ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:フリー。フリーなので同時多発させています。free 校舎の裏手に、学生服姿と、崩れた雰囲気の、いっけん不釣り合いな二人の姿が見える。
「夭聖のドア使えばいいのに、車で来るとか珍しいじゃん」
頬を膨らませる樹果の手に、寶が生徒手帳を握らせる。
「蘭丸くん、まーた忘れ物しとったから、おデートキャンセルして持ってきたったんや」
樹果は大袈裟にため息をつく。
「キャンセルは嘘だろ、せいぜいリスケだな。途中まではいっしょだったけど、またいなくなっちゃったから、そのまま来ちゃったんだよねー。いつものことだし」
「焔くんとうるうくんは?」
樹果は耳をすます。
「あー…、焔は屋上にいると色々面倒だからって、生徒会室に逃げ込んでるみたい」
「セーシュンやねえ」
用事は終わったはずなのに、寶はどことなくこの場を立ち去りたがらないようだ。
636「夭聖のドア使えばいいのに、車で来るとか珍しいじゃん」
頬を膨らませる樹果の手に、寶が生徒手帳を握らせる。
「蘭丸くん、まーた忘れ物しとったから、おデートキャンセルして持ってきたったんや」
樹果は大袈裟にため息をつく。
「キャンセルは嘘だろ、せいぜいリスケだな。途中まではいっしょだったけど、またいなくなっちゃったから、そのまま来ちゃったんだよねー。いつものことだし」
「焔くんとうるうくんは?」
樹果は耳をすます。
「あー…、焔は屋上にいると色々面倒だからって、生徒会室に逃げ込んでるみたい」
「セーシュンやねえ」
用事は終わったはずなのに、寶はどことなくこの場を立ち去りたがらないようだ。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:愛。最終回後のほ さんに対するうるうさんの感情。言えないこと 死なれたら困る。感情のもっていきどころがないからだ。
あれから何もなかったように僕達は学校に行き、邪魂を退治し、夭聖界の復活に力をつくしている。少なくとも、僕はそのつもりだ。
歩照瀬も、あれから何もなかったかのように接してくれている。僕が皮肉を言おうが、もう胸ぐらを掴まれたりすることはない。張り合いがなくなって少し残念だ。
僕は、歩照瀬ほどものわかりがよくないらしい。まだ、歩照瀬のふとした仕草にあいつの影を見つけ、殴りかかりたくなる衝動を抑えきれない。
「おれが避ければいい話だろ」
と、歩照瀬はいうけれど、そういうところがバカで子供なのだ。好意と話し合いで物事が解決できると思っているのは子供だけだ。そして僕は、自分を律しきれず、歩照瀬の好意に甘えている。
440あれから何もなかったように僕達は学校に行き、邪魂を退治し、夭聖界の復活に力をつくしている。少なくとも、僕はそのつもりだ。
歩照瀬も、あれから何もなかったかのように接してくれている。僕が皮肉を言おうが、もう胸ぐらを掴まれたりすることはない。張り合いがなくなって少し残念だ。
僕は、歩照瀬ほどものわかりがよくないらしい。まだ、歩照瀬のふとした仕草にあいつの影を見つけ、殴りかかりたくなる衝動を抑えきれない。
「おれが避ければいい話だろ」
と、歩照瀬はいうけれど、そういうところがバカで子供なのだ。好意と話し合いで物事が解決できると思っているのは子供だけだ。そして僕は、自分を律しきれず、歩照瀬の好意に甘えている。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:闇。バックンのお話。最後ちょっとケモバク…?悪食の獏 目を閉じた後の夢を食べるのが仕事だ。でも、あの若い夭聖たちが何を願い、何を望んでいるのかは、あまりよくわかっていない。たとえば水潤なら、清く正しくありたい欲、火焔なら正々堂々とありたい欲、卉樹なら己の力を認められたい欲、それくらいなら食べていてぼんやりとわかってきた。うまいとかまずいとか、考えたこともない。
目を開けた夭聖の欲だって食べられる。金鋼にくっついていけば、腹が減ることもない。別についていくのは嫌じゃないのだから、あまり食い過ぎたときに気にやまないでほしい。
光輝の欲はわかっているが、片っ端から食べて気づかせないようにしている。光でいたくない、安らげる闇のなかで何も考えずにいたい。奴はそう思っているから、記憶が戻るのは、まだ当分先のことになるだろう。
481目を開けた夭聖の欲だって食べられる。金鋼にくっついていけば、腹が減ることもない。別についていくのは嫌じゃないのだから、あまり食い過ぎたときに気にやまないでほしい。
光輝の欲はわかっているが、片っ端から食べて気づかせないようにしている。光でいたくない、安らげる闇のなかで何も考えずにいたい。奴はそう思っているから、記憶が戻るのは、まだ当分先のことになるだろう。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:土。ほうじょうさんの短い話うしろめたさ あの人のことは、どうも苦手だ。別に何か悪いことをされたこともないし、むしろ逆で、気にかけてもらっていると言ってもいいのに。
おれをあの泥濘から救い出してくれたのは間違いなくあの人なのに、未だにあの人には馴染めずにいる。女王との謁見のときに始めて顔を合わせたあの四人のほうが、気が楽だ。
花園さんと接しているほうがまだいい。付き合いが長いぶん、対応には慣れている。
あの人には密命を与えられ、花園さんには夭聖連中の動向を探れと言われた。どちらも引き受けた。仕事はあるうちが花だ。花園さんは、あの人のことを、子どもの頃から苦労してきたとも言っていた。なるほど、それでおれを依枯贔屓する理由はわかった。でも、おれはおれであの人、豊穣さんじゃない。あれだけの献身と忠実さを、おれは絶対に持つことはできない。おれは、豊穣さんの期待に応えられることなく終わるだろう。できれば、それがもっと先だったらいい。
400おれをあの泥濘から救い出してくれたのは間違いなくあの人なのに、未だにあの人には馴染めずにいる。女王との謁見のときに始めて顔を合わせたあの四人のほうが、気が楽だ。
花園さんと接しているほうがまだいい。付き合いが長いぶん、対応には慣れている。
あの人には密命を与えられ、花園さんには夭聖連中の動向を探れと言われた。どちらも引き受けた。仕事はあるうちが花だ。花園さんは、あの人のことを、子どもの頃から苦労してきたとも言っていた。なるほど、それでおれを依枯贔屓する理由はわかった。でも、おれはおれであの人、豊穣さんじゃない。あれだけの献身と忠実さを、おれは絶対に持つことはできない。おれは、豊穣さんの期待に応えられることなく終わるだろう。できれば、それがもっと先だったらいい。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:光。💜視点のウィントラのギスギス話。遠雷 事務所の引っ越しが済んでしばらくして、プロキオンと話さなくなったのに気づいた。部屋は広くなったけど、以前みたいに三人で一緒にいることはなくなっていった。ろくにガスコンロも使えないあの子が泣いてたのはいつの話だっけ? そうシリウスに聞くと、
「さあな」
そっけない返事がかえってきた。
シリウスも、事務所にいることは少なくなっていった。誰かと会っているらしいけど、詳しいことは聞かなかった。その人のことを話すシリウスの瞳の輝きや、ふとした時の何か柔らかいものを撫でるような仕草で、何がおこっているかはだいたいわかったから。
僕たちは仲が良く見えていたと思う。
貰った手紙やアンケートにも仲の良さを誉められ、誰もとくに否定しなかった。
512「さあな」
そっけない返事がかえってきた。
シリウスも、事務所にいることは少なくなっていった。誰かと会っているらしいけど、詳しいことは聞かなかった。その人のことを話すシリウスの瞳の輝きや、ふとした時の何か柔らかいものを撫でるような仕草で、何がおこっているかはだいたいわかったから。
僕たちは仲が良く見えていたと思う。
貰った手紙やアンケートにも仲の良さを誉められ、誰もとくに否定しなかった。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:桜。最終回ネタバレ。シリウスさんの短い話。散る桜 己は、何も失ってなどいなかったのかもしれない。あの女への復讐だけを考えていた。だから愛著を取れぬよう、この世界を滅ぼそうとした。ベテルギウスの唇ごしの伝言で誤解に気づいた。
なぜ復讐を誓ったときは気づかなかったのだろう。あの女の髪も、この薄紅色の花と同じ色をしていた。三人で一緒にいた頃よく見せていた、あのみっともない泣き顔を見せられれば、復讐の気も萎える。
結局は、寂しかっただけなのかもしれない。己の復讐も、プロキオンの強がりも……そこまで考えて、ベテルギウスのことが気になりだした。ベテルギウスが何を望んでいたのか、知るよしもない。伝えたいことだけ伝えて、あいつは今の仲間のところへ帰っていってしまった。
409なぜ復讐を誓ったときは気づかなかったのだろう。あの女の髪も、この薄紅色の花と同じ色をしていた。三人で一緒にいた頃よく見せていた、あのみっともない泣き顔を見せられれば、復讐の気も萎える。
結局は、寂しかっただけなのかもしれない。己の復讐も、プロキオンの強がりも……そこまで考えて、ベテルギウスのことが気になりだした。ベテルギウスが何を望んでいたのか、知るよしもない。伝えたいことだけ伝えて、あいつは今の仲間のところへ帰っていってしまった。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:金。やっぱり寶さんの話になってしまいました。ハナキン「今日は花金やで〜」
