free 校舎の裏手に、学生服姿と、崩れた雰囲気の、いっけん不釣り合いな二人の姿が見える。
「夭聖のドア使えばいいのに、車で来るとか珍しいじゃん」
頬を膨らませる樹果の手に、寶が生徒手帳を握らせる。
「蘭丸くん、まーた忘れ物しとったから、おデートキャンセルして持ってきたったんや」
樹果は大袈裟にため息をつく。
「キャンセルは嘘だろ、せいぜいリスケだな。途中まではいっしょだったけど、またいなくなっちゃったから、そのまま来ちゃったんだよねー。いつものことだし」
「焔くんとうるうくんは?」
樹果は耳をすます。
「あー…、焔は屋上にいると色々面倒だからって、生徒会室に逃げ込んでるみたい」
「セーシュンやねえ」
用事は終わったはずなのに、寶はどことなくこの場を立ち去りたがらないようだ。
「まだなんかあんの?」
「ところで樹果くん、きみのクラス」
「俺は友達は売らないよ。口説きに行くのは寶の自由だから、自分で頑張れば?」
寶は舌を出してみせる。
「バレとった?」
「バレバレだよ。そんな言うんなら、寶も転入して学校来りゃいいじゃん」
目線を逸らし、青葉の生い茂った樹の梢を見やった樹果の表情が一瞬凍り、寶の服の裾を軽く引っ張る。
「あれ、バレたら面倒だから、あいつから転入させたほうがいいと思う」
「ワイも同意見やけど、ご本人の自由意志次第やな」
樹の上で、葉桜の茂みに隠れるように、ふたりの少年が楽しそうに何やら話している。ひとりは制服姿で、ひとりは私服姿だった。