瞬きの微笑み(シンアス)もやもやする。あの人のことでもやっとするのはいつもの事なんだけど。
ふいに笑いかけたりするから。穏やかそうに微笑みかけるから。ドキってして、調子悪い。
何がもやもやするのかと考えて、シンは一つのことに辿り着く。
そう・・・あの笑みが、気に食わないのだ。
向けられた笑みは作られたもののように思えて、何だか虚しくなってしまう。
(なんであの人・・・あんな笑い方すんだよ・・・)
シンには戦争の裏側は見えていなかった。自分達が勝利して、住民や仲間たちと喜びを分かち合って、あの人だって褒めてくれた・・・けど納得いかないのだ。
複雑そうに笑うあの人の事が・・・気に食わないのだ。
(なんだよ!俺なんかしたか?!・・・もっと・・・)
喜んで欲しい。笑って欲しい。気持ちに拍車がかかるだけで。それに解答はいらなかった。
「つー訳で、あの人爆笑させるいい手ってない?」
「・・・って、言われてもねえ」
「・・・・・」
シンはルナマリアとレイに相談を持ち掛けた。ぐるぐる考えてはみたが答えは出なかった。ちょうど通りかかった二人に話しかける。
「私たちもアスランさんが爆笑してる所なんて見た事ないわよ」
「・・・それなら、くすぐってみたらどうだ?」
酷く真面目に答えるレイに、シンは食い付きかけてやめた。自分が何故そんな事をしなくてはならない。
なんだかだんだん馬鹿らしく思えて来る。
(そうだよな・・・俺があの人に何かする事なんてないんだ・・・)
ツキリと胸が痛むがそれを無視して、缶コーヒーをぐいっと煽った。
そこに、緑色の瞳の青年の影が見えた気がして、しかも、
「誰をくすぐるんだ・・・?」
とポカンとした言葉が聞こえたものだから、思わず吹き出していた。
「シン!!!」
「あー・・・!!!シンったら・・・」
「あ・・・あの・・・」
盛大にコーヒーをかけられたのは噂のアスランで。すっかり濡れてしまった軍服、紺色の髪、そして明らかに怒りのオーラを漂わせていた。
「・・・・・」
「済まないくらい言ったらどうなんだ?」
「スミマセンデシタ」
「・・・・・」
アスランにシャワーを浴びながらの説教をくらう羽目になり、シンはそっぽを向いていた。どうしてこうなったんだろう・・・本当は違うのに。怒らせたいわけでもないのに。
「で、誰をくすぐるつもりだったんだ・・・?」
「言いたくありませんね・・・」
「俺は聞く権利があると思うが・・・?」
至極まともな意見にぐうの音が出なくなったシンは渋々白状した。
「・・・アンタ」
「は?」
「あんたですよ!!」
一時の間が落ちた。シンが恐る恐るそーっと見上げるとシャワーの壁の隙間から顔を出したアスランがこちらを見ながら「ははっ」と笑っていた。シンは一瞬見惚れて反応が遅れた。
「何がおかしいんですか?!」
「いや、悪い。でもくすぐるつもりだったんだろう?」
「それはそうですけど!!・・・くそっ!!こんなつもりじゃ・・・」
「・・・笑ってもいいんだろ?」
見つめ続けてたら緑色の双眸が柔らかく細められるから、顔に熱が溜まって爆発しそうで、つい顔を背けた。
鼓動の音は煩い。この人の笑顔は毒だ。麻薬みたいで。
もっと笑って欲しいなんて色づいた感情に、シンはまだ無自覚だった。