朝日が窓から差し込むBAR Fの店内では、朝食にいつものカレーが振る舞われていた。
「花金ってなに? 草花と関係あんの」
スプーンを手に取りながら樹果がカウンター内の寶に話しかける。
「関係あらへんあらへん。仕事人はな、金曜の夜が一番リラックスできるって相場が決まっとるもんなんや」
「あ、そっか、今日少年ダンプの日じゃん、マンガ見せてもらおっと」
「僕は学校で絵を描いていきたいから、帰りが遅くなる」
カレーを上品に口へ運びながら、うるうが言った。
「最近、規律だ何だって、仲良し下校ごっこしないんだな」
ツボスコをカレーにかけながら、焔がいらぬちょっかいを出す。
「いらぬ口を叩くなら、嫌がらせにおまえにつきまとってやろうか?」
594朝日が窓から差し込むBAR Fの店内では、朝食にいつものカレーが振る舞われていた。
「花金ってなに? 草花と関係あんの」
スプーンを手に取りながら樹果がカウンター内の寶に話しかける。
「関係あらへんあらへん。仕事人はな、金曜の夜が一番リラックスできるって相場が決まっとるもんなんや」
「あ、そっか、今日少年ダンプの日じゃん、マンガ見せてもらおっと」
「僕は学校で絵を描いていきたいから、帰りが遅くなる」
カレーを上品に口へ運びながら、うるうが言った。
「最近、規律だ何だって、仲良し下校ごっこしないんだな」
ツボスコをカレーにかけながら、焔がいらぬちょっかいを出す。
「いらぬ口を叩くなら、嫌がらせにおまえにつきまとってやろうか?」
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:樹。短い樹果くんとばえふの話。ひだまりこもれび「陸岡は、女慣れしてるからな」
ってクラスメイトに言われたけど、それは大きな誤解だと思う。だいたい俺が訊かれることといったら、
「清怜生徒会長って、付き合ってる人いるのかな」
とか、
「歩照瀬くんのタイプって、どんなのか知ってる?」
とか、そんなのばっかりだ。俺自体に興味があるわけじゃない。まあ、好意を持たれても困るし、別に人間の好意を引いて愛著を集めてるわけじゃないから、気にしてないけど。
だいたい、女だどうだって気にしてたらBAR Fのランチタイムの手伝いだってできやしない。俺は、水をお客さんに出すだけで赤面してる焔とは違うんだ。
そうクラスメイトに言うと、
「バーのバイト…陸岡、意外にオトナじゃん」
495ってクラスメイトに言われたけど、それは大きな誤解だと思う。だいたい俺が訊かれることといったら、
「清怜生徒会長って、付き合ってる人いるのかな」
とか、
「歩照瀬くんのタイプって、どんなのか知ってる?」
とか、そんなのばっかりだ。俺自体に興味があるわけじゃない。まあ、好意を持たれても困るし、別に人間の好意を引いて愛著を集めてるわけじゃないから、気にしてないけど。
だいたい、女だどうだって気にしてたらBAR Fのランチタイムの手伝いだってできやしない。俺は、水をお客さんに出すだけで赤面してる焔とは違うんだ。
そうクラスメイトに言うと、
「バーのバイト…陸岡、意外にオトナじゃん」
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:水。ゆるくほむーる。おいしい水 昔の同僚に誘われて、ここらへん来たことがあったな。あの子は失恋してて、夭聖さんが願いを叶えてくれるカレーを、一万円も出して食べたいって言い出したんだった。一人で行くのが怖いからって言われて、特に願い事なんてない私もついていった。席に通されるまで、ずいぶん待たされた。個人店だからしょうがないかな、と思っていたけど、うさんくさいマスターの手際がいいのか、思ったより列の進みは早かった。
「み、水、いるか」
ぶっきらぼうな声がかけられ、見ると、ヤンキーっぽい外見の男の子がピッチャーを手にしていた。
はい、お願いしますと水をおかわりした。待たされていたせいか、うっすらレモンの香りがするその水のほうが、カレーより美味しかった気がした。
811「み、水、いるか」
ぶっきらぼうな声がかけられ、見ると、ヤンキーっぽい外見の男の子がピッチャーを手にしていた。
はい、お願いしますと水をおかわりした。待たされていたせいか、うっすらレモンの香りがするその水のほうが、カレーより美味しかった気がした。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:炎。わりとほむーるになっている。焦げる 僕は生徒会室の窓を閉めた。閉めても声が消えるわけではないけれど。
人間とは異なった知覚をもつこの体は、聞きたくない声まで耳に届けてしまう。
「あの……歩照瀬くん、今、付き合ってる人とか、いる?」
またか。生徒会室から歩照瀬のいる屋上から近いとはいえ、こう毎回毎回暑苦しい喋りを聞かされるとうんざりする。暑苦しく、べたべたした人間の欲望ほど、側で見ていて僕を倦ませるものはない。
窓の外に目をやる。青空が見える。校庭では運動部の部活動が始まったようだ。
「いねえけど、おれ、そういうの考えられなくて、悪ぃ」
「じゃあ、わたしが彼女に立候補してもいい?」
なぜ、きっぱり断れないのか。その気はないと引導を渡してやったほうが、あの子の傷も浅いだろうに。
673人間とは異なった知覚をもつこの体は、聞きたくない声まで耳に届けてしまう。
「あの……歩照瀬くん、今、付き合ってる人とか、いる?」
またか。生徒会室から歩照瀬のいる屋上から近いとはいえ、こう毎回毎回暑苦しい喋りを聞かされるとうんざりする。暑苦しく、べたべたした人間の欲望ほど、側で見ていて僕を倦ませるものはない。
窓の外に目をやる。青空が見える。校庭では運動部の部活動が始まったようだ。
「いねえけど、おれ、そういうの考えられなくて、悪ぃ」
「じゃあ、わたしが彼女に立候補してもいい?」
なぜ、きっぱり断れないのか。その気はないと引導を渡してやったほうが、あの子の傷も浅いだろうに。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:鍵。寶さんとうるうさんの話ですがカップリング要素はありません鍵のかけかた 静かに鍵を開けたつもりだった。
外の喧騒でごまかされると思っていたが、甘かった。BAR Fのカウンターに立っていた寝巻き姿のうるうに気づくのは、そう長く掛からなかった。
「買い出しで忘れもん思い出してしもて、コンビニに行っとったんや」
「夜のお出かけもほどほどにな。規律を守らないと一番先に咎めを受けるのは、寶、君じゃないのか」
「ワイのこと気遣うてくれとるのん? いや〜ん、うるうくんは優しいわぁ〜」
変なしなを作る寶を、うるうは冷ややかな視線で見つめる。
「気遣うほどの関心を、君には持っていない」
えらく正直なことを言い出すな、と寶は思った。うるうはバカ正直すぎるところがあり、そこがときに子供っぽく見える。
606外の喧騒でごまかされると思っていたが、甘かった。BAR Fのカウンターに立っていた寝巻き姿のうるうに気づくのは、そう長く掛からなかった。
「買い出しで忘れもん思い出してしもて、コンビニに行っとったんや」
「夜のお出かけもほどほどにな。規律を守らないと一番先に咎めを受けるのは、寶、君じゃないのか」
「ワイのこと気遣うてくれとるのん? いや〜ん、うるうくんは優しいわぁ〜」
変なしなを作る寶を、うるうは冷ややかな視線で見つめる。
「気遣うほどの関心を、君には持っていない」
えらく正直なことを言い出すな、と寶は思った。うるうはバカ正直すぎるところがあり、そこがときに子供っぽく見える。
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DONE #F蘭ワンドロ お題:チョコレート。ちょっと🤍💜が入ってるかも。冬とチョコレート「うわ、すっげ、わかりやすく義理じゃん」
Bar Fのカウンターの上には、ひとつ100円以内で買えそうなチョコが、それなりにラッピングされて並んでいる。
「でも、ちゃんとお礼はしなきゃダメだよ。お礼する日は3月14日だから。よくわからなかったら俺に聞いて」
「うん、ありがとう、樹果」
「でもさー、クラスでは地味な蘭丸が、義理とはいえこれだけチョコ貰ってるの意外だったよ。これが愛著集めだったら俺の勝ちだったのになー」
「もろたプレゼントは、エクセルで表にすると便利やで〜」
洗い物を終えた寶がカウンターの内側から声をかける。
「へー、寶はそうしてるんだ。俺もクラスの子から友チョコ貰ったからメモしとこうかな…… 」
634Bar Fのカウンターの上には、ひとつ100円以内で買えそうなチョコが、それなりにラッピングされて並んでいる。
「でも、ちゃんとお礼はしなきゃダメだよ。お礼する日は3月14日だから。よくわからなかったら俺に聞いて」
「うん、ありがとう、樹果」
「でもさー、クラスでは地味な蘭丸が、義理とはいえこれだけチョコ貰ってるの意外だったよ。これが愛著集めだったら俺の勝ちだったのになー」
「もろたプレゼントは、エクセルで表にすると便利やで〜」
洗い物を終えた寶がカウンターの内側から声をかける。
「へー、寶はそうしてるんだ。俺もクラスの子から友チョコ貰ったからメモしとこうかな…… 」
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:うさぎ。うさぎの気持ち「そういえば最近、陸岡はニンジンを生では食べないのか」
夕食のカレーを口にしながらうるうが聞いた。もっとも夕食だろうが朝食だろうが、ここBar Fではカレーしか出ないのだが。
「 今でも生で食えるけど、あれは緊張してたんだよ。はじめはうるうのこと、物静かで頼れるお兄さんみたいだなって勘違いしてたから」
すまし顔のうるうを横目で軽く睨みながら、樹果が応える。
