fireworks, wetworks ドアベルの音がしたので、寶は洗い物の手を止めて振り返った。
「ただいま」
蘭丸が帰ってきていた。
「みんなは? 喧嘩でもしたん?」
「そういうんじゃないけど、なんか、いづらくなって」
カウンターに座る蘭丸に、アイスコーヒーを出してやる。
「おしぼりとお水はセルフサービスや。冷コーはあと30分で廃棄のブツや。心して飲み」
はい、いただきます、とまじめくさった表情で蘭丸はアイスコーヒーを飲み始めた。
「花火、見えたん?」
蘭丸はうなずいた。
「焔も樹果もすごく喜んでたし、うるうも口では何か言ってたけど、怒ってはいなかった」
「嫌なことでも言われたん?」
蘭丸は首を振った。
「空を見るなら、一人のほうがいい気がして」
その理由は、誰かと接触をはかっているからか?
「ワイなら、べっぴんさんとしっぽり暗いところで見たいとこやけどな……ああそうそう思い出した。これからお出かけなんや。蘭丸くん、お留守番してもろてもええ?」
蘭丸を一人にしておいて、誰かと面会するようなら、後をつけようと考えた。
だが、蘭丸の表情を見て思い直した。自分で帰ってきたくせに、おいてけぼりをくった子供の顔をしている。
「一人じゃ寂しいから、近くの神社まで見送ってくれへん?」
「いいよ」
蘭丸は笑った。この光輝族様、おそらく打ち上げ花火が苦手なのだろう。昔の傷を思い出す何かが、きっとそこにある。例えば、空にまつわる、昔のおともだちの記憶とか。
神社に行けば、花火で遊んでいる子供もいるだろう。地の上で光る、またたきほどの、短い、まるで人間の生命のような花火なら、まだ蘭丸が見られるものなのかも知れない。