思春期だなあ・・・。ドキンと聞こえそうな程の音が胸で鳴った。
振り返った相手は藍色の髪の青年で、こちらを不思議そうな顔で見つめている。
「アンタ・・・夢以外で出て来ないで下さいよ!!!」
「なんだそれは?!無茶を言うな!!」
思わず口をついて出た言葉に、その相手アスランは当然のように憮然と反論してきた。
こっちの気持ちを知りもしないで。とも思うがシンはその場を逃げ出してしまった。
「シンー!!ゴメンお茶おねがーい」
と言う上司のキラの言葉を背後にして。
むすっとしているアスランに、キラは頬を指でかいた。
シンが出て行った扉が閉まる音が空々しく響く。
「最近シン・・・ちょっとおかしいんだよね」
「・・・そうなのか?」
「うん・・・遅刻も増えたし」
「・・・・・・」
「まあ、度々プラントに出向して来る君も大概だと思うけど」
「俺は仕事で来てるんだぞ?!」
「あー・・・そういう事にしておこうかな・・・」
普段オーブでの仕事をしているアスランが最近ちょくちょくプラントへ仕事に来る。
確かに彼が一番適任なんかもしれないが、他の誰かにも任せればいいものの・・・。
淡い期待を寄せてしまう。まあ、思惑通りだとは思っていないが。
キラはうーんと腕を組んでから、「仕方ないなー」と言った。
「アスラン・・・ちょっとだけ、お願いがあるんだ」
お茶だけ置いてさっさと出て行けばいい。顔を見ることもない。
意識する必要もない。そう厳重に考えて、キラの執務室のキーを押すとそこにはキラしかいなかった。
どっと息が漏れた。
「・・・お茶淹れてくれたのに、ゴメンね。アスラン帰っちゃったんだ・・・」
「そうですか・・・」
「それでね・・・少しだけ、シンの話を聞こうと思って・・・」
お茶を客用のテーブルに乗せると二人で向き合う。
「話しってなんですか・・・?」
「最近、遅刻が増えたでしょ?何かあったのかなって・・・」
「それは・・・・」
言いづらい。言いたくない。でも・・・。
「僕は上司として、協力したいんだ・・・。正直、僕の責任問題にもなるしね」
そうなのだ。自分の不始末が彼の不利益になる。判っている。
「その・・・ひかないで聞いてくれますか?」
「・・・うん」
シンは洗いざらい暴露した。
アスランが夢に出てくるーーーから始まり、それはどんどん輪郭や感触や生々しさを帯びて来て。終いには・・・・。
「俺の・・・を・・・して・・・するアスランとか。俺が・・・して・・・するのとか出てくるんです・・・」
「うんうんうん・・・思春期ってやつだね・・・」
「俺・・・おかしくなったんですか・・・?!いくらなんでも男・・・アスラン相手にそんなって思ったんですけど・・・」
「いや・・・好きなんじゃない?」
「はあ・・・・はい?!!!」
「それってもう・・・そうなんじゃないの?ねえ?アスラン・・・」
めくるめく色事の話をした後に、キラが呼びかけた名前にシンが目を丸くした。
おずおずと執務机の陰からアスランが顔を出した。身体中真っ赤にして。
「え?え?嵌めたんですか?!!」
「いや・・・僕もビックリしたけど・・・」
「シン・・・」
アスランの声にビクっと身体を震わせる。何を言われるのだろう?!変態!!とかだろうか・・・。シンは顔を赤くしてアタフタしていた。
「・・・して欲しいのか?」
「え?え?・・・はっ・・・・」
「俺にそういう事を、して欲しくて、したいのか?」
真面目に聞いて来るアスランに、こちらは何と答えたらいいのか判らない。
ただただお互い真っ赤になって、心拍数が煩いくらい上がってて、見つめ合う。
「・・・思春期だ・・・」
キラは一人のほほんとぼやいて茶を啜っていた。
世界が二人だけで回り出した。