「勘違い…意外に手厳しいな」
「猫かぶってたんじゃねえのか」
自分好みに味をツボスコで調整しながら焔が言った。
「次にその下品な液体を僕のカレーにふりかけたなら、今度こそ絶対に殺す」
言い放つうるうの口元に焔が反射的にカレーの匙を突き出す。勢いに押されて、うるうは激辛カレーを口にしてしまう。
641夕食のカレーを口にしながらうるうが聞いた。もっとも夕食だろうが朝食だろうが、ここBar Fではカレーしか出ないのだが。
「 今でも生で食えるけど、あれは緊張してたんだよ。はじめはうるうのこと、物静かで頼れるお兄さんみたいだなって勘違いしてたから」
すまし顔のうるうを横目で軽く睨みながら、樹果が応える。
「勘違い…意外に手厳しいな」
「猫かぶってたんじゃねえのか」
自分好みに味をツボスコで調整しながら焔が言った。
「次にその下品な液体を僕のカレーにふりかけたなら、今度こそ絶対に殺す」
言い放つうるうの口元に焔が反射的にカレーの匙を突き出す。勢いに押されて、うるうは激辛カレーを口にしてしまう。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:鬼。はるくるおに 生徒会室の扉がノックされた。樹果が顔を覗かせた。
「ごめん、学校内ではあんまり頼らないほうがいいと思ったんだけど、蘭丸がまたどっか行っちゃって」
またか、と思った。どうせあの蘭丸のことだ、さほどの悪さはしないとは思うが、規律の乱れが気にかからないといえば嘘になる。もっとも、あの火焔のあいつほどではないが。
「校内放送でもかけて呼び出すか? さっきまで学内でヤギと一緒にいるところまでは見たが……だとしたら、僕が見失ったってことだな」
「そんなことないよ、うるうくんのせいじゃないって!」
いきなりの大声で樹果が反論する。そうだね、そう思えたら良かったが、規律を守れない者は罰せられなければならないから、責任は僕が負わなければ。故郷の考え方はまだ僕を縛っているし、そこから抜け出すつもりもない。
655「ごめん、学校内ではあんまり頼らないほうがいいと思ったんだけど、蘭丸がまたどっか行っちゃって」
またか、と思った。どうせあの蘭丸のことだ、さほどの悪さはしないとは思うが、規律の乱れが気にかからないといえば嘘になる。もっとも、あの火焔のあいつほどではないが。
「校内放送でもかけて呼び出すか? さっきまで学内でヤギと一緒にいるところまでは見たが……だとしたら、僕が見失ったってことだな」
「そんなことないよ、うるうくんのせいじゃないって!」
いきなりの大声で樹果が反論する。そうだね、そう思えたら良かったが、規律を守れない者は罰せられなければならないから、責任は僕が負わなければ。故郷の考え方はまだ僕を縛っているし、そこから抜け出すつもりもない。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:こたつ。こたつ「これが……か」
家電量販店のけたたましい店内BGMをよそに、長髪の生徒会長が四角く低いテーブルを睨みつけていた。
「一回入ると出れなくなるらしいよ」
携帯片手に樹果が解説を加える。
「それほど危険そうには見えないが、布団があるとないとでは何か違うのだろうか…擬態型なのか?」
「知らねぇよ。入ってみりゃいいんじゃねえのか?」
荒っぽい焔の提案に、うるうは軽く眉をしかめてみせた。
「相変わらず慎重さの足りない男だな」
すうすうと寝息が聞こえる。蘭丸が歩きながら眠っていた。
「まーた寝てるよ」
蘭丸の肩に乗っていたバックンを抱き上げ、なんとかぬいぐるみに似せられないだろうかと、鞄に挟んだり、制服に入れたり、樹果は無駄な工作を試みる。
581家電量販店のけたたましい店内BGMをよそに、長髪の生徒会長が四角く低いテーブルを睨みつけていた。
「一回入ると出れなくなるらしいよ」
携帯片手に樹果が解説を加える。
「それほど危険そうには見えないが、布団があるとないとでは何か違うのだろうか…擬態型なのか?」
「知らねぇよ。入ってみりゃいいんじゃねえのか?」
荒っぽい焔の提案に、うるうは軽く眉をしかめてみせた。
「相変わらず慎重さの足りない男だな」
すうすうと寝息が聞こえる。蘭丸が歩きながら眠っていた。
「まーた寝てるよ」
蘭丸の肩に乗っていたバックンを抱き上げ、なんとかぬいぐるみに似せられないだろうかと、鞄に挟んだり、制服に入れたり、樹果は無駄な工作を試みる。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:雪。雪とおうち「雪を見たことがない、だと」
雪が降っていると聞き、BAR Fの外へ飛び出していった焔を目で追いながら、うるうはつぶやいた。
「だからあんなに元気いっぱいに飛び出していったんやねえ」
カウンター越しに寶が声をかける。
「焔もさ、雪が降ったときくらい、家にいればいいのに。おうちだとそうしてたよ。秋までにいっぱい食料を溜め込んでおいて、あったかい家の中で春までおしゃべりしたり、ゲームしたりして過ごすんだ」
コーヒーカップで手を温めながら樹果が言った。
寶もうるうも黙っていた。
「そういえば、僕も雪を見たことは無かったな。人間界の雪は。僕のいたところのように水で満たされてはいなかったから」
「え、じゃあ見にいきなよ!」
515雪が降っていると聞き、BAR Fの外へ飛び出していった焔を目で追いながら、うるうはつぶやいた。
「だからあんなに元気いっぱいに飛び出していったんやねえ」
カウンター越しに寶が声をかける。
「焔もさ、雪が降ったときくらい、家にいればいいのに。おうちだとそうしてたよ。秋までにいっぱい食料を溜め込んでおいて、あったかい家の中で春までおしゃべりしたり、ゲームしたりして過ごすんだ」
コーヒーカップで手を温めながら樹果が言った。
寶もうるうも黙っていた。
「そういえば、僕も雪を見たことは無かったな。人間界の雪は。僕のいたところのように水で満たされてはいなかったから」
「え、じゃあ見にいきなよ!」
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DONE #F蘭ワンドロ お題:晴れ着。寶さんと七五三。とりかえっ子(未遂) その日はパパもママも朝から忙しそうだった。あさごはんをたべたら、動きづらい服に着替えさせられた。蝶ネクタイが女の子のリボンみたいで、首が苦しいし気恥ずかしいしでイヤだった。電車に乗るのは楽しかったけど、神社は変な笛の音がするし、ぼくと同じような格好の子がいっぱいいて、しゃべりかけてもあんまり話してくれなかった。
めんどくさくなったから、トイレに行くふりをして外に出た。外の空気は冷たくて、少しだけ気が晴れた。
「そんなにイヤなら、ぼくとかわる?」
振り返ると、薄汚れたなりのやせっぽちの男の子がいた。見たこともない肌と髪の色をしている。返事できなくて、黙っていると、向こうが勝手にしゃべってきた。
「それ、なに?」
776めんどくさくなったから、トイレに行くふりをして外に出た。外の空気は冷たくて、少しだけ気が晴れた。
「そんなにイヤなら、ぼくとかわる?」
振り返ると、薄汚れたなりのやせっぽちの男の子がいた。見たこともない肌と髪の色をしている。返事できなくて、黙っていると、向こうが勝手にしゃべってきた。
「それ、なに?」
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:free/フリー。らんらんの自由人設定ってこれだと思ってるんですが自由時間 制服姿の三人を出迎えた寶は失望を表に出さぬよう、表情を取り繕う。また、蘭丸を見失ってしまったらしい。
「みんな、おかえり」
「ごめん寶、また蘭丸がいなくなっちゃっってる」
鞄を置きながら樹果が報告した。店内には客の姿はない。
「あれほど規律が乱れると言い聞かせていたのに」
うるうが大きな溜息をつく。
「毎日毎日同じような説教ばかり聞いてたら、嫌にもなるだろうよ」
焔が誰にともなく呟く。
「当たり前の規則が守れない無法者に限って、いらない無駄口を叩くのが得意なものだな」
「まあまあ、蘭丸くん、ひょっとして気になる子でもできたのかもしれへんで」
「なるほど」
樹果の目が輝きはじめた。他人の色恋沙汰が気になる年頃なのだろう。
701「みんな、おかえり」
「ごめん寶、また蘭丸がいなくなっちゃっってる」
鞄を置きながら樹果が報告した。店内には客の姿はない。
「あれほど規律が乱れると言い聞かせていたのに」
うるうが大きな溜息をつく。
「毎日毎日同じような説教ばかり聞いてたら、嫌にもなるだろうよ」
焔が誰にともなく呟く。
「当たり前の規則が守れない無法者に限って、いらない無駄口を叩くのが得意なものだな」
「まあまあ、蘭丸くん、ひょっとして気になる子でもできたのかもしれへんで」
「なるほど」
樹果の目が輝きはじめた。他人の色恋沙汰が気になる年頃なのだろう。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:冬の大三角形。豊穣さんと女王さまと… 別に三角関係ではありませんふゆのせいざ 年末のせいか、今夜はいつもより空が近く見える。女王陛下が時計係以外の仕事を下さったのは、こんな日だったと、タクシーの後部座席で外をみやりながら豊穣は思い返す。星々の名をもつあの方々と、地に生きる我々とは、文字通り天と地ほどの差があることはわかっていた。頑ななまでに、時計係と、お茶の相手しか任せなかったあのお方が、初めて自分に仕事を任せてくれた。そのことだけ考えるようにしていた。その日がWinterTri-Angelsのライブの初日であることは、考えないようにしていた。嫉妬に目が眩んで、女王陛下をあのような窮地に追いやってしまったのかもしれない。
