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    東間の保管庫

    雑多に書いたものを置いています。

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    東間の保管庫

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    勢いに任せたまま書いてみました。

    #TIGER&BUNNY
    #バーナビー・ブルックスJr
    barnabyBrooks,Jr.
    #イワン・カレリン
    ivanKarelin
    #兎折

    触れるジャスティスタワーの上階から見た時は、空は綺麗に晴れていた。夏らしく濃い青をしていて、イワンは目を細める。
    外はきっと暑いだろう。
    随分と向こうに大きな入道雲が出ていて、それがさらに夏っぽくて、窓に手を当てた。ひんやりしたガラスの感触が気持ちがいい。
    ぺたりと掌を押し付けていると、トレーニングルームから顔を出した虎徹に呼ばれる。
    「はい、行きます!」
    もう一度だけ空を見て、イワンは小走りで虎徹の所に向かった。
    「ほれ、これがトレーニングメニューだと」
    「あ、ありがとうございます」
    「だいぶハードそうなメニューだな。大丈夫か?」
    「…はい」
    わしゃっと虎徹に頭を撫でられてイワンは恥ずかしくなって俯く。
    エドワードの一件があってから、イワンはそれまであまり積極的ではなかったトレーニングの量を増やした。トレーナーに相談しながら、少しずつ負荷をかけて行くメニューは、イワンの状態を見ながら変化していく。これで3回目の変更で、だんだんと厳しくなってきた。それでも虎鉄やアントニオたちに比べれば可愛いものだ。
    「頑張れよ」
    「はい」
    イワンに激励の言葉を渡して、虎徹も自分のトレーニングに戻る。渡されたメニューを読みながらイワンは小さく溜息をついた。まだまだ虎徹達に比べれば軽いメニューだが、イワンには確かに少しきつそうなモノになっている。それでもこれをきちんとやって行けば、必ずイワンの力になるのだ。
    今はきつくても、それでもイワンはやめようとは思わない。
    できる事だあるならば、それをできるようにするための努力は惜しまない。後悔はしたくないのだ。
    くっと拳を握り、ジムへ向かった。



