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    よくしゃべるバブ

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    DONE【ジュナカル】片割れ二つ ひらブーのあれだんだん慣れ親しんできたインターホンを褐色肌の指が押す。部屋主がいることは予め確認済みだが、応答の気配はない。
     寒い冬、日曜日の朝。とあるマンションを訪れていたアルジュナは嘆息してインターホンを睨むともう一度ボタンを押した。インターホンの音が廊下に静かに響く。が、応答はない。毎週この時間にアルジュナが訪ねているのだから家主は気付いているはず。電車に乗ってここまで来るのは距離があるわけではないが夏と冬とくれば楽ではない。相手は客人を待たせるタイプの人間ではないのでトイレで用でも済ませているのだろうか。
     腕を組んで呼吸を十数えたところで上着のポケットに入れていたスマートフォンが音を鳴らした。見れば家主からのメッセージで、鍵は開いてるから入ってくれという内容だった。インターホンの近くにはいないがスマートフォンを触れる環境にはいるようだ。
     しかし。
    「……お邪魔します」
     ドアの先へ踏み込めばキッチンのついた廊下があり、廊下を仕切るドアを潜ればそこにあるのはワンルームだ。あの部屋の広さでインターホンに手が届かないとはどんな状況だ。
     何となく予想がつきつつも鍵を締めて廊下を進む。途中のキ 2216

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    PROGRESS【ジュナカル】 箍を食む人の悪意の成れの果ては悪魔だ。
     生前の行いで純粋な死者の国、つまり黄泉や天国へ行けなくなった者の魂が行き着く先は地獄。そこに落ちた魂が悪魔になるか無事輪廻を迎えられるかはその魂の質による。悪魔になった際には人々を苦しめることで快楽を得たり、あるいは自身が崇拝する悪魔の許で働く害悪な存在と言われていた。――百年ほど前までは。


    「原子の味がするんだが」
     下手くそにパスタをフォークで巻いて口に運んだ白髪に白肌の、十五、六くらいの少年がそう言った。
     彼に食事を奢ることにしていた黒髪にチョコレート色の肌の男性アルジュナは、この少年のどうしようもない、耳を疑うような発言に怪訝な声で返す。
    「いや、トマト味ですけど」
     どういう味覚をしているのだ、とアルジュナはぼやきながら自分のパスタを口に運んだ。全く同じものを注文したが、しっかりトマトソースがかかったパスタである。
     ここはお昼時のイタリア料理店だ。それなりに人気のある店で、二人が入るのにも少しばかり時間を要した。美味しくなかったら困る。
     二人で食事をしているが、アルジュナはこの少年とは出会ったばかりだ。ここ一時間の出来事である。腹を 5678

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    DONEハロウィン ジュナくんとカルナくん 特にCPは意識してないこんこん、とドアがノックされる。また菓子を貰いに来た子供か酔っ払いが来たのだろう。アルジュナは図書館から借りていた本にしおりを挟んで閉じるとベッドから立ち上がった。今日はハロウィンなのだ。授かりの英雄たるアルジュナも今日ばかりはあげる側なのである。いや、勿論貰いもしたのだが、あくまで今日はあげる側である。
     テーブルの上にあるオレンジのカラーが目立つ円筒の缶を手に取り開けてみればたちまちお菓子の匂いが広がる。チョコやクッキー、キャンディーなどがカボチャやコウモリの絵が描かれた包装に包まれていて「らしさ」を感じるが、中身は普段から購買で購入できるものだ。違うのは包装の柄とアソートになっているかどうかくらいだろうか。
     ドアを開けると同じくらいの背丈をした白い布が目の前に立っていた。目がある部分と思われるところに穴が開いている。
    「菓子を配りに来た」
    「…………トリック・オア・トリート……」
     アルジュナは目の前の白い布が誰なのかすぐに判断が付いた。なんなら彼が配りに来たと言う前に分かった。おばけの恰好をするのなら第三再臨の姿にしておけばいいのに、本人は特に気にしておらず誰も突っ込まないか 1691

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    PROGRESSジュナカル 遠路春々 7_2雑踏の中人とぶつかりそうになるのを避けると次の人とぶつかりそうになる。常に誰かが喋っていて、足音が途切れることはない。少しでも歩調が緩い者は後ろの人に足を踏まれ、あるいはイラつかれながら後ろから追い抜かれ、歩調が急な者は前の人を避けるべく踏み出し人の間を縫うように歩いていく。
     その中に紛れ込んでいたカルナは視界に入る人間たちの目線や足先からルートを予想してぶつからないように先へ進んでいた。歩くのにまさかこれほど神経を使うとは思わなかった。いや、普通に歩く分には構わないのだ。自分の歩幅で歩こうとすると人の足並みから外れるので周囲をよく見なければならないだけで。
     首都圏に来ると人混みの中歩くのはストレスだ。母から車を借りられるのは彼女の仕事がない日に限り、今回は数日滞在する予定だったので交通機関を利用して訪れている。車で来られたらこうも苦労はしないだろう。就職活動で何度かこちらに来ているが交通機関を利用すると目的地に辿り着いたときには既に疲れていたりする。夕方ともなれば尚更だ。
     冬にもかかわらず人の熱気と暖房で建物の中は暑い。カルナの髪は一つに括られていたがそれだけでは熱を逃せず、彼 4926