星々の光る空が近づいてきた。そう思った。本当は嬉しかったのだ。女王陛下についていく者が自分しかいなかったことが。自分しか仕える者がいなければ、もっと女王陛下は自分にお心を開かれる。
779星々の光る空が近づいてきた。そう思った。本当は嬉しかったのだ。女王陛下についていく者が自分しかいなかったことが。自分しか仕える者がいなければ、もっと女王陛下は自分にお心を開かれる。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:クリスマス。そんなにカップリング色はないです。クリスマスといったらこれしかないと信じています。赤い衣装「ただーいまー」
勢いよく扉が開いて、樹果が帰ってきた。
「おかえり、樹果くん、他のみんなはどないしたん?」
「蘭丸はチルカを迎えに行ってる。焔はうるうくんに生徒会の仕事を手伝わされてる」
座席に無造作に鞄を投げながら樹果は答えた。
「焔くんも災難やな」
「そうでもないんじゃん? サンタの格好して、近所の子供たちにプレゼント渡すんだって。俺も行きたかったな〜」
「残念やったな。正体バレたらえらいこっちゃやからな。帰ってて正解や」
「そうなんだけどさ」
カウンターの椅子に座り、しばらく突っ伏してから顔をあげた。
「サンタの格好、してみたかったかな、別にトナカイでもいいけど」
寶が何か思い付いたようにぱん、と手をたたく。
801勢いよく扉が開いて、樹果が帰ってきた。
「おかえり、樹果くん、他のみんなはどないしたん?」
「蘭丸はチルカを迎えに行ってる。焔はうるうくんに生徒会の仕事を手伝わされてる」
座席に無造作に鞄を投げながら樹果は答えた。
「焔くんも災難やな」
「そうでもないんじゃん? サンタの格好して、近所の子供たちにプレゼント渡すんだって。俺も行きたかったな〜」
「残念やったな。正体バレたらえらいこっちゃやからな。帰ってて正解や」
「そうなんだけどさ」
カウンターの椅子に座り、しばらく突っ伏してから顔をあげた。
「サンタの格好、してみたかったかな、別にトナカイでもいいけど」
寶が何か思い付いたようにぱん、と手をたたく。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:阿以蘭丸/ベテルギウス。気持ち的には阿以蘭丸とベテルギウス両方お題にしたつもり…チル視点ですnamed 名前など何の意味があろうと思っていた。人間界のかりそめの名など、所詮は意味のないものと、そう思いたかった。
ベテルギウスは自分の名さえ忘れてしまった。己に刃を向けたのは、プロキオンの名に逆らえなかったからということくらいわかっている。だから己に協力してくれさえすれば、別に恨みもしないというのに。
人間に扮したベテルギウスは、正体を気取られない為か、実に地味な学生に見える。量産型、とでもいうのだろうか。動作に機敏さはなく、いつも無難な笑いを浮かべている。どうして思い出せないのか。あいつをベテルギウスと呼べるのは、もう己と、あの女だけで、あの女の配下にベテルギウスがいるということは、己は本当に一人きりの存在で、何もかもをあの女に奪われてしまったということなのか。
420ベテルギウスは自分の名さえ忘れてしまった。己に刃を向けたのは、プロキオンの名に逆らえなかったからということくらいわかっている。だから己に協力してくれさえすれば、別に恨みもしないというのに。
人間に扮したベテルギウスは、正体を気取られない為か、実に地味な学生に見える。量産型、とでもいうのだろうか。動作に機敏さはなく、いつも無難な笑いを浮かべている。どうして思い出せないのか。あいつをベテルギウスと呼べるのは、もう己と、あの女だけで、あの女の配下にベテルギウスがいるということは、己は本当に一人きりの存在で、何もかもをあの女に奪われてしまったということなのか。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:女王/プロキオン。かわいいだけの仕事 コツを掴めば、スカートのレースの上だって、そう座り心地は悪くない。ご主人様は、なんでもさせてくれる。ご主人様を差し置いてゲームに熱中しても怒らない。つんと匂いをさせて、爪を塗っても怒らない。ひょっとして自分は、かわいいだけが仕事なのだろうか?
振り返ってご主人様の顔を見遣ると、
「そう思いたければ、そう思っていればよい」
と言って、何かを思い出すように黙る。
と思うと、何やら甘いものを口に押し込まれる。
「豊穣、おまえの若い頃にそっくりだな」
そう仰って笑った。誰に似ているだって? あの口数少ない、ものを食べることなんて見たこともない、あいつに自分が似ているものか。
ゲームをしたりネイルをしたり寝たり食べたり。豊穣は仕事をしている。ご主人様である女王さまは、何もしていないのに、遊べずにいる。だからここで遊んでいるのは自分だけだ。
375振り返ってご主人様の顔を見遣ると、
「そう思いたければ、そう思っていればよい」
と言って、何かを思い出すように黙る。
と思うと、何やら甘いものを口に押し込まれる。
「豊穣、おまえの若い頃にそっくりだな」
そう仰って笑った。誰に似ているだって? あの口数少ない、ものを食べることなんて見たこともない、あいつに自分が似ているものか。
ゲームをしたりネイルをしたり寝たり食べたり。豊穣は仕事をしている。ご主人様である女王さまは、何もしていないのに、遊べずにいる。だからここで遊んでいるのは自分だけだ。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:陸岡樹果。カップリング色が濃厚になってしまいました。なんかすいませんかいだし「樹果くん、買い出し付き合ってや」
思わず振り返りそうになったけど、我慢した。声かけられたって、いつだって尻尾ふってついてくわけじゃないってことを見せたかった。
「今借りてる漫画読んでるから、あとにして」
「じゃうるうくんにお願いしよかな」
反射的に顔をあげてBAR Fの店内を見渡したけど、俺と寶以外には誰もいなかった。
「騙したな、うそつき」
「大人はずるいものなんや」
しれっとした顔で、俺の頭をぽんぽんしながら寶がいってる。
「気やすく人の頭を叩くなよ」
気恥ずかしくなって、その手をつい押さえる。
「あ〜痛い痛い、樹果くんの手の力がつようて、もう重いもの持てへんやん」
そんなわけないだろ。だいたい寶は力持ちなんだから、荷物持ちとかいらないはずだ。
518思わず振り返りそうになったけど、我慢した。声かけられたって、いつだって尻尾ふってついてくわけじゃないってことを見せたかった。
「今借りてる漫画読んでるから、あとにして」
「じゃうるうくんにお願いしよかな」
反射的に顔をあげてBAR Fの店内を見渡したけど、俺と寶以外には誰もいなかった。
「騙したな、うそつき」
「大人はずるいものなんや」
しれっとした顔で、俺の頭をぽんぽんしながら寶がいってる。
「気やすく人の頭を叩くなよ」
気恥ずかしくなって、その手をつい押さえる。
「あ〜痛い痛い、樹果くんの手の力がつようて、もう重いもの持てへんやん」
そんなわけないだろ。だいたい寶は力持ちなんだから、荷物持ちとかいらないはずだ。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:早岐椎菜。椎ピリかもしらんがカップリングではない… んじゃないでしょうか。ためしがき そろそろデジタルに移行も考えてるけど、通い慣れた画材屋の雰囲気だって、やっぱり嫌いになれない。
打ち合わせの為に久しぶりに新しい服を着て外に出た。ちょっと早めに出て買い物もしたいな、て思ったけど、結局ここにいる。
ペンの書き味は違うとはいえ、試し書きの紙に落書きしているようだったら、家にいるのと変わらない暇つぶしだ。
オレンジのペンを選んで、つい手癖で焔くんを描いてしまう。わたしと一緒にここまでやってきた、大事なキャラクター。自分の描いた落書きを見直していると、ちょっと離れて、見慣れない漫画のキャラが描いてあるのに気づいた。
クールそうな外見の、短めの髪の男の子が、水色のペンで描かれていた。この線、絶対わたしじゃ描けない。少しの嫉妬と、大きな憧れと。
565打ち合わせの為に久しぶりに新しい服を着て外に出た。ちょっと早めに出て買い物もしたいな、て思ったけど、結局ここにいる。
ペンの書き味は違うとはいえ、試し書きの紙に落書きしているようだったら、家にいるのと変わらない暇つぶしだ。
オレンジのペンを選んで、つい手癖で焔くんを描いてしまう。わたしと一緒にここまでやってきた、大事なキャラクター。自分の描いた落書きを見直していると、ちょっと離れて、見慣れない漫画のキャラが描いてあるのに気づいた。
クールそうな外見の、短めの髪の男の子が、水色のペンで描かれていた。この線、絶対わたしじゃ描けない。少しの嫉妬と、大きな憧れと。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:天狼院シリウス。🤍💜カップリング色出てます。🤍視点。tete-a-tete そのひととはよく会っているのだと思う。たとえば学校の行き帰りや、教室移動のときや、風呂からの帰りにでも。
でも誰にも言ったことはない。会ったのを覚えているのは向こうだけだから。
「本当に思い出せないのかい?」
胸元の紐がクロスしている不思議な白い服を着て、その肌の色とのコントラストがきれいだな、と思うけど、ただぼうっと見ているだけで、何もできない。
そのひとは、僕の名前を呼ぶけれど、僕にはどうしても聞き取れない。僕が決まり悪げに視線をちらつかせると、そのひとの青い瞳が怒りを含んできて、炎って青いほど温度が高いんだっけ、とかそういうことを思い出す。こんなくだらないことは簡単に思い出せるのに、僕はこのひとの名前すら知らない。
