春眠 長く寒い冬を超え、眠っていた生き物が行動を開始し始める春を迎えた。桜を満開にするほどのぽかぽかと温かい日の光が逆に眠気を誘ってくる。くぁと一つ欠伸をし、ごろんと寝ころんだ。
暫くうとうとと微睡んでいれば不意に顔に影がかかる。
「こんなところでねていては、はるになったとはいえ、かぜをひいてしまうよ?」
「んぁ?」
「まったく…かけぶとんはどこだったかな…。」
殆ど寝言のような状態で返事をすれば影の主は起こすことを諦めたらしく、風邪をひかせないように布団を取りに行ったらしい。再び自分に降り注ぐ暖かい日差しに浮上していた意識が沈んでいった。
*
「おやおや…。」
掛け布団を手に、部屋の日当たりが良い場所で微睡んでいた兄弟のところへ戻れば完全に夢の世界へと旅立っていた。布団をかけてやり、隣に座ってぽんぽんとあやす。
「あたたかくなってきたから、ねむくなってしまうのはしかたのないことだね。」
眠る兄弟を見守りながら、日に照らされてキラキラと輝く銀色の髪に指を通す。掬い上げれば絹のようにさらさらと指の間を落ちていく髪に美しいという感情を覚える。兄弟の美しさは髪だけではなく、その存在全てに宿っている。それは己が持ちうる言葉では誰かに伝えたいことを全て伝えるには不十分なぐらいに。
「きみのかみも、めも、ても、ないめんも、きみをこうせいするすべてがいとおしいよ。大般若。」
せめて、本人に伝えるときにはもう少し良い誉め言葉を伝えたくて、今現状最大限の賛辞を空に流し、一束の髪を掬い上げてキスをしてから午後のお菓子の準備の為にその場を離れた。
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「…どうしてそう不意打ちばっかするんだ」
小豆が去った後、顔を押さえて赤面する顔を隠す。ぽんぽんとあやされた時点で目が覚めていたが、あえて寝たふりをしていれば髪を触れられ、小豆が伝えられる最大限の熱烈な誉め言葉を掛けられ、思わず寝たふりをバラしてしまうところであった。よく耐えた。
「ったく…。」
完全に目も覚めてしまった。とりあえず、届かないだろうと空に流された愛の言葉を受け取ったのだ。何かしらの見返りはしなければと身を起こした。