きみ・あんたとの一年。これからも、共に 最初に出会ったのは冬。江戸城の報酬でとっくに本丸に顕現していた大般若長光の前に、数々の鍛刀キャンペーンにて惨敗を期した末にシール交換にて小豆長光が顕現することとなった。初めて顔を合わせた時に、頭に駆け巡った感情は一目惚れのそれで
その日から積極的に口説き落としにかかった。ただ、同じ長光の刀であるということだけではなく、その刀身の切れ味、美しさ、力強さは称賛するに値するものだ。だというのに、小豆ときたら俺の口説きをまともに受け取ってもくれないどころか長光としての意識も薄いらしく、自分には大般若長光が兄弟刀であるということがもったいないなんてぬかしやがるものだからより一層アプローチをすると決めた。大般若長光の名に懸けてでもその意識を変えてやる
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寒い冬が終わり、春が来た。ひと冬をかけて、ようやく人の身体に慣れてきたので皆で桜を見に外へと行った。元気そうなこどもたちを見守りながら、私の視界の先には桜の花びらがひらひらと舞う中で私と同じ長光の、それも代表作ともいえる大般若の銀糸がキラキラと映える様子が映り込む。
正直な話、初めて彼に出会ったとき、なんて美しい刀なのだろうと驚いたものだ。それと同時に、逸話的にも、存在があやふやな自分が兄弟でいいのだろうかという疑問に駆られた。自分が、彼を穢してしまわないかと。
けれども、顕現してからずっと私の事を口説いてくる彼に少しずつ惹かれていったし、私は私でいいのだと。長光の刀であると、代表作が太鼓判を押してくれているのだと思えるようになってきた。それと同時に初めてであったころからずっと心に居座り続けていた不思議な感情が大きくなっていくように感じた。これはいったい何なのだろうか
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夏の連隊戦の季節になった。ここぞとばかりに戦場に駆り出される小豆の後姿を見送る。本丸ではのほほんとした穏やかな空気を纏い、甘いおやつで皆を魅了する刀がひとたび戦場へと出れば人が変わったかのように軍神のごときその力強さを発揮する。その二面性にますます惹かれていくようになった。
このところは、自分に対して自信がついてきたようで俺の口説きを受け入れてくれるようになってきたし、なんなら小豆の方からアプローチをしてきてくれるようになった。この前なんかは主人が「今日は語呂合わせで長光の日だから」とお祝いをしてくれたのだが、嬉しそうにしていた。最初の頃なんて長光であることを色々と証拠立てて話しても困惑した顔ばかりだったのに、今では自分が長光の刀の一振りであると嬉しそうにするようになった。根気強く口説いたかいがあったと「俺が育てました」顔をしていれば小竜に引かれた。なんでだ。
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秋になり、様々な果物や野菜が収穫の時期を迎えるようになった。ここぞとばかりに腕を振るって皆にすいーつを振る舞う。刀の頃にはできなかったことが出来るというのはこんなにも楽しい事なのだと実感した。
春ごろから段々と強くなっていく不思議な気持ちについて、夏の連隊戦で顕現した昔なじみの山鳥毛に相談してみたら、それは「恋」というものだと教えてくれた。
そうか、わたしは、かれにあったときからこいをしていたのか
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再び冬が来た。小豆と出会った季節が、やってきたのだ。今日、小豆が部屋を訪ねてきた。ずっと、この本丸で出会ったときから抱えてきた思いにケリをつけに来たのだとまるで戦にでも赴くような気迫でやってきたものだから思わず笑ってしまった。
小豆からの一世一代ともいえる(刀に対してどうかと思える表現ではあるが)愛の告白を最後まで聞いた。なんだ、最初っから両思いだったのかと心の底からの歓喜と共にその告白を受けた。そうすれば、嬉しそうな顔をしてぎゅうと抱きしめてきたので、抱きしめられる力に負けないぐらいに抱きしめ返した。
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心地よい風が吹いて、花々が気持ちよさそうに揺れる。おいで、と伸ばされた手を取り共に花畑を歩いた。今が戦の最中だろうと、構わない。いつか終わる日が来ようとも
これまでも、これからも
俺・わたしは、共に、長船長光の刀剣で、恋刀同士だ