476でも誰にも言ったことはない。会ったのを覚えているのは向こうだけだから。
「本当に思い出せないのかい?」
胸元の紐がクロスしている不思議な白い服を着て、その肌の色とのコントラストがきれいだな、と思うけど、ただぼうっと見ているだけで、何もできない。
そのひとは、僕の名前を呼ぶけれど、僕にはどうしても聞き取れない。僕が決まり悪げに視線をちらつかせると、そのひとの青い瞳が怒りを含んできて、炎って青いほど温度が高いんだっけ、とかそういうことを思い出す。こんなくだらないことは簡単に思い出せるのに、僕はこのひとの名前すら知らない。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:雅楽代寶。そのつもりはないですがカップリング色があるかもしれません。ないかもしれません。さやあて「言っておくけど、俺のほうが寶よりモテるからね」
買い出しに連れ出した帰り道、荷物を持たせていた樹果が不意にそう口走った。
「ほぉん、いつ。どこで。どないして」
どうせ学校で、とかそんな話だろうとたかをくくっていた。
「近所で。寶も知ってる。子持ちのシングルマザー」
「おかあちゃんやろ?」
「そうだけど!」
おかあちゃんとは、朝帰りの寶が時々餌をやっていた、BAR Fの近所に居ついた子持ちの猫のことだ。野良猫らしく、人間に心を許さない。子猫の世話はよく見ている割には、こちらに甘えた仕草など見せたこともない、そんな猫だった。
「寶、おかあちゃんさわろうとしてシャーって言われてるだろ。俺は言われない」
「ほんま?」
637買い出しに連れ出した帰り道、荷物を持たせていた樹果が不意にそう口走った。
「ほぉん、いつ。どこで。どないして」
どうせ学校で、とかそんな話だろうとたかをくくっていた。
「近所で。寶も知ってる。子持ちのシングルマザー」
「おかあちゃんやろ?」
「そうだけど!」
おかあちゃんとは、朝帰りの寶が時々餌をやっていた、BAR Fの近所に居ついた子持ちの猫のことだ。野良猫らしく、人間に心を許さない。子猫の世話はよく見ている割には、こちらに甘えた仕草など見せたこともない、そんな猫だった。
「寶、おかあちゃんさわろうとしてシャーって言われてるだろ。俺は言われない」
「ほんま?」
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:バックン。夏の夜の 体の右側が重くなった。あの金鋼族の若いのが帰ってきたのだな、と思った。クーラーの効きが悪いこの部屋に、五人も体の上に乗せているのは相当暑苦しいが、文句を言えた義理でもないし、実際はそう複雑なことは喋れない。喋れないが、そう不自由を感じたこともない。あえていうなら、相棒と離れたのが寂しい程度か。
出されたものは何でも食べる。甘かろうが辛かろうが、カレーだろうがマシュマロだろうが夢だろうが欲だろうが。いちいち吟味などしない。
ときどき食べすぎて胸焼けをおこすと、金鋼族の若いのがすまなそうな顔で頭を撫でたりする。それがどういうことなのか、バックンにはわからない。なぜ自分の欲だけ他人より大きいと思い込んでいるのか、わからない。例えばあの光輝族の。自分でさえ食い切れなかった欲で全てを滅ぼしかけたのに比べれば、時々の胸焼けくらいかわいいものじゃないか。そう言いたいけれど、鳴き声しか出せないから、黙っておくしかない。
410出されたものは何でも食べる。甘かろうが辛かろうが、カレーだろうがマシュマロだろうが夢だろうが欲だろうが。いちいち吟味などしない。
ときどき食べすぎて胸焼けをおこすと、金鋼族の若いのがすまなそうな顔で頭を撫でたりする。それがどういうことなのか、バックンにはわからない。なぜ自分の欲だけ他人より大きいと思い込んでいるのか、わからない。例えばあの光輝族の。自分でさえ食い切れなかった欲で全てを滅ぼしかけたのに比べれば、時々の胸焼けくらいかわいいものじゃないか。そう言いたいけれど、鳴き声しか出せないから、黙っておくしかない。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:清怜うるう。うるうさんとピリカさん。カップリング要素なし。一番と星 今でもあの子のことを思い出す。僕の絵を褒めてくれて、自分の絵の素晴らしさには全く気づいていなかった、あの子のことを。
いつまでも友達ではいられなかったから、余計に気ががりなのかもしれない。僕とあの子は、報われない愛情をただ一人のひとに向けているところが似ていた。結局、僕は自分と似通ったものしか理解できないのかもしれない。
あのとき、僕は自分の仕事が失敗に終わったことを認めざるを得なかったのだ。そう思うしかなかった。
母親についた悪い虫だと思っていたものが、そうではないのかもしれないなんて考えもしなかった。
僕は一番が好きだから、あの子に一番は渡さない。
お母様が大好きで、一番に絵を見て欲しい気持ちは、僕だけが持っていく。二度と口をきくことがなくなって、お母様のことが嫌いになっても、あの子の心が楽になるなら、きっとそのほうが正しいに決まっている。あの子がどんなにお母様を好きだったのか、知っていたのはもう僕しかいない。
421いつまでも友達ではいられなかったから、余計に気ががりなのかもしれない。僕とあの子は、報われない愛情をただ一人のひとに向けているところが似ていた。結局、僕は自分と似通ったものしか理解できないのかもしれない。
あのとき、僕は自分の仕事が失敗に終わったことを認めざるを得なかったのだ。そう思うしかなかった。
母親についた悪い虫だと思っていたものが、そうではないのかもしれないなんて考えもしなかった。
僕は一番が好きだから、あの子に一番は渡さない。
お母様が大好きで、一番に絵を見て欲しい気持ちは、僕だけが持っていく。二度と口をきくことがなくなって、お母様のことが嫌いになっても、あの子の心が楽になるなら、きっとそのほうが正しいに決まっている。あの子がどんなにお母様を好きだったのか、知っていたのはもう僕しかいない。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:御守豊穣。遅れてくる者 結局のところ、あの三人に割って入る隙などなかったのだ。
星々の名をもつ、近衛のふたりは、私にとっての憧れだった。なりかわりたいとさえ思っていた。もうすこし早く生まれていれば。せめて産土族がもうすこし力を持っていれば。女王陛下は近衛の地位を私に与えてくれていたのだろうか。
私はまだ小さかったから、女王陛下の時計係くらいしか務まらなかった。ヴェールのむこうからただよういい匂いと、差し伸べられた腕をいまだに覚えている。
女王陛下のお相伴に預かるのが好きだった。見慣れないお茶やお菓子を食べて、女王さまのお話を聞いていられるその時間が。
けれど、それだけでは満足できなくなった。恐れおおい望みを捨てられなかった。私が欲しいのはお菓子じゃなくて、命令と責任なのに。この世に遅れてきた私は、いつでも子供扱いで、大切なことを何も知らされずにいる。早く大人になりたい。大人になって、女王陛下をお守りするという責任が欲しい。
410星々の名をもつ、近衛のふたりは、私にとっての憧れだった。なりかわりたいとさえ思っていた。もうすこし早く生まれていれば。せめて産土族がもうすこし力を持っていれば。女王陛下は近衛の地位を私に与えてくれていたのだろうか。
私はまだ小さかったから、女王陛下の時計係くらいしか務まらなかった。ヴェールのむこうからただよういい匂いと、差し伸べられた腕をいまだに覚えている。
女王陛下のお相伴に預かるのが好きだった。見慣れないお茶やお菓子を食べて、女王さまのお話を聞いていられるその時間が。
けれど、それだけでは満足できなくなった。恐れおおい望みを捨てられなかった。私が欲しいのはお菓子じゃなくて、命令と責任なのに。この世に遅れてきた私は、いつでも子供扱いで、大切なことを何も知らされずにいる。早く大人になりたい。大人になって、女王陛下をお守りするという責任が欲しい。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:歩照瀬焔。おれに関わる噂「クラスの子にも「歩照瀬くん、彼女とかいるの?」とか聞かれるよ。まあ俺はうるうくんのほうがカッコいいと思うけど!」
秩序が乱れるとのことで、学生に扮した夭聖たちは一緒に帰ることになっている。ただ、焔だけが、校門に姿を見せていない。
「文化祭も近いしな。いつものサボり場所がなくなって、誰かに喧嘩でも吹っかけてなければいいが」
下校時の生徒たちを見遣りながらうるうはつぶやいた。
「焔は、そういうことはしないよ」
いつもボーッとした蘭丸がいきなり口をきいたので、うるうと樹果は驚きの表情を見せる。
「なにを根拠に……ああそっか、マンガとかでもそうだしね」
樹果はコミック雑誌を鞄から取り出した。蘭丸が横から覗き込む。
530秩序が乱れるとのことで、学生に扮した夭聖たちは一緒に帰ることになっている。ただ、焔だけが、校門に姿を見せていない。
「文化祭も近いしな。いつものサボり場所がなくなって、誰かに喧嘩でも吹っかけてなければいいが」
下校時の生徒たちを見遣りながらうるうはつぶやいた。
「焔は、そういうことはしないよ」
いつもボーッとした蘭丸がいきなり口をきいたので、うるうと樹果は驚きの表情を見せる。
「なにを根拠に……ああそっか、マンガとかでもそうだしね」
