Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    pk_3630

    @pk_3630

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 41

    pk_3630

    ☆quiet follow

    現代AU 拗れ練習用に書いた曦澄②
    彼女がいる曦とそんな曦に中学時代から片想いして失恋し続けてる澄
    今回は澄の回想中心です
    この話、今後の展開でも澄が結構泣くことになる予定…

    想・喪・葬・相 ②幼少期の江澄にとって曦臣は優しい兄だった。
    気難しい江澄が企業間パーティーで同年代の子の輪に入っていけないのを、曦臣はいつも気にかけ相手になってくれた。曦臣に懐き、家同士を行き来する仲になるのにそう時間はかからなかった。曦臣はどんな大人からも褒められる優秀な子だったから、江澄にとってはお手本そのものだった。その曦臣に可愛がられ褒められるのは嬉しかったし、曦臣の目がこちらを向くなら勉強もスポーツも何でも頑張れた。

    兄であり弟であり、師匠であり愛弟子であり。幼少期の二人はそんな関係だった。

    しかし成長するにつれ、曦臣と並び立ちたいという思いが芽生え始めた。
    中学生になった曦臣が同級生と並んでいるのを見て嫉妬したのが始まりだった。あの同級生達に向ける視線を自分にも向けてほしい。庇護する対象ではなく、対等な友人になりたくなったのだ。
    ある日突然一人称を「俺」に変え、「曦臣兄」ではなく「曦臣」と呼び捨てにし砕けた口調で話すようになった。しかし、曦臣は今まで通り笑いかけてくれた。こちらの気持ちを察してくれたのだろう、何も聞かずにあっという間に弟分から友人へ昇格させてくれたのだ。
    曦臣と江澄は三つ歳が違うため、中学も高校も学校は一緒だったが共に過ごすことは出来ず、江澄が中学生に上がった年、曦臣は高校生になった。中学の学ランから高校のブレザーになった曦臣を見て、江澄はひゅっと息が止まった瞬間を今でも鮮明に覚えている。
    急に大人びた曦臣の姿に心を奪われ、思考が止まった。あの瞬間江澄の世界には曦臣しかいなかった。江澄の視線の全ては曦臣のためにあった。「恋に落ちる」というよりかは、「恋に支配される」という感覚だった。
    「阿澄?どうしたの?ふふっ、学ランよく似合ってるね。ちょっとぶかぶかだけど」
    「なっ!?これから身長伸びるんだよ!そのうち曦臣と同じくらい大きくなる!そうしたら、その制服俺に譲ってくれよ」
    「これ?いいよ、これは阿澄に譲る。阿澄のために毎日丁寧に着ないとね」
    制服を着る度に江澄を思い出してあげる、そう言われたようで江澄は頭にぐっと血が昇り顔が火照るのを感じた。
    高校の制服を着た曦臣を思い浮かべる度に、あの制服を介して曦臣と特別な何かで結ばれているような錯覚を覚えた。自分は曦臣の唯一なのだと、ただの幼馴染ではなく、特別な思いやりを向けられている存在なのだと自惚れた。

    この春の自惚れが江澄の恋の始まりだった。

    曦臣の目がこちらを向いている。その事実だけで胸がむず痒くなるような落ち着きのなさと、頭に温泉でも湧いたかのような思考の緩慢さを味わった。江澄は中学生になってすぐに恋というものが甘くて幸せなものだと実感したのだ。この幸せな陶酔はいつまでも続くのだと無邪気に信じていた。

    しかしこの甘やかな自惚れは長くは続かなかった。
    曦臣は高校に入ってすぐに彼女をつくったのだ。
    彼女は芸能界からのスカウトも数多くあったという噂がある程の美少女だった。色白な肌に焦げ茶の長髪、人形のようにぱっちりとした大きな目を囲うふさふさの長いまつ毛、口角が綺麗に上がった小さな桃色の唇。曦臣と彼女が並ぶと周りの学生は背景にしかならない。それくらい際立ったカップルで、少女漫画の実写化かという程お似合いの二人だった。圧倒的なレベルの差に周囲の者は嫉妬心すら抱かなかっただろう。

