。
星々の光る空が近づいてきた。そう思った。本当は嬉しかったのだ。女王陛下についていく者が自分しかいなかったことが。自分しか仕える者がいなければ、もっと女王陛下は自分にお心を開かれる。
結局はそうはならなかったけれど。
タクシーを降り、店員に顔が割れた花屋で白百合の花を買う。
どこからともなく、身なりはいいが暗い目をした少年が現れる。
「こんにちは」
「はい、こんにちは。今日も頼まれてくれますか?」
「構いません」
「これを、いつもの場所に置いてきて」
札数枚と、花束を手渡す。
「わかりました」
仕事には律儀だ。やったふりをして、金をちょろまかしたりはしない。つまらない仕事を何度か頼んで、それはわかっている。自分は信用されていないのだろうし、それもわかっている。
あの元夭聖の悪徳弁護士から、この子をどう引き離せばいいのかわからない。引き離してどうしたものかもわからない。地に近い種族であることと、幼い頃から嗣子としての使命を背負わされてきたこと。それだけしか共通するものなどないのに、自分はこの子のことを、わかった気でいる。同じ地を這うものとして、遠い空で光るあの星々よりも、ずっと。