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    PROGRESSジュナカル 遠路春々 7_1その日最後の授業を終えてアルジュナは下駄箱兼ロッカーへと向かっていた。厚手のコートにマフラーと手袋。冬の装いだ。
     ロッカーが見えてきたところで後ろから声をかけられ、肩を組まれる。衝撃を受けながらアルジュナは声の主を見上げた。
    「アシュバッターマン……随分お元気そうで」
     高三の冬、冬休み前。受験生ならそろそろ最後の追い込みをする。同じ中学、高校に通い進学する大学までもが同じというこの同級生だって暇ではないはずだ。だというのに何故か物凄く晴れやかな顔をしている。
    「シケた顔してんじゃねえかアルジュナ! お前もどうだよ、クリスマスの息抜き」
    「……というと?」
    「バスケ。学期最後の部活くらい後輩の顔を見に行ってやらねえとな」
     暇だろ、と言われてアルジュナは目を据わらせる。絶対むさい。何が悲しくてクリスマスの日にそんなことをしなければならないのか。
     アシュバッターマンは面倒見がいい。夏に引退してからも所属している部活には何度か顔を出しているようだ。アルジュナはというと高校では部活に入らず生徒会に精をだしていて、学期末の挨拶は生徒会室で軽く済ませて終わりだ。
     暇かといえば、まあそうだ。 1995

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    PROGRESS遠路春々 6_1木漏れ日の下で渓流がさらさらと音を立てて流れていく。時折後ろの道路を車が通るくらいで、人の気配は全くない。アルジュナとカルナが河原で折り畳み式のアウトドアチェアに座っているだけだ。川のせせらぎと木々が揺れる音、鳥と蝉の鳴き声ばかりである。
     渓流にルアーがちゃぽんと飛び込んで、既に川を泳いでいるもう一つのルアーを揺らす。水の中にいた黒い影がすっと遠ざかったが、ずっと釣り糸を垂らしているカルナは特に何も言わなかった。
     もうかれこれ一時間弱この静かな河原で二人は釣りをしている。チェアがぴったりくっ付いているのをいいことにアルジュナがカルナに凭れて、この避暑地のような場所で寝そうになるのを堪える。
    「本当に兄たちはここで釣ってたんですか?」
     欠伸を堪えて釣り竿を持つ手の力を少し緩めると、カルナが小さく、あ、と零した。魚でも引っ掛けたのかと思ったアルジュナが釣り糸を視線で辿る。きちんと釣り竿を握らなかったせいで傾き、アルジュナのルアーと糸がカルナのものに絡んだのだ。
     アルジュナ本体も釣り糸もカルナに絡んでいるのがおかしくて少し鼻で笑うとカルナがそれを釣り上げる。
    「何だか今凄く官能的に見 2001

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    PROGRESS遠路春々 5_3とある喫茶店の一角でモーニングを摂り終えたアルジュナがテーブルに課題を広げ、シャープペンシルを走らせる。一緒にいてもやることをやらなければならないから仕方がないのだが、盛大な溜息を吐くとカルナが静かに笑った。
     それにアルジュナがジト目でなれば彼は目を細めて窓の外に目を遣る。平日よりは交通量の少ない土曜日の道路では、車が二台ほど信号待ちをしているのが見える。モーニングが頼めるような時間ではなくもう少し遅い時間でも良かったのだが、アルジュナが朝食も一緒にと言うので朝からこうして喫茶店に籠っている。人が混むようなら場所を移動しなければならない。今のところその気配はなさそうだ。
    「変わらないな、と思ってな」
    「……成長がないと?」
    「お前はオレに会う度勉強をしている」
    「ああ、そういう」
     別に好きでやっているわけではないのに。アルジュナがぼやいた。
     カルナは目の前にある変わらない景色で記憶をなぞった。以前勉強が趣味みたいだと言ったらアルジュナは怒ったが、実際のところ趣味に費やす時間はなく本人も趣味が何かは分かっていないらしい。
     高校に上がってバイトをするとき履歴書の特技や趣味に何を書こ 3861

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    PROGRESS遠路春々 5_2長兄が家を出たまま帰ってこない。何か知らないか。
     そんなメッセージがSNSメッセージアプリに作っている家族のグループに投げられた。塾の講義中だったのでアルジュナは返事が遅れたが、誰も知らないようだ。無論アルジュナも知らない。これが夏休み前であればアルバイトだろうと説明がつくが、長兄は夏休みを最後に受験の為アルバイトを辞めている。
     残暑ある九月の始まり、時刻は夜の九時半を回っている。友人の家か、恋人の家か。真夏に比べれば夜は涼しいものの過ごしやすくはない。どこか屋内にいると思うのだが、何の用事もない日でこの時間になっても帰ってこないのは確かに心配だ。
     家族のグループでは次兄が知らないと言っているが、彼なら長兄が何をしているのかは知っているだろう。二人とも同じ意見を持っていて仲もいい。試しに個人的にメッセージを飛ばすと予想通りの返事が返ってきた。
    「アルジュナ、帰ろうぜ」
     塾からの帰り支度の最中にスマートフォンを弄っていたアルジュナは呼びかけられて