    「曦臣、彼女出来たんだな」
    「うん。可愛くて凄くいい子なんだよ。今度阿澄にも紹介するね」
    「…いい」
    「阿澄?」
    「俺に紹介したってしょうがないだろう」
    「そう…。あっ、暇なら家に寄っていく?阿澄の学校の話、聞きたいな」
    「今日はいい」
    「どうしたの?具合でも悪い?」
    「何でもない」
    「でも、目が潤んでるし。一緒に病院行こうか?」
    「いいって言ってるだろ!家で寝てれば治る。曦臣は彼女のとこにでも行けよ、待たせてんだろ!」
    心配そうに肩を撫でていた手を振り払い、家まで全速力で走った。呼吸が苦しいのを無視し、脇目も振らず一気に駆け抜けた。自室に入り枕に顔を埋めた瞬間、耐えていた涙が一気に溢れた。
    (曦臣が好き。でもこれは絶対に伝えちゃいけない。あんなに可愛い彼女がいるのに、男の俺なんかがあの世界を壊しちゃいけない。俺からの想いなんて薄汚いゴミなんだから。曦臣に知られたら嫌われてしまう。)
    頭では何が正解なのか、ちゃんと理解していた。
    これからも幼馴染として振舞えばいいのだと、それしか出来ないのだと。しかし、心はぐちゃぐちゃに乱され、悲哀と嫉妬が込み上げ叫びとなって口から出てしまいそうになる。きつく枕に顔を押し付け声を耐えたが、キャパシティーを超えた感情は涙と汗になって排出されていった。「苦痛よ早く去ってくれ」と願うように蹲り、永遠に続くかと思う程の胸の痛みに耐えた。
    これがこれから長く続く失恋の始まりだった。

    曦臣は初めての彼女とは一年程付き合って別れた。
    何が原因だったのか当初は色々と憶測が流れた。幼馴染である江澄の元にも探りが入った程だったが、彼女が芸能界に入ったことで皆が何となく納得した。
    曦臣がフリーになると周囲の女子の目は一気に落ち着きがなくなった。告白劇は校内だけに留まらず、他校の女子が校門やら帰り道やらで待っているのは日常茶飯事となった。
    曦臣も一応の見る目はあるのか、変な女性と付き合うことも問題を起こすこともなく、学校から注意を受けることもなかった。が、何故かいつも長続きはしなかった。だいたい曦臣が振られているようで、その度に「何が悪かったのかなぁ」と江澄の前でぼやいていた。恋愛相談なら他を当たれと突っぱねたが、「阿澄程私のことを遠慮なく罵れる人はいないから。何か相談するなら阿澄が一番なんだ」と何とも失礼な褒め方をされ、結局いつも元彼女との馴れ初めから別れまでを聴いていた。
    この時から、曦臣にとって江澄は幼馴染兼恋愛相談役(相当なポンコツだが)になっていた。
    彼女の別れの言葉は「曦臣君は私を見てない」「私じゃなくても彼女の変わりはいくらでもいるよね」「楽しいふりして、こっちを向いてって頑張ることに疲れた」「曦臣君は誰を見てるの?」「私のこと本当は好きじゃないよね」と言ったところだ。要は、曦臣は恋愛にやる気がないのだろう。だったら恋愛をしなければいいのだが、高校時代の曦臣は彼女がいない期間はほとんどなかった。
    姑蘇藍グループ御曹司である曦臣は育ての親でもある叔父から期待されているのだ。良い伴侶を得て、平和な家庭を築き、ゆくゆくは取締役になって一緒に藍グループを支えて欲しいと。この学校は由緒正しい家の子女が多く通う。この中から、将来の伴侶を考えておきなさいと叔父に口を酸っぱく言われているらしい。
    真面目な曦臣はそれに疑いを持たずに、合いそうな子と交際を重ねているという訳だ。
    曦臣に彼女が出来る度に江澄は失恋の痛みで胸を抉られた。曦臣は彼女ができると一番に江澄に報告に来るのだ。そして別れた時も何が良くなかったのかと反省会みたいなものを勝手に開催する。
    まさか目の前の男が片想いをしていて、報告の度に情緒がぐちゃぐになり、一人になるとひとしきり泣いて虚無感に襲われていたこと等夢にも思わなかっただろう。
    江澄の中学時代はそんな片想いと失恋に塗りつぶされ、振り返れば鈍色の日々だった。だが、唯一嬉しいことがあった。

