お返しのつもりだからそれはどうしようもない落ちていく。
アスランを見つけてシンはうげっとなった。出来れば会いたくない相手だからだ。
大体なんでプラントにいるんだろう?彼はオーブに居るはずで、ここにいる訳がないのに。
特に仕事の用もない筈だ。シンの上官である親友のキラに会いにでも来たのかと・・そう思った。見つからないようにそーっと離れようとしたら、彼の方が自分を見つけて声をかけて来た。
「シン!!ちょうど良かった!!」
「な・・・なんですか?キラさんなら執務室にいますけど・・」
アスランは手に持っていた紙袋を持ち上げて、一枚の紙を見せて来た。
並んでるのは女性の名前がズラーっと・・・なんだこれは?
「何処の部署に届けたらいいかと思ってたんだ・・・」
「なんですか?これ?」
「ホワイトデーのお返し・・だな」
「はあ?!あんたどんだけ貰ってるんですか?!しかも・・丁寧に返すって・・・」
アスランがモテるのは判っている。藍色のしなやかな髪に、綺麗な緑色の瞳、美貌もさるものながら戦闘技術は群を抜いていて伝説も残している。だが、一点問題があるとすれば軍規違反で二度の脱走歴がある事。それを差し引いてもまだ彼にチョコレートを渡したがる女性陣が多かったということだ。
「・・・貰ってしまった物は仕方ない。キラやカガリがそれにお返しをしないのは良くないってしつこくてな」
オーブでも返せるだけ返して、プラントからも贈られた物をこうして律儀に返しに来たらしい。
プラントではバレンタインは自粛ムードだというのに女性は逞しい、と思った。
あとで上官からも頼まれそうだし、と渋々案内を買って出た。
すると、「ああ、それから・・・」とアスランが呟いたのを、シンはボケっと聞いていて、鈍った頭に突然の甘さが口の中に広がった。
「んあ?!」
「お前、甘いの苦手じゃないよな?」
口の中を転がるのはフルーツの飴玉で、時々炭酸のしゅわっとした甘味もする。アスランが紙袋の中から可愛らしい飴の缶をシンの手に渡す。
(なんで、俺に飴なんてくれんだよ・・・)
甘さが脳を蕩けさせていくかのようで、だんだん顔が真っ赤になるシン。アスランが優しく微笑んで「ありがとう」と言うので、徐々に涙目になって来た。
「あんた・・・知ってた・・・?」
「・・・何の話だ?」
「へ?俺が・・あんたにバレンタインこっそり贈って・・・」
パチリと瞬きをするアスランと、涙が零れ落ちるシンの目が合って、あっしまったと思った。何を自分から暴露しているんだと・・・。思わず自分の口を両手で閉じたが、時はすでに遅い。
「・・・・・」
「いやその・・・なんでもないんですよ!!」
「まさかとは思ってたんだ・・・嬉しかった・・・」
「は・・?」
シンの言葉にその肌を赤く染めて、アスランが照れた顔を見せる。
(何・・・?何が起こってんだ・・・??!)
地味なチョコレートのメッセージカードにはS.Aのイニシャルしか書かなかった。届かなくていいチョコレートだった。
出来る限り心の平穏を保っていたくて、会いたくないと虚勢を張ってしまう。本当に、会わなければこんなに鼓動が痛いと思う事だってないのだ。
「どうしたらいい?・・・案内の礼の飴玉だけじゃ返しようがない・・・」
「・・・俺からのチョコ、そんなに嬉しかったんですか?」
「お前には嫌われてると思ってたから・・・」
「そうですね・・・。お返し、ちょっとだけ・・・」
「ん?」
シンがアスランの首に抱きついて耳にフッと息を吹きかける。どさっと紙袋を落としたのが判った。シンの囁く声は鼓膜に響いていく。
「あんた・・・俺と付き合ってくれる気あります?」
「それは、ちゃんと。考えた上で言ってるのか?」
シンに向けられたアスランの顔は真っ赤に染まっていて、目は涙で潤んで。抱きしめた胸の鼓動は同じ音を刻んでいた。
この人、こんな簡単に落ちてくれるなんて思ってなかった・・・とシンは満面の笑みを向ける。アスランはそれに微笑み返して、唇が重なり合った。
甘いのはバレンタインとチョコレートだけじゃない。
いつから気付いてたの?
お題配布元「確かに恋だった」確かに恋だったbot@utislove様より。