樹果はコミック雑誌を鞄から取り出した。蘭丸が横から覗き込む。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:ライブ/show, concert。オーロラヴァイキングライブ後。とくにカップリング要素はないと思います。ライブの後で ライブ会場からBAR Fへ、歩いて帰ることにした。金にうるさい寶さえいなければ、電車くらいは乗れたかな、と樹果は考えた。
「樹果くん、ほっぺにチューされるの初めてだったん?」
「なわけないだろ……」
以前とは違い、オーロラヴァイキングのセンターになった圭のファンへの応対はこなれたものになっていた。こなれすぎていたからこそ、ショックが大きかったのかもしれない。
「どこぞの火焔族よりデリカシーがない発言だな、寶」
「なんだと」
「まあまあ、全員でチューの練習でもしてみいひん?」
寶はわざとふざけて唇を尖らせて、ピヨピヨと鳴き真似の仕草をしてみせた。
「バカバカしい、やってらんねえ」
焔は早歩きで雑踏に姿を消した。余計な衝突を避けたのかもしれない。
663「樹果くん、ほっぺにチューされるの初めてだったん?」
「なわけないだろ……」
以前とは違い、オーロラヴァイキングのセンターになった圭のファンへの応対はこなれたものになっていた。こなれすぎていたからこそ、ショックが大きかったのかもしれない。
「どこぞの火焔族よりデリカシーがない発言だな、寶」
「なんだと」
「まあまあ、全員でチューの練習でもしてみいひん?」
寶はわざとふざけて唇を尖らせて、ピヨピヨと鳴き真似の仕草をしてみせた。
「バカバカしい、やってらんねえ」
焔は早歩きで雑踏に姿を消した。余計な衝突を避けたのかもしれない。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:花火/fireworks。蘭丸さんに探りを入れる寶さん。とくにカップリング要素はないと思います。fireworks, wetworks ドアベルの音がしたので、寶は洗い物の手を止めて振り返った。
「ただいま」
蘭丸が帰ってきていた。
「みんなは? 喧嘩でもしたん?」
「そういうんじゃないけど、なんか、いづらくなって」
カウンターに座る蘭丸に、アイスコーヒーを出してやる。
「おしぼりとお水はセルフサービスや。冷コーはあと30分で廃棄のブツや。心して飲み」
はい、いただきます、とまじめくさった表情で蘭丸はアイスコーヒーを飲み始めた。
「花火、見えたん?」
蘭丸はうなずいた。
「焔も樹果もすごく喜んでたし、うるうも口では何か言ってたけど、怒ってはいなかった」
「嫌なことでも言われたん?」
蘭丸は首を振った。
「空を見るなら、一人のほうがいい気がして」
701「ただいま」
蘭丸が帰ってきていた。
「みんなは? 喧嘩でもしたん?」
「そういうんじゃないけど、なんか、いづらくなって」
カウンターに座る蘭丸に、アイスコーヒーを出してやる。
「おしぼりとお水はセルフサービスや。冷コーはあと30分で廃棄のブツや。心して飲み」
はい、いただきます、とまじめくさった表情で蘭丸はアイスコーヒーを飲み始めた。
「花火、見えたん?」
蘭丸はうなずいた。
「焔も樹果もすごく喜んでたし、うるうも口では何か言ってたけど、怒ってはいなかった」
「嫌なことでも言われたん?」
蘭丸は首を振った。
「空を見るなら、一人のほうがいい気がして」
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:十五夜/Jyugoya。なぜOZAKI……。15の夜 いつものBAR Fの店内で、三宝に盛られた団子を樹果が睨んでいる。
「食べへんのん?」
「寶、これどうしたの」
「そこの角曲がったところの店で、歳上のべっぴんさんにお金払って」
「和菓子屋のおばあちゃんとこで買ったんだ」
蘭丸が呟いた。
「蘭丸くん、わりと無粋なとこあんねんな……。ところで樹果くん、月見団子初めてなん?」
樹果はためらいがちに話しはじめた。
「なんか、聞いた話だけど、これ食べたら焔みたいになっちゃうんだろ? カッコいいかもだけど、ちょっと怖いっていうか」
「オイどういうことだよ、怒んねえから説明してみろよ」
タブレットから目を離した焔の声は、もう怒りを含んでいるように聞こえる。
「その団子食べると、バイク盗みたくなったり、学校や家へ帰りたくなくなったりするんだろ」
595「食べへんのん?」
「寶、これどうしたの」
「そこの角曲がったところの店で、歳上のべっぴんさんにお金払って」
「和菓子屋のおばあちゃんとこで買ったんだ」
蘭丸が呟いた。
「蘭丸くん、わりと無粋なとこあんねんな……。ところで樹果くん、月見団子初めてなん?」
樹果はためらいがちに話しはじめた。
「なんか、聞いた話だけど、これ食べたら焔みたいになっちゃうんだろ? カッコいいかもだけど、ちょっと怖いっていうか」
「オイどういうことだよ、怒んねえから説明してみろよ」
タブレットから目を離した焔の声は、もう怒りを含んでいるように聞こえる。
「その団子食べると、バイク盗みたくなったり、学校や家へ帰りたくなくなったりするんだろ」
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:蝉/cicada。2話くらいの時の話のつもりです。うかうか「どうした、陸岡」
いきなり街路樹にスマホを向けて何かを撮影しだした樹果に、うるうが声をかけた。
「しばらくなら待つが、終わるまで待っていたら遅刻するぞ」
「うん、うるうくん、ごめん」
樹果は生返事をしながら、蝉の羽化を撮影しているようだった。
「しょうがないな」
うるうはため息をつきながら、しばらく樹果を待つことを決めたようだった。
蝉は茶色の殻のような体から、白く虹色に光る新しい体が半分出ていて、羽を伸ばそうとしている。
「落ちたりしないの?」
蘭丸が呟く。
「半分以上は無事に大人になれないらしいよ」
言って、樹果はスマホをしまった。
「うるうくん、蘭丸ごめん、行こう」
「後少しなら時間はあるが、いいのか?」
615いきなり街路樹にスマホを向けて何かを撮影しだした樹果に、うるうが声をかけた。
「しばらくなら待つが、終わるまで待っていたら遅刻するぞ」
「うん、うるうくん、ごめん」
樹果は生返事をしながら、蝉の羽化を撮影しているようだった。
「しょうがないな」
うるうはため息をつきながら、しばらく樹果を待つことを決めたようだった。
蝉は茶色の殻のような体から、白く虹色に光る新しい体が半分出ていて、羽を伸ばそうとしている。
「落ちたりしないの?」
蘭丸が呟く。
「半分以上は無事に大人になれないらしいよ」
言って、樹果はスマホをしまった。
「うるうくん、蘭丸ごめん、行こう」
「後少しなら時間はあるが、いいのか?」
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:変身。とくにカップリング要素はないと思いますが、微妙にシリベテ寄りかもしれません人間のひみつ コーヒーの匂いに、学生たちはすぐ気づいたようだった。
「豊穣さんきとったで。お菓子あるから手ぇ洗って」
豊穣は時々菓子を手土産にBAR Fに立ち寄る。そして寶のいれたあまり美味くもないコーヒーを飲み、30分経つと帰っていく。なんとはなしの習慣になっていた。
「豊穣さん来てるなら、早く帰ってくればよかったー。聞きたいことあったのに」
洗面所のタオルで手を拭きながら樹果がいった。
「何をだ?」
コーヒーサーバーからカップにコーヒーを注ぎながらうるうは訊いた。
「どうやったら、ああいう渋カッコいいかんじの人間体に変身できるのか、聞きたいじゃん?」
「おめー、豊穣さんみたいになりたかったのか?」
「みんなにはいつでも聞けるけどさー、豊穣さん、たまにしか来ないから、参考っていうか」
710「豊穣さんきとったで。お菓子あるから手ぇ洗って」
豊穣は時々菓子を手土産にBAR Fに立ち寄る。そして寶のいれたあまり美味くもないコーヒーを飲み、30分経つと帰っていく。なんとはなしの習慣になっていた。
「豊穣さん来てるなら、早く帰ってくればよかったー。聞きたいことあったのに」
洗面所のタオルで手を拭きながら樹果がいった。
「何をだ?」
コーヒーサーバーからカップにコーヒーを注ぎながらうるうは訊いた。
「どうやったら、ああいう渋カッコいいかんじの人間体に変身できるのか、聞きたいじゃん?」
「おめー、豊穣さんみたいになりたかったのか?」
「みんなにはいつでも聞けるけどさー、豊穣さん、たまにしか来ないから、参考っていうか」
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:祭り/Festival。買い食い祭り「そこの神社さあ、夏祭りで屋台出てるみたいだよ、後で見に行ってみない?」
BAR Fへ帰宅そうそう、話を切り出したのは樹果だった。蘭丸はその横で、ただにこにこと笑っている。
「カレー以外のものが食えるんだったら行きてえ」
焔が忌憚のない発言をした。
「それはあるに決まっているだろう。だがそこまでして行く価値があるかどうかは疑問だがな。ただでさえ暑いのに、人混みに塗れて、小銭で割高な食べ物を買い食いして…」
本を読んでいたうるうが、話題に入ってきた。
「楽しそうじゃねえか」
「そうだな。たまにはな」
言い合いというよりじゃれあいに近い焔とうるうのやりとりを見やり、寶は安堵の笑みを浮かべる。
「ワイ、晩飯作らなくてええのん?」
750BAR Fへ帰宅そうそう、話を切り出したのは樹果だった。蘭丸はその横で、ただにこにこと笑っている。
「カレー以外のものが食えるんだったら行きてえ」
焔が忌憚のない発言をした。
「それはあるに決まっているだろう。だがそこまでして行く価値があるかどうかは疑問だがな。ただでさえ暑いのに、人混みに塗れて、小銭で割高な食べ物を買い食いして…」
本を読んでいたうるうが、話題に入ってきた。
