並んだ布団ウォロとシマボシが籍を入れる事を決めた後。
一緒に住む新居の事について決めるため、今日はシマボシがウォロのアパートを訪れていた。
「いい部屋が見つかって良かったですよね。運がいい」
「キミの交渉術の賜物だな」
「んふふ。お褒めに預かり光栄です」
先週末に家探しをしていたところ、お互いの通勤に便利な場所に好条件の物件が見つかった。
その場で不動産屋に乗り込み、内見。かなり人気があったらしいが営業職で培われたウォロの交渉術のおかげで早々に契約を済ませられたのだ。
今日は部屋の割振りや家具について検討する事になっている。
「じゃあ、冷蔵庫はシマボシさんの使ってるファミリータイプのをそのまま使う…と。次は寝室ですね」
「あ……」
何か言いかけたシマボシは、そのまま口をつぐんでしまった。
「ん?どうしました?」
「……その」
「はい」
ウォロは黙って、ニコニコと笑顔を浮かべている。シマボシには『夫婦になるわけですし、遠慮なく言って下さいね』と『アナタの言葉、最後まで言わないとジブンからは話しませんよ』という無言の声が同時に聞こえた気がした。
「……寝具は、布団にしてもらえないだろうか…?」
「へ?」
「ダメ…だろうか? どうもベッドは慣れなくて…」
「ジブンは、ベッドでも布団でも構いませんけど…ウチに来た時はぐっすり寝てませんでしたっけ?」
ウォロがそう言うと、彼女は首まで真っ赤にして目を逸した。
「それは………疲れていれば、眠れる……が」
「……」
疲れの原因が己にある事に気付いた男は、すみませんと小さく呟く。
「ジブンもワガママ言って天井の高い部屋にして頂きましたし、シマボシさんの希望通り布団でいいですよ」
ウォロが今使っているベッドは、だいぶガタが来ていて引越し前に処分するつもりだったので、布団に切り替えても問題は無い。
ウォロとしてはダブルベッドで一緒に眠るシチュエーションを想像していたものの、布団を選んだ事で彼女が満面の笑みを向けてくれるなら、自分の考えなど簡単に吹き飛ばせるのであった。
それから一ヶ月。二人は新居へと引っ越しする。
さすがに一日で全ての荷物が片付く程は甘くなく、引越当日は各部屋の出入りが出来るようにするので精一杯だった。
「片付けはそろそろ切り上げて、寝るか」
時刻はまもなく日付が変わる頃。
明日も休みとはいえ、そろそろ休んだ方が良い頃合いだった。
「そうですね。布団敷きましょうか」
「頼む」
ウォロは寝室と決めた和室の真ん中に、二つの布団を敷く。
「……布団、くっつけてもいいですか?」
「構わない」
シマボシの許可を得た彼は片方の布団をぐいと引っ張って、間に隙間が出来ないようにくっつけた。
「……シマボシさん」
「なんだ」
「……ぴったりくっつけたお布団って、なかなか…良いですね…」
頬を赤らめたウォロが感嘆の声を漏らすと、シマボシの顔もつられて赤くなる。
「……わざわざ、言うな……」
ウォロはニヤニヤしながら、シマボシを後ろからギュッと抱き締めた。
「シマボシさんたら、顔を赤くしちゃってー。もぉ〜、何を考えてるんです〜?」
ウォロがグリグリと顔を彼女の頭に押し付けると、シマボシの身体がかぁっと熱くなる。
「う、うるさい!もう寝る!」
シマボシは彼の腕を振りほどくと、自分の布団に潜り込んでしまった。
「…やりすぎましたね…」
二人で住む嬉しさに浮かれていたウォロは、彼女をからかいすぎてしまった事を反省する。
ウォロはそっと自分の布団に潜り込んだ。隣のシマボシは頭から掛け布団を被ってしまっているため、表情は見えない。
「……シマボシさん」
そっと声をかけるが、彼女に反応は無かった。
「ごめんなさい、言い過ぎました」
「……」
「……おやすみなさい」
そう言って、目を閉じようとしたその時。
掛け布団から這い出して来たシマボシが、ウォロの身体にぴったりとくっついてくる。
「……シマ…ボシさ、ん?」
「……おやすみ」
それだけ言うと、ウォロの胸元に顔を埋めて黙りこくってしまった。
「……はい、おやすみなさい」
不器用な彼女の『もう怒っていない』という意思表示に、ウォロは頬を緩ませる。
これからも、たくさんケンカしたりすれ違って傷つけ合ったりするだろう。
しかし、この広い世界で巡り会えた喜びを忘れずに、大切にしよう。
ウォロは優しくシマボシを抱き寄せて、彼女の額に口付けた。