    夕方までかかり、なんとかメニューをこなしてシャワーを浴びるとどっと疲れが出る。出動がなかった分、まだいいかもしれない。
    最近は自宅に帰ってもすぐに眠ってしまう。何をするわけでもないが、それでも充実感はあるので、苦にならなかった。
    「お~。イワン。お疲れさん」
    「虎徹さん。バーナビーさんも」
    「こんにちは、先輩。今から帰られるんですか?」
    「はい」
    エントランスでばったりと会った虎徹とバーナビーにぺこんと頭を下げる。虎徹にはトレーニングルームでも会ったが、バーナビーとは会わなかった。忙しい彼の事だから、取材かなにかを受けていたのだろう。なかなか忙しい人なのだが、会うと気さくに声をかけてくれるのが実は嬉しかった。
    「これから俺んちで晩飯にするけど、一緒に来ないか?」
    「え?」
    「バニーちゃんも来るし。どうだ?」
    「虎徹さんの家…ですか…」
    「おお。散らかってるけどよ」
    「先輩、お暇でしたら」
    虎徹とバーナビーにニッコリ笑って誘われたら、断る理由なんて見つからない。二人ともイワンにとっては大事な人達なのだ。
    自分を変えるためのきっかけをくれた。
    「ええと…おじゃまします」
    「よっしゃ、じゃぁいこう」
    虎徹に背中を押されながら、三人揃って歩いていく。エントランスを出て、外に行くと一気に熱気を感じた。むわっとする暑さと、トレーニングで疲れているけれど、両隣りにいる二人が誘ってくれたことが嬉しくて、イワンはこっそり笑った。
    「なんか食べたいものはあるか?」
    「え、と。なんでも大丈夫です」
    バーナビーの車で行くらしく、駐車場に行きながら虎徹に聞かれた。
    「虎徹さんが作るんですか?」
    「いや。近くのデリで買っていこうかと思ってるんだけどさ。バニーちゃん、ロゼを飲むんだろ?何がいい?やっぱりチーズ?」
    「そうですね。でもちゃんと食べたいんで」
    「じゃあ行ったら適当に選ぶか。イワンは?好き嫌いはあるか?」
    「と、特には…っ」
    「よしよし。好き嫌いないのはいいことだ。最近できたデリなんだけど、けっこう美味いんだよな」
    「たまには、ちゃんと自炊してくださいよ…」
    ははは、と笑って虎徹は肩をすくめてみせる。一人暮らしだとどうしても外食に偏ってしまうのは、仕方がない。疲れて帰ってきて料理を作るのは結構面倒なのだ。
    「イワンは料理するのか?」
    「えと…そんなには…」
    「そうだろう。そうだろう。ちゃんと料理するのはバニーちゃんぐらいだよ」
    にししと笑う虎徹を睨んでからバーナビーはイワンを見る。怒られるのかと思い肩をすくめたイワンの手をぎゅっと握ってくる。
    「ちゃんと食べないとダメです。先輩がご飯作るのが大変なら作りに行きますから…!」
    「え、はい…って、えええっ」
    バーナビーがあまりに真剣に言うので思わず「はい」と言ってしまったけれど、よくよく考えればとんでもないことをさらりと言われたような気がする。
    「じゃあこれから作りに行きますね、毎日」
    「だ、大丈夫です!ごはんは作れますから…!」
    「遠慮しないでください、先輩」
    「え、遠慮してませんっ!」
    「はははは」
    「笑ってないで止めてください、虎徹さん…!」
    やけに楽しそうな虎鉄と、真剣な顔で献立を考え始めたバーナビーの間で困り果てていると、虎徹が頭を撫でてくる。
    「いいじゃないか。バニーちゃんの飯はうまいぞ。俺が保証する」
    「でも…」
    「ま、一回食ってみろよ」
    にしししと笑う虎徹に、なぜか期待満面の顔で見てくるバーナビーの視線には勝てず「じゃあ、今度…」と伝えると、バーナビーはやけに嬉しそうに笑い、上機嫌で「車を取りに行ってきます」と行ってしまった。
    状況がよくわからないまま、虎徹を見ると「悪いな、しばらくバニーちゃんに付き合ってくれ。気が楽になって、いろいろ楽しそうだし」と肩をすくめていた。
    「…はい」
    全てが解決したわけではないが、バーナビーの心が今まで抱えてきた物から少しだけ解放されたのは解る。彼が20年間持っていたものはあまりに重すぎる。
    「バニーちゃんはいい子だからさ。お前もだけど」
    わしっと頭を撫でられて、顔を覗きこまれる。
    やはり照れくさくなって、俯くとバーナビーの車がすっとやってきた。窓が開き、バーナビーが顔を覗かせた。
    「おまたせしました。先輩、どうぞ」
    「は、はい」
    急いで後部座席のドアを開けて車に乗ると運転席から振り返っているバーナビーと目があった。不満そうな視線を感じて、乗るのが遅かったかと体を小さくしていると、虎徹が笑いながら助手席に乗り込む。
    「まぁ、そうだよなー」
    「うるさいですよ」
    むすっとしたまま車を発進させるバーナビーと、苦笑している虎徹を見ながらイワンは小さくなる。急に機嫌が悪くなったバーナビーに、何か失礼な事をしたのではないかと気分が重くなる。誘われて嬉しくなってついてきてしまったが、やはり帰ればよかったと俯いて唇を噛んだ。虎徹の自宅に行く途中にデリに寄るから、その時に帰るといえばいい。
    「あ、バニーちゃん。そこを右に曲がって」
    「はい」
    「駐車場がないから、バニーちゃんはここで待機。イワン、行くぞ」
    「あ、あの…っ」
    「ほら、早く」
    ここで降りて帰ります、と言おうとしたのに虎徹に後部座席のドアをあけられて早く来いよと急かされてしまう。
    「あの、バーナビーさんっ」
    「行って来てください、先輩。虎徹さん、チーズだけじゃなくて野菜も買ってきてくださいよ」
    「はいはい…」
    片手をあげて返事をする虎徹に背中をポンと押されてイワンも歩き出す。
    「あ、あの…っ」
    「帰るなんて言うなよ?」
    「…う」
    「バニーちゃんが機嫌がいいんだからさ」
    「…」
    不機嫌そうに見えるのに、あれで機嫌がいいのだろうか。
    「ほら、何にする?」
    店の前でにこやかに笑う虎鉄に、イワンは困った顔をして帰れないなぁと諦めた。
    「ええと…」
    横でにこやかにしている虎徹に「なんでもいいぞ」と言われながら、ケースの中を見た。確かに美味しそうなものが並んでいて、グゥと腹が鳴る。
    「ええと…」
    さっきまでの沈んだ気持ちはとりあえずどこかに置いて、まずは空腹を満たすべく結構真剣にメニューを見始めた。




