小動物系少年蒸し暑い日が続き、出動の度に体力も気力も奪われていくような気がする。体を休めたいと思うことはあるけれど、事件が起これば出動しなければならない。
連日の真夏日の出動に、バーナビーは息をつく。真夏でも元気な虎徹が羨ましくなる。
何年もヒーローを続けているだけあって、虎徹は暑さ気にした様子はない。
「暑いなー」と言いながら昨日も焼き肉にしようかカレーにしようか、と言っていたから、夏バテとは無縁のようだ。
そんな虎徹と正反対なバーナビーは夏バテ気味なので、食欲がない。冷製パスタとか、ゼリーは何とか食べられるが、がっつり系の食べ物にはどうも手が出ない。
先ほどもトレーニングを終えた虎徹やアントニオにランチに行こうと誘われたけれど、丁重に辞退した。虎徹がしきりに気にして顔を覗きこんできたが、ただの夏バテだと伝えると、目を丸くして笑われた。
「ハンサムでも夏には弱いのか」
「関係ないでしょう」
「そりゃそうか。そうか、そうか。バニーちゃんも夏バテか」
頭をわしわしと撫でて、ちゃんと何か食えよというとアントニオと連れだって出かけてしまった。くしゃくしゃになった頭を撫でつけながら、どこかで簡単にサラダでも食べようかとトレーニングルームを出た。
ロッカールームで着替えて廊下を歩いていると、紙袋を持ったイワンと廊下の角で出くわした。
「折紙先輩」
「こんにちは。バーナビーさん。これからランチですか?」
「え、ええ…。先輩は?」
「僕もです」
これ、と紙袋を持ち上げた。
「パンですか?」
やけに小さい袋に、これだけでランチがすむならイワンは小食なんだろうかと首を傾げた。少し前に虎徹達と一緒に食事をした時にはそれなりの量を食べていたのだが。イワンも夏バテしているのだろうかと思ていると、違いますと首を振った。
「お握りです」
「オニギリ」
聞き慣れない単語を思わず聞き返すと、イワンはごそごそと紙袋を開けて見せた。三角にまとまったご飯に黒いモノがついている。見たことのない食べ物にバーナビーは興味を持った。
「ライスをノリでくるんだ食べ物です」
「へぇ」
ノリがいまいち解らなかったが、イワンがやけに嬉しそうに話しているから日本がらみのものだろう。
「バーナビーさんも食べてみますか?」
「え?」
「あっ。す、すみません…。こんなの興味ないですよね」
慌てて紙袋にしまった。ぺこんと頭を下げて行ってしまいそうになるイワンの手を掴む。
「う、ぁ」
「ああ、すみません」
急に引っ張ってしまってたたらを踏むイワンに謝罪して、バーナビーは慌てて手を離した。
「ランチがまだなので、ぜひ」
二コリと笑うと、イワンは一瞬ポカンとしてから、満面の笑みを浮かべた。
「これがウメボシで、これがシャケで、これがコンブです。これが今日から発売のシソノミです。あ、ミズヨウカン食べますか?」
「いただきます」
眺めのいい場所で、ペットボトルのお茶を持って向かい合わせに座る。見るからにうきうきしているイワンの説明を聞きながら、果たしてどんな味がするのだろうかと内心ひやひやしながらいると、シソノミというものが入ったオニギリを渡された。
「ウメボシより食べやすいと思います」
「ありがとうございます」
プラスチックのパッケージを取って、どうやって食べるのだろうかと思っていると、目の前でイワンが齧りついていた。
ああ、サンドイッチのように食べればいいのかと、一人納得してイワンを見習い齧りついてみた。ふわりとさわやかな香りがして、おいしかった。減退した食欲しかないが、オニギリが思っていたよりずっと美味しくて、もう一口と齧る。
「美味しいですか?」
「ええ、とても」
「よかった」
へにゃりと笑って、イワンもオニギリに齧りつく。
頬袋いっぱいに頬張る栗鼠に見えて、バーナビーはつい笑ってしまった。
「バーナビーさん?」
「いえ、なんでもありません」
不思議がるイワンに笑いを引っ込めた。
「そうですか」
食べざかりらしい食べっぷりで次のオニギリに手を伸ばすイワンを、可愛いなぁと眺める。
「折紙先輩。オニギリのお礼に、今度一緒に食事に行きませんか?」
「ええっ」
いつもは引っ込み思案のイワンのもっといろんな顔が見たくなって、オニギリを落としそうな勢いで驚くイワンに、バーバビーはニッコリ笑った。