「楽しそうじゃねえか」
「そうだな。たまにはな」
言い合いというよりじゃれあいに近い焔とうるうのやりとりを見やり、寶は安堵の笑みを浮かべる。
「ワイ、晩飯作らなくてええのん?」
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:アイドル/idol。ふわっと同時多発BLみたいになってる。最終回終了後くらいの時間です写真と名刺「蘭丸さあ、昔アイドルだったくせに、あんなこと皆にきいてたなんて」
口火を切ったのは樹果だった。閉店後のBAR Fの店内で、人間に扮した五人の夭聖たちが思い思いの場所でくつろいでいる。
「何のこと?」
蘭丸は聞き返す。Winter Tri-Angelsとして一世を風靡したとは思えない、地味なメガネ姿の高校生、それが今の蘭丸の姿だった。
「これ?」
カウンター内から寶が一枚の写真を差し出す。
ほかの四人は誰からともなく集合し、頭を突き合わせてその写真を見た。Winter Tri-Angels時代のシリウスとベテルギウスの写真だった。
「ふしだらだとか、言わねえのかよ」
焔がうるうに話題をふる。
「あの時はそれどころじゃなかったからな。愛著を得るためなら、やむおえないだろ」
896口火を切ったのは樹果だった。閉店後のBAR Fの店内で、人間に扮した五人の夭聖たちが思い思いの場所でくつろいでいる。
「何のこと?」
蘭丸は聞き返す。Winter Tri-Angelsとして一世を風靡したとは思えない、地味なメガネ姿の高校生、それが今の蘭丸の姿だった。
「これ?」
カウンター内から寶が一枚の写真を差し出す。
ほかの四人は誰からともなく集合し、頭を突き合わせてその写真を見た。Winter Tri-Angels時代のシリウスとベテルギウスの写真だった。
「ふしだらだとか、言わねえのかよ」
焔がうるうに話題をふる。
「あの時はそれどころじゃなかったからな。愛著を得るためなら、やむおえないだろ」
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:向日葵/sunflower。える圭… あとじゅかさんが百合の間に挟まる人みたいになっちゃってごめんねひまわり迷路 小さい頃から、努力なんかしなくても、そこそこやっていけてた。自分の仕草で、他人の関心を惹きつけるなんて簡単だった。だから、アイドルを目指した。
上京したら、思いのままにはいかない現実が牙をむいてきた。実家の仕送りがないと、バイトしても家賃すら払えなかった。レッスン代だって、バカにならなかった。田舎では一等賞だったのに、東京では初心者扱いされるのは地味に辛かった。レッスンで知り合った、同じ木端アイドル志願の子たちとも、適当に仲良くしていた。田舎の知り合いは、ここには誰もいない。
圭ちゃんと知り合ったのはその頃だ。なんとなく一緒にいることが多くなり、同じユニットでデビューが決まった。
光の差すほうへ向かわなければ。
654上京したら、思いのままにはいかない現実が牙をむいてきた。実家の仕送りがないと、バイトしても家賃すら払えなかった。レッスン代だって、バカにならなかった。田舎では一等賞だったのに、東京では初心者扱いされるのは地味に辛かった。レッスンで知り合った、同じ木端アイドル志願の子たちとも、適当に仲良くしていた。田舎の知り合いは、ここには誰もいない。
圭ちゃんと知り合ったのはその頃だ。なんとなく一緒にいることが多くなり、同じユニットでデビューが決まった。
光の差すほうへ向かわなければ。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:百合/liiy。焔さん一人語り、ちょっとほむうるかもしれません。liiyじゃなくてlily of the valley になってしもうた。512 クラスの顔見知りと軽口を叩く仲になっても、サボり癖はなかなか抜けなかった。人間の格好をして、人間のふりをし続けているのは、思っていたよりも疲れる。焔は屋上へ向かった。
おれには屋上があって、清怜には生徒会室がある。考えてもみれば、蘭丸や樹果はどこで息抜きをしているんだろう。
購買で適当に買ってきたパンをぱくつきながら焔があたりを見渡す。屋上には先客はいない。
音楽室からか、合唱の歌声が聞こえてくる。たくさんの女の声だ。昔の言葉を使っているからか、焔には集中して聞き取らないと意味を掴むのは難しかった。谷の百合、朝の星に例えられる人間の歌か? そんなおきれいな人間様がいるのか?
おきれいな歌詞のせいか声のせいか、反感とともに清怜の顔が思い浮かぶ。あいつ、おれの何がそんなに気に食わないのか。
484おれには屋上があって、清怜には生徒会室がある。考えてもみれば、蘭丸や樹果はどこで息抜きをしているんだろう。
購買で適当に買ってきたパンをぱくつきながら焔があたりを見渡す。屋上には先客はいない。
音楽室からか、合唱の歌声が聞こえてくる。たくさんの女の声だ。昔の言葉を使っているからか、焔には集中して聞き取らないと意味を掴むのは難しかった。谷の百合、朝の星に例えられる人間の歌か? そんなおきれいな人間様がいるのか?
おきれいな歌詞のせいか声のせいか、反感とともに清怜の顔が思い浮かぶ。あいつ、おれの何がそんなに気に食わないのか。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:かき氷/shaved ice。寶さんとバックン。アイスブレイク「フラれたんさかい、慰めてぇな」
カウンターの上に置かれた、紙カップ入りの赤いかき氷を見ながら寶はバックンに愚痴った。
「バク〜」
バックンは店内を飛び回っている。
夢を食う生き物であるバクを、寶たちの護衛につけたのは豊穣さんの意向だった。監視という目的もあるだろうが、多少なりとも言葉を解す、かつ余計なことをしゃべらない存在が側にいるのはありがたかった。
「ワイ、そんな胡散臭く見えるん?」
「バ~ク~」
多少すまなそうな表情に見えないこともない。
買い出しの帰り、小さい女の子が路上に座り込んでいるのを見かけた。気になったから、近所でかき氷を買って、差し出したら、「知らない人にものを貰っちゃいけないって言われたから、いらない」と言われた。あの頃の自分を見ているようで、助けてあげたかった。
631カウンターの上に置かれた、紙カップ入りの赤いかき氷を見ながら寶はバックンに愚痴った。
「バク〜」
バックンは店内を飛び回っている。
夢を食う生き物であるバクを、寶たちの護衛につけたのは豊穣さんの意向だった。監視という目的もあるだろうが、多少なりとも言葉を解す、かつ余計なことをしゃべらない存在が側にいるのはありがたかった。
「ワイ、そんな胡散臭く見えるん?」
「バ~ク~」
多少すまなそうな表情に見えないこともない。
買い出しの帰り、小さい女の子が路上に座り込んでいるのを見かけた。気になったから、近所でかき氷を買って、差し出したら、「知らない人にものを貰っちゃいけないって言われたから、いらない」と言われた。あの頃の自分を見ているようで、助けてあげたかった。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:七夕/Tanabata:star festival。みんなの知らない世界「人間界の習慣、やるの好きだねー」
樹果が近所の花屋から笹をかついで帰ってきた。
「これでいいのか?」
うるうが、鞄から色紙を差し出した。
「せや。うるうくん、ハサミで綺麗に縦に三分の一に切ってくれへん?」
「構わないが、これに願い事を書いて吊るすと、なぜ願いが叶うのかはわかりかねるな」
不平をいいながらも、うるうは鞄から鋏を取り出した。
「まあまあ、せっかく人間界に来たんだから、人間界のいろんなお祭りをやってくのも楽しいと思うなー」
「祭祀の重要性は把握しているつもりだが、どうも人間界の祭祀は金儲け主義のような気が」
「せやないと、ワイが乗り気なわけがあらしまへんがな」
うるうと樹果は同時に顔を見合わせて、ため息をついた。
878樹果が近所の花屋から笹をかついで帰ってきた。
「これでいいのか?」
うるうが、鞄から色紙を差し出した。
「せや。うるうくん、ハサミで綺麗に縦に三分の一に切ってくれへん?」
「構わないが、これに願い事を書いて吊るすと、なぜ願いが叶うのかはわかりかねるな」
不平をいいながらも、うるうは鞄から鋏を取り出した。
「まあまあ、せっかく人間界に来たんだから、人間界のいろんなお祭りをやってくのも楽しいと思うなー」
「祭祀の重要性は把握しているつもりだが、どうも人間界の祭祀は金儲け主義のような気が」
「せやないと、ワイが乗り気なわけがあらしまへんがな」
うるうと樹果は同時に顔を見合わせて、ため息をついた。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:虹/rainbow。虹を食べる 一軒家の後片付けはなかなか骨が折れる。押入れの中から貰い物のタオルはごっそり出てくるし、昭和生まれのおばあちゃんは悪気はないけど、賞味期限にルーズすぎて怖い。もう、いなくなってしまったけど。可愛がってくれたおばあちゃんに最後のお別れができた。
仕事がうまくいかなくて、電車を見て、ふらっと誘い込まれるように気を失って、なぜか飛行機に乗っていた。いろいろなものから逃げたかったのかな。
「千佳ちゃん、あと少しでお昼だから、そうめんとトウモロコシ茹でてくるねー」
「あー、ありがとうございます」
一緒に片付けをしていたおばさんは、お昼の用意をしに、近所の自分の家に戻るらしい。
