無益な争い「シマボシ‼︎ 調査隊の隊員が……!」
執務室にペリーラが駆け込んできて、只事ではないことが起こっていることがすぐに分かった。
「喧嘩を始めたと思ったら、訓練場で許可なく突然ポケモン勝負を始めて……周りが見えていないらしく、私が止めても全然聞かないんだ」
「分かったすぐ行く」
最近仲の特に悪い、例の二人か。ショウも大概だが、ウォロも大人気ない。
急いで庁舎を出て、訓練場へと向かう。
「ダイケンキ、あくのはどう‼︎」
「そんなもの効きませんよ! ガブリアス、あと少しです‼︎」
案の定、たくさんの野次馬を集めていたのは、ショウとウォロのポケモン勝負であった。ポケモン勝負の腕は調査隊、いや、ヒスイ中で一二を争う腕前の二人が戦っているとなれば、これだけ大騒ぎになるのは当たり前だ。
シマボシは、観戦していた老人に話しかける。
「あの、」
「おお、隊長さん」
「二人が喧嘩していると聞いたのですが、あの勝負には原因が…?」
「うーん、よく分からねえが、」
「止めてきます」
シマボシはそう短く言って、向かい合って睨む彼らのバトル場のすぐ側に立つ。
「何をしているんだ」
双方を見回してそう言えば、二人ははっとしてシマボシの方へと目を向けた。
「鍛錬ならともかく、隊員同士のそんな喧嘩は御法度だ。今すぐ、ポケモンたちをボールにしまって調査隊本部に来るように」
静かに、しかしきっぱりとそう告げると、二人の勢いが萎んでいった。
その姿を認め、シマボシはその場を後にする。頭が痛い。
調査隊本部、正座させられたショウとウォロは、腕を組んだシマボシと向かい合っていた。
「まず言うことは?」
「すみませんでした……隊員同士の喧嘩で、危うく訓練場を壊しそうに」
ショウがか細い声で言う。
「……後でペリーラにも謝っておくんだ」
「はい」
しゅんと項垂れた二人は、俯いたまま声を揃えた。その姿を見ていると、少々の罪悪感が湧いた。
何か、仕事の忙しさでストレスが溜まっていたのだろうか。部下のことを気遣えないなど、隊長失格だ。少し、彼らの事情も聞かねばならないだろう。
シマボシは、努めて優しく彼らに話しかける。
「……顔を上げてほしい。どうして、喧嘩したんだ」
「……服が」
ウォロが、口を開いた。思いもよらない言葉に、シマボシは思わず呟く。
「服?」
「はい。隊長に似合う服の色について話してたら、ウォロさんと意見が割れたんです」
まだ少し落ち込んでいるショウは、至極当たり前のようにそう告げた。続けて彼女は顔を上げて話し始める。
「隊長は、何色が好きですか」
「……強いて言えば、緑だろうか」
唐突な質問に咄嗟に答えてしまうと、勝ち残った表情のウォロが不意に顔を上げた。
「ほらショウさん! ワタクシの言った通りじゃないですか、シマボシさんは緑が好きなんですよ、似合うのは緑ですって」
「いーや絶対に赤色ですね!!シマボシさんの髪色と補色になってそれは似合うはずです! 現に昔は警備隊の隊員だったそうですよー」
「昔の格好がなんですか。緑に決まってます緑!!」
「貴方の勝負服の差し色を着せたいだけでしょうが!!」
「勝負服って何ですか!! あれはれっきとした古代シンオウ人の正装で……」
向かい合って言い争いを始めた二人を見て、しばし呆気に取られたが、このまま放置しておくわけにはいかない。
「……一度、黙ってくれ」
それほど大きな声ではなかったはずだが、ぎゃんぎゃん言い争っていた二人は、一斉に話をやめた。
「シマボシさ……」
「反省文だ。二人とも」
頭を抑えながらシマボシが呟き、ようやく、彼女の呆れに気がついたようだった。
「私の服の色なんかについての議論が、何故そんな激しい喧嘩に発展するんだ」
少し同情してしまったことさえ恥ずかしい。
「す、すみません」
また二人して項垂れた青年と少女に、シマボシは自身の額に手を当て、大きなため息をつくのであった。