    「阿澄、中学卒業おめでとう。これ、貰ってくれる?」
    渡された包みを開くと、中には高校の制服が入っていた。
    「曦臣、これ…」
    「阿澄の言っていた通り、背丈が同じくらいになったからサイズは大丈夫だと思う。一応、江おじさんにも話はしたけれど新品が良かったら遠慮なく言って。」
    江澄は制服を広げたまま、まじまじと見つめ棒立ちになっていた。
    「ちょっと羽織ってみて。」
    曦臣が後ろに回り、制服の上着を江澄に着せた。肩幅が少しばかり余っているが、許容範囲だろう。驚くことに三年間着ていたとは思えない程、曦臣の制服には汚れが見当たらなかった。
    「曦臣、あの言葉覚えていたのか?」
    「もちろん。阿澄が着るものだから、なるべく汚さないように大事に着ていたつもりだよ。でも、本当に遠慮しないでね。やっぱりこういう物は新品の方が…」
    「これがいい!」
    玩具を取られまいとする子供のように、江澄は必死な声を出した。
    「曦臣、俺…この制服大事に着るから…」
    「そう?嬉しいな。阿澄、高校の制服もよく似合ってる。」
    この日の曦臣の笑顔は今まで見たどの笑顔よりも、江澄の心を甘く切なく支配した。
    自室に戻った江澄は初めての失恋の日と同じように、枕に顔を埋めて泣いた。
    江澄は好きな人が着ていた制服という宝物を手に入れたのだ。歴代の彼女の誰もが手に入れられなかったもの、第二ボタンなんかじゃない、曦臣の制服。三年間、曦臣が江澄を気にかけながら着ていた制服。それに包まれる幸福と優越感。
    (曦臣への想いは絶対に叶わない。それは分かってる。だから、せめて制服だけでも側にいてくれ。)
    江澄は初めて嬉しくて泣いた。この宝物と曦臣の笑顔だけを支えに、これからも襲う失恋の苦痛にいつまでも耐えようと誓った。

    大学生以降も曦臣は頻繁に告白されていたようだった。しかし、歳を重ね交際の先に『結婚』をより具体的に意識せざるを得なくなると、曦臣は恋愛に消極的になっていった。
    「付き合っていても『何かこの子は違う。一緒に生きていく未来が見えない』と思ってしまって。一度でもそう思うと、もう異性として接することが出来なくなるんだ」
    「考えすぎだろ」
    「もう誰と付き合ってもこうなんだ。病気なのかな」
    「単に好みの女じゃなかっただけなんじゃないのか。どんな女がタイプなんだよ」
    「うーん。優しい人かなぁ」
    「それが一番困るんだよ。もっとあるだろう。美人とか、料理が上手いとか、大人しくて穏やかとか。」
    「それは江澄のタイプの女性でしょ」
    恋愛相談にかこつけて、結局社会人になっても成人男性二人で会ってばかりいた。
    (曦臣との時間がいつまでも終わらなければいいのに)
    しかし、その願いはいつか打ち砕かれることを江澄は理解していた。曦臣の前に良い女性が現れ結婚し家庭を持てば、江澄と会える時間が激減するのは当然のことだ。
    曦臣は江澄を残して、他の大事な女性と人生を進んでいくのだ。
    いつか来るその日を江澄はどこか心待ちにしていた。曦臣が結婚すれば、だらだらと持ち続けた未練がましい恋心が霧散してくれるかもしれないと思ったからだ。もう傷ついてばかりの恋を強制的に終わりにし、ただの幼馴染として穏やかに曦臣を見守りたかった。
    だから、見合いに乗り気ではない曦臣をどうにかしたいという藍啓仁と秘密裏に協力関係を持っていたのだ。見合いの愚痴を聴く振りをして、女性と一先ず交際するよう仕向けていた。

    (可哀想な曦臣、お前が信じ切ってる幼馴染がこんな奴で)

    居酒屋の窓越しに笑いかけている曦臣を見て胸がツキツキと痛む。もう慣れきった痛み。しかし深く差し込んだ棘のようにいつまでも付き纏う厄介な痛みだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭🙏😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😢😢🙏😢😭😭😭😭😭😭😭😢😭😭😭😭😭😭😭😭👏👏😭😭😭😭💲🇪✝⛎📈🅰ℹ😭😭😭😭😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works