出前もコンビニも遠いここでは「お構いなく」ということもできない。何か作れたらよかったな、と台所に行き水屋を漁る。おかきやチョコレートの袋の奥に、ゼリー菓子があるのを見つけた。まるで虹みたい、そう思っておばあちゃんに言ったら、来るたびにいつも出されるようになった。思いつきで言ってみただけで、特別好きというわけでもなかった。でも目に鮮やかできれい。そのとき気づいた。このゼリー菓子がここにあるってことは、おばあちゃんが、わたしがまた来ると思ってたから買ってたんだ。
706仕事がうまくいかなくて、電車を見て、ふらっと誘い込まれるように気を失って、なぜか飛行機に乗っていた。いろいろなものから逃げたかったのかな。
「千佳ちゃん、あと少しでお昼だから、そうめんとトウモロコシ茹でてくるねー」
「あー、ありがとうございます」
一緒に片付けをしていたおばさんは、お昼の用意をしに、近所の自分の家に戻るらしい。
出前もコンビニも遠いここでは「お構いなく」ということもできない。何か作れたらよかったな、と台所に行き水屋を漁る。おかきやチョコレートの袋の奥に、ゼリー菓子があるのを見つけた。まるで虹みたい、そう思っておばあちゃんに言ったら、来るたびにいつも出されるようになった。思いつきで言ってみただけで、特別好きというわけでもなかった。でも目に鮮やかできれい。そのとき気づいた。このゼリー菓子がここにあるってことは、おばあちゃんが、わたしがまた来ると思ってたから買ってたんだ。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:紫陽花/hydrangea。紫陽花の花の片隅で クラスがないぶん、大学って友達が作りにくい。英子がそのことにようやく気づいたのは、ゴールデンウイーク明けのことだった。高校の頃からつきあっていた彼は別の大学に進学してしまい、連絡も間遠になりつつある。
このままフェイドアウトしてしまっても不思議じゃない。高校のクラスの大半を、敵にまわしてでも欲しいと思った相手だったのに。
そんなことを考えながら、紫陽花の花の脇にあるベンチに腰掛けた。授業を受ける教室の確認をしておきたかった。
「ま〜だ『あなたの心お助けします』ってコピー使うの? ダサくない?」
「うーん…じゃあ、樹果だったらどんなの考える?」
サークル勧誘の男子の声が耳障りだな、と思いながら顔をあげると、そこには以前クラスが同じだった阿以くんの姿があった。三人も友達連れだったのを意外に思った。転校生だった阿以くんも、わたしと同じぼっちの時期があったと思い込んでいたから。
579このままフェイドアウトしてしまっても不思議じゃない。高校のクラスの大半を、敵にまわしてでも欲しいと思った相手だったのに。
そんなことを考えながら、紫陽花の花の脇にあるベンチに腰掛けた。授業を受ける教室の確認をしておきたかった。
「ま〜だ『あなたの心お助けします』ってコピー使うの? ダサくない?」
「うーん…じゃあ、樹果だったらどんなの考える?」
サークル勧誘の男子の声が耳障りだな、と思いながら顔をあげると、そこには以前クラスが同じだった阿以くんの姿があった。三人も友達連れだったのを意外に思った。転校生だった阿以くんも、わたしと同じぼっちの時期があったと思い込んでいたから。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:壺/crock。ちょっと💎🍀が入ってるかもしれません。壺の中身「ただいま」
いつもにも増して呆けた声で蘭丸が言った。胸には大きな風呂敷包みを抱えている。
「寶、どんだけ歳上に手ぇ出したんだよ」
「樹果くん、きみ盛大に勘違いしてるようやけど、これ骨壷とちゃうで」
BAR Fの席で本を読んでいたうるうが、本から視線を外した。
「全く火焔属は面倒を引き起こして……それはともかく、中身は何だ」
「おれが知るかよ」
カウンターで水を飲んでいた焔がむせながら答える。
蘭丸はボックス席に風呂敷包みを置き、ためいきをついた。
「なんか、お年をめした方から「このお店にいつもいる男の子に渡しておいて」て言われて……」
「男の子っていわれたって、五人もいるじゃん。誰だかわからないよ」
樹果が呟く。
759いつもにも増して呆けた声で蘭丸が言った。胸には大きな風呂敷包みを抱えている。
「寶、どんだけ歳上に手ぇ出したんだよ」
「樹果くん、きみ盛大に勘違いしてるようやけど、これ骨壷とちゃうで」
BAR Fの席で本を読んでいたうるうが、本から視線を外した。
「全く火焔属は面倒を引き起こして……それはともかく、中身は何だ」
「おれが知るかよ」
カウンターで水を飲んでいた焔がむせながら答える。
蘭丸はボックス席に風呂敷包みを置き、ためいきをついた。
「なんか、お年をめした方から「このお店にいつもいる男の子に渡しておいて」て言われて……」
「男の子っていわれたって、五人もいるじゃん。誰だかわからないよ」
樹果が呟く。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:口紅/lipstick。リップスティック ただいま、といいかけてやめた。中には誰もいないから。
鍵を開けて部屋に入った伊代は、スーパーの買い物袋をテーブルに置き、鋏で郵便物を丁寧に開封しはじめた。
宗次がこの部屋からいなくなって、そう月日は経っていない。追い出したのか、出て行かれたのか。自分でもよくわからなかった。宗次にかけていた手間と金が宙に浮いたので、その金でコスメを買い、感想をSNSに上げ続けていたら、フォロワーがつき、企業案件の話も来るようになった。がんばった分だけ、手応えがある。そのことが嬉しかった。
封筒の中身は、企業からのPR依頼の手紙と、リップスティックだった。子供っぽくない図案化された青い薔薇が描かれたパッケージを眺め、伊代はSNSにアップするための文面を考える。
556鍵を開けて部屋に入った伊代は、スーパーの買い物袋をテーブルに置き、鋏で郵便物を丁寧に開封しはじめた。
宗次がこの部屋からいなくなって、そう月日は経っていない。追い出したのか、出て行かれたのか。自分でもよくわからなかった。宗次にかけていた手間と金が宙に浮いたので、その金でコスメを買い、感想をSNSに上げ続けていたら、フォロワーがつき、企業案件の話も来るようになった。がんばった分だけ、手応えがある。そのことが嬉しかった。
封筒の中身は、企業からのPR依頼の手紙と、リップスティックだった。子供っぽくない図案化された青い薔薇が描かれたパッケージを眺め、伊代はSNSにアップするための文面を考える。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:銭湯/public bath。焔さんとホームランバーに対する風評被害が甚だしい。ごめんなさい。
風呂と取引「そろそろ風呂の時間やで〜」
階下から寶の声がした。うるうは読んでいた本にしおりを挟み、階下へ降りようとした。
「えー… これ今日中に読んで返さないといけないのに〜、てかおかしくね? いつもより30分も早いよ」
樹果は漫画雑誌を手にしたまま、うるうを制した。
「面倒くせぇ。おれだけパスでいいか?」
「風呂は規律や秩序以前の問題だが?」
焔とうるうの睨み合いに樹果が割って入る。
「まあまあ、風呂パスしていいかどうかは、下降りて寶に訊いてみればいいじゃん」
一階に降りると、蘭丸は洗い上げた皿を拭かされているところだった。光輝族のエリート様らしからぬ姿だ。記憶喪失であるのをいいことに、如才ない寶にいいように使われているのかもしれない。
886階下から寶の声がした。うるうは読んでいた本にしおりを挟み、階下へ降りようとした。
「えー… これ今日中に読んで返さないといけないのに〜、てかおかしくね? いつもより30分も早いよ」
樹果は漫画雑誌を手にしたまま、うるうを制した。
「面倒くせぇ。おれだけパスでいいか?」
「風呂は規律や秩序以前の問題だが?」
焔とうるうの睨み合いに樹果が割って入る。
「まあまあ、風呂パスしていいかどうかは、下降りて寶に訊いてみればいいじゃん」
一階に降りると、蘭丸は洗い上げた皿を拭かされているところだった。光輝族のエリート様らしからぬ姿だ。記憶喪失であるのをいいことに、如才ない寶にいいように使われているのかもしれない。
ひわ@turoporfali
DONE #F蘭ワンドロ お題:薔薇/rose。たったひとよの薔薇のため 子供の頃、絵のコンクールに一回だけ入賞したことがある。そういうと、樹果は意外そうに目を見開いた。
「もっといっぱい賞とか取ってるのかと思ってたよ」
美術の授業は写生なので、皆それぞれ思い思いの場所でイーゼルを立てて、課題に取り組もうとしている。
「それからはコンクールに絵を出していないからね」
「じゃ入賞したときしか、絵を出してないんだ」
「そういうことになるな」
樹果は、僕の絵と顔を交互に見てから、
「百発百中じゃん、やっぱりうるうくんはすごいね!」
そう言って笑ってみせた。
あのコンクールの絵は、どこに行ってしまったのだろう。誰かに片づけられ捨てられてしまったのか。
罰なのだと思った。現実にありもしないことを描いて、絵で嘘をついて、一等賞を貰ったことに対しての。
590「もっといっぱい賞とか取ってるのかと思ってたよ」
美術の授業は写生なので、皆それぞれ思い思いの場所でイーゼルを立てて、課題に取り組もうとしている。
「それからはコンクールに絵を出していないからね」
「じゃ入賞したときしか、絵を出してないんだ」
「そういうことになるな」
樹果は、僕の絵と顔を交互に見てから、
「百発百中じゃん、やっぱりうるうくんはすごいね!」
そう言って笑ってみせた。
あのコンクールの絵は、どこに行ってしまったのだろう。誰かに片づけられ捨てられてしまったのか。
罰なのだと思った。現実にありもしないことを描いて、絵で嘘をついて、一等賞を貰ったことに対しての。