桜天秤は水平でありますように。注ぐ恋が同じでありますように。
付き合い出して初めて二人で出かける事になって、待ち合わせ場所で待っていたシンはポケットに手を入れて、携帯をチラリと確認した。
(早く着きすぎた・・・。笑われるかな)
楽しみにしてたなんてバレるのは恥ずかしい。でも本当に、楽しみにしてたのだ。
「シン!!」
約束の5分前にアスランはやって来た。少しいつものアスランのイメージと違う服装をしていたので軽く首をひねる。
「すまない・・・待たせたか?」
「いえ、俺もついさっき来たばかりです。新しく新調したんですか?」
デートのために!!そうだデートだ・・・そのためにアスランが服を新調したのだとしたら正直嬉しい。自分だけじゃなかったんだと思える。
「ああ・・・キラに選んでもらったんだが・・・変か?」
「・・・キラさんに?」
シンのワクワクしていた心臓にザクっと矢が刺さって痛む。だが、首を振った。
アスランとキラは親友同士で仲が良いのは判り切ったことだ。
(でも出来るなら聞きたくなかったかも・・・)
シンの気持ちに気づいていないアスランがきょとんと聞いて来る。
「どうした?シン・・・」
「いえ、なんでもありませんよ。映画館に急ぎましょう・・・アンタが言ったんですからね」
「ああ、そうだな」
映画館にはすぐ着いて、どの映画を見るか選ぶ。
今やってる中だったらどれがいいかと悩みアスランはどうだろうか?と思ったらあっさりと彼は恐竜が街を破壊する映画を選んだ。
「アンタ・・・興味あんの?こーゆーの?」
「キラが面白かったって言ってたからな・・・嫌か?」
二激目の矢がシンの心臓に刺さる。
(痛いんだよ!!アンタ本当に・・・)
チケットを買って、暗いシアター内部に入る。・・・が、シンは結局何も出来なくて、映画にも集中出来なかった。本当はいい雰囲気になったら・・・なんて期待してた。自分だけ期待して空振りしてる。
なんだか泣きそうになっていた。
しかも、映画が終わって暗い空間から出ると、アスランはケロリと言うのだ。
「じゃ、帰るか?」
「はい?」
「ん?・・・何かあったか?すまない少し・・・」
三回目の矢を食らって、いい加減にシンもキレた。ぶっつりと。
思わず彼の胸倉を掴みかかって怒鳴っていた。
「アンタ・・・何のために今日来たの?!!」
「・・・シン?!!」
「気づいてないかもしんないけどキラさんの事ばっかり言ってんじゃん!俺じゃなくてキラさんと来れば良かっただろ?!」
「シン・・・・」
「俺ばっか・・・俺ばっかり・・・楽しみにしてたの馬鹿みてえじゃん・・・」
涙が滲んで来るのを懸命に拭って、放り出して帰ろうとしたら、アスランの力強い手で手を掴まれた。
手を引かれるまま何処かに連れて行かれる。
(んだよ・・・本当にこの人訳わかんね・・・)
タクシーに連れ込まれて。顔を見ないように窓を見ていた。窓辺で反射して見えるアスランの横顔をただ見つめていた。
気づけば郊外に着いていて、降り立ったアスランの後を追う。
「なんなんですか?何が・・・あるって・・・・」
シンの視界に一面のピンク色の桜が見えた。まるでアーチのように取り囲んでいる桜たちが風にそよいで花びらを散らしている。
「・・・綺麗ですね・・・」
「そうか・・・良かったな」
満開の桜の中で、アスランは優しく微笑む、幻想的で美しくて、夢のような光景だった。
アスランが帰って行った後、手土産を買ってキラの自宅を訪問した。
今日の首尾を報告するように言われていたからだ。
キラはラフな格好で自分を迎えてくれた。
うんうんと聞いていたキラだったが、桜の話をした時にピタリと顔色が変わり、シンに向き直りニッコリと笑った。
「シン。アスランの事、本当に宜しくお願いします」
「・・・え?キラさん??!」
「・・・桜ってね。僕たちにとって大切な思い出なんだ。だから、毎年花見に行くようにしてて・・・今年も一緒に行こうって話してはいたんだけど・・・」
お茶菓子と緑茶を入れてそっとシンの前に差し出す。
何処か想いを馳せるかのようなキラに、シンは何も言えず、お茶に手を伸ばす。
「僕よりも先に一緒に見たいと思った相手がシンなら・・・素敵な事だと思うんだ」
「・・・・・」
コクンとお茶を飲むとシンは目を瞬かせた。あの人一言もそんな事言わなかった。
クスクスとキラは笑って続ける。
「それに・・・アスランって君の事ばかり話すしね」
「え?・・・本当ですか?」
「今日のコーディネートだって、君に笑われないようにって僕に選ばせたし、映画だってすっごく迷ってたから僕が最近観たの勧めたけど・・・」
「・・・女子ですか?!!」
「それでね、昨日寝れなかったからって・・・・」
そう言って寝室を指さすので、シンはもうこれ以上は心拍数持たないと思っていた。
不意打ちばかり食らってクラクラする。
同じくらいの想いの重さは、秤を水平に示していた。
「・・・判りずらいよね?でも、頼むね」
寝室で寝息を立てているアスランの傍に、そっと近づく。
ベッドの上に乗ると軋んだ音が鳴って、覚めても覚めなくてもいいから・・・と思ってキスをした。
最初のデートの想い出として、桜の中で微笑みを浮かべるアスランだけは忘れない気がしている。