    「あ、おいしい」
    「そうですね。ちゃんと野菜もあるし」
    「子供のお使いじゃないんだ。ちゃんと言われたモノは買えますー」
    虎徹の自宅のリビングに持ち込んだ3人分より少し量の多い食べ物たちは、どんどん口の中に消えていく。
    いつもは日本食や、ファーストフードが多いイワンは、久しぶりにちょっと手の込んだ美味しい食事に、箸がすすむ。
    「先輩はなにか飲みますか?」
    「えと…僕はアルコールはちょっと…」
    「ああ。そうでしたね。ウーロン茶でいいですか?ペットボトルのものしかないですけど」
    「あ、はい。ありがとうございます」
    グラスに注いでもらい渡された。他にもバーナビーは先ほどまでの不機嫌さはどこかに行ったかのように、嬉しそうにイワンの世話を焼いている。
    虎徹はそれを見ながら、よかったなーと言っているし。
    色々と世話を焼くのが好きなコンビなのだろうかと思いながらアレもコレもとバーナビーに渡されたものを食べた。
    焼酎を飲み始めた虎徹に勧められて、バーナビーもロゼのグラスに注ぐ。
    大人の仕草に羨ましいなぁと思いながら、イワンはじわじわくる眠気をこらえていた。時間はそんなに遅くはないが、昼間のハードなトレーニングに加えて、おいしいご飯を満腹になるまで食べてしまい、眠くて眠くて仕方がない。ここが自宅ならそのままごろりと横になってしまうのだが、はじめて来た虎徹の自宅でそんな失礼なことはできない。
    目をこすりながら、かくんと揺れる頭で眠気を飛ばそうとしても、どうにも飛んでいかない。

    困った。

    目をこすりながら小さく唸ると、バーナビーと視線が合う。
    「先輩、眠いですか?」
    「い、いえ…」
    「眠そうな顔してるぞ。ちょっと寝たら眠気も飛ぶだろ。ソファーに寝転がっていいから」
    「だ、大丈夫です。僕、帰りますから…」
    立ち上がろうとすると、かくんと膝から力が抜ける。
    「おっと」
    「すみません…!」
    「僕が送って行きますよ」
    「でも、バーナビーさん、さっきワインを飲んだでしょう?」
    「車は虎徹さんの家に置いてタクシーを捕まえますから」
    「でも…」
    バーナビーに迷惑をかけるんじゃないかという気遅れと、眠気でイワンは思考がはっきりしなくなる。
    「イワン。ちょーっとだけ寝てけ。誰も気にしないから」
    「でも」
    「いいから」
    「そうですよ」
    ソファーに座ったバーナビーに頭を撫でられ、そのまま引き寄せられる。
    「バ、バーナビーさん?」
    「硬いですけど、枕代わりに」
    「ええええっ」
    バーナビーの脚を枕代わりにしてソファーに寝転がっているなんて、と慌てるが、肩をトントンとされているうちに眠気がまたやってきた。
    「ちょっとしたら…起こしてくださいね…」
    「はい、先輩」
    耳元で嬉しそうなバーナビーの声が聞こえるなぁと思いながらイワンはスーッと眠りに落ちて行った。




    「ええと…」
    明るい室内と見慣れない景色に目をパチパチとさせる。
    自宅の天上でも、壁紙でもない。布団も枕も随分と違うが、なんだか暖かくて気持ちがいい。夏だから暑くてもおかしくないのに。
    エアコンをまた切り忘れたのだろうか?
    枕に頭を乗せたまま目をこすると、枕が震えた。
    「え?」
    驚いて慌てて飛び起きると、笑いを含んだ声がして、また驚く。
    「よく眠れましたか?」
    「バーナビーさん?」
    「はい。おはようございます」
    「え、えっと…?」
    眠る前の記憶を手繰り寄せて、イワンはさーっと血の気が引いていく。虎徹の家で食事をしていたのに眠くなって、バーナビーの膝を借りてちょっとのつもりで目を閉じたのに、いつのまにか朝になっていた。
    「よく寝ていたので、起こすことができませんでした」
    「す、すみません…!」
    「いいえ。先輩は寝像も良かったですし」
    「…は?」
    「いつの間にか僕のお腹が枕になっていたようですが、先輩にいい眠りが提供できたようで良かったです」
    「…」
    気持ちのいい枕だと思っていたのはバーナビーの腹で、それに頭を乗せて熟睡していただなんて。
    「わぁぁぁ!」
    体に掛かっていたタオルケットを頭からかぶり、イワンはうずくまる。
    「先輩?」
    「す、すみません!」
    「謝ることなんてないのに」
    バーナビーの声にますます頭が混乱していく。
    膝枕だけでも恥ずかしいのに、バーナビーの腹を枕にしていただなんて。
    「…あれ?」
    もそりと顔を出すと、いつものジャケットを脱いだバーナビーと目が合う。
    「バーナビーさんのお腹を枕にしていたってことは…」
    「はい。虎徹さんのベッドを借りて、一緒に寝ました」
    「は?」
    「起こすのがもったいなくて」
    バーナビーの整った顔をまじまじ見て、情報が整理しきらない頭で間抜けな返事をしていると、虎徹の「朝飯できたぞー」という声が聞こえた。
    「ソファーに追いやった家主が怒る前に行きましょうか」
    「え、えと…」
    するりと伸びてきたバーナビーの指が、跳ねた髪を撫でて、頬を撫でた。

    混乱したままロフトにかかる階段を踏み外して、先に降りていたバーナビーに慌てて抱きとめられて虎徹に笑われるのは、数秒後の事だった。
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