赤い衣装「ただーいまー」
勢いよく扉が開いて、樹果が帰ってきた。
「おかえり、樹果くん、他のみんなはどないしたん?」
「蘭丸はチルカを迎えに行ってる。焔はうるうくんに生徒会の仕事を手伝わされてる」
座席に無造作に鞄を投げながら樹果は答えた。
「焔くんも災難やな」
「そうでもないんじゃん? サンタの格好して、近所の子供たちにプレゼント渡すんだって。俺も行きたかったな〜」
「残念やったな。正体バレたらえらいこっちゃやからな。帰ってて正解や」
「そうなんだけどさ」
カウンターの椅子に座り、しばらく突っ伏してから顔をあげた。
「サンタの格好、してみたかったかな、別にトナカイでもいいけど」
寶が何か思い付いたようにぱん、と手をたたく。
「顔見知りの別嬪さんからもらった衣装があったんや!」
戸棚の中から封を切られていないビニール袋を引っ張りだし、カウンターに広げる。
「え、これビールの奴で、夏用じゃん」
樹果が軽く睨んでくる。
「こっちはどないや」
白いポンポンのついた、赤いベルベットを模したような衣装の封を開ける。
目を輝かせた樹果の表情が徐々に平坦なものとなっていく。
「いや、サンタはサンタでも、これミニスカじゃん」
「せやったな」
「だったら」
カウンター脇によけられていた、茶色の衣装を顎で示す。
「トナカイのほうがまだ……、あ! 言い出しっぺの寶が着りゃいいじゃん」
「何のことやら」
「ダメ?」
「アカンに決まっとるやろ」
しばらく睨み合いが続いた。とは言っても、樹果が寶を睨みつけ、寶は店の用事を片付けるふりをしつつ樹果の視線をやりすごしていたのだが。
「決めた。別嬪さん、呼ぼう」
「はい?」
「豊穣さんに連絡して、女王さまを呼ぼう。豊穣さんだってイヤな気はしないだろ、多分」
寶は黙って携帯をいじり始めた。これほど早く豊穣さんに連絡がつけばいいと思ったことなどなかった。