考察最近、相棒の様子がちょっとおかしい。
妙にそわそわしたり、急に押し黙ったり、窓の外を見て溜息をついたり。かと思えば、顔を真っ赤にして俯いてしまったり。
最初の頃は何が起こっているのか、皆目見当もつかなかった。働きすぎて、とうとう壊れたのかと思って心配してしばらく様子を見ていたが、どうも原因はアレらしい。
まさか、そんな。
何となく、そうなのかなぁと思いながら、それとなく見ていれば、あまりにあからさまで開いた口がふさがらなくなる。本人は気が付いているのか、それとも隠しているつもりなのか解らないが、傍から見ればバレバレで。あれで気がついていないと言うなら相当な鈍感で、隠しているつもりならどんだけ演技が下手なんだよ、と唸ってしまう。
普段の冷静さはどこへ行ったのか。
確かに、一連の出来事を乗り越えて、だいぶ丸くなったと思う。丸くなったと言うよりかは、憑き物が落ちたとか、背負っていた重たいものをようやく降ろせた、とかそんな感じだった。
本人も世界の見え方が違うと言っていたから、それまで見えていなかった事がよく見えるのだろう。
だからと言って、いきなりそういうことは正直驚く。
今もそうだ。
トレーニングルームの片隅で、話しかけている姿が健気に見えてしまう。
いつものクールさはどこにやったのか、少し早口で声のトーンが少しあがって。手振りもいつもより大きい。
何を話しているのか気にはなったが、遠くで見ているのが丁度いいような気がして、そのまま見ないふりを続けた。
冷静沈着なルーキーも、こういった感情をセーブするのは苦手らしい。年齢以上に落ち着いた雰囲気を醸し出しているから、この手のこともそれなりにソツなくこなすかと思っていたのに。
いつもとは違う姿が妙に可愛らしくて、年相応に見えて微笑ましいような気がしてきた。こんな風に自分の気持ちの為に動いている方が、なんだか好ましい。生き生きとしている姿に、なんだか嬉しくなってきた。
できることなら、このまま上手く行ってくれと思うが、いかんせん相手が悪い。
人見知りで、引っ込み思案で、鈍感で、そしてネガティブ。
よく言えば奥ゆかしくておとなしい。
そんな相手に、どう行ったアクションで向かっていくのかと、暢気に見ていたが、どうやら撃沈したらしい。
なんだか慌てながら離れて行く相手に、あからさまにしょんぼりと肩を落とす姿が哀れになってきた。
気になって見てきたが、どうにも慣れていない感が否めない。もしかすると、はじめての事なのかも。今までの生い立ちを考えると、そう言った色めいた事とは無縁であったと簡単に想像できる。それならば、相手が悪すぎる。
いやいや、悪い意味ではなく、仕掛けるにしても難しい相手なのだ。
できることなら、この可愛い相棒になんとしてでも嬉しい顔をさせてやりたい。
おせっかいです、と怒られそうだが、それは仕方がない。
ちょっと人肌脱いで、恋の天使変わりになってやろうかと腰をあげた。
帰り際を捕まえて、それとなく夕食に誘うのは成功した。驚いた風ではあったが、嫌がられることもくOKされたので、少しは懐かれているような気がして嬉しい。
いい子だと思う。
この子供も色んなことを乗り越えて、いまだ成長途中なのだ。
ウブな者同士で、なんだか似合っているような気がした。
ちょっと待ってくれ、いい店を聞くからと行って電話をする横で大人しくしている少年の頭を撫でると驚いた顔をされた。そして電話相手の名前を呼んで話し始めると更に驚いた顔になる。電話をしながらチラッと見れば顔を真っ赤にさせて困った顔をする少年が見えた。
これは、もしかして、とこっそり驚く。
電話の向こうで「どうしたんですか?」と訝しむ声が聞こえて、にんまりと笑った。
「バニーちゃん?折紙と晩飯に行くんだけど、どっか美味い店知らない?連れて行ってほしーなー、なんて思ってさ」