彼岸花夕時、珍しく落ち着きのある雷鼓で猩々と神成は茶を交わしていた。
猩々の手元にある売れ行き向上の新作饅頭は、3つが1つ半になっていて「早いな...」と思わず声が漏れた。
「うんうん、この饅頭...最高だねぇ!流石は神成職人が手がけただけあるよ」
「へへ、あったりまえよ。オレが作る饅頭にマズイもんなんてあるわけねぇ」
「そうだね、特にこの花形の模様には手が込んでいて趣があるよ。花に何か思入れでもあ?のかい?」
そう聞くと神成は雷鼓のカウンター席の端に目を向けた。
____花だ。それも各々の花が個性を出せるよう配置に工夫がされた一級の。
猩々は「おっ」と面白いものを見るような反応をした。
それもそうだ。花に目を向けた神成の顔が、愛おしいモノを見つめる慈愛に満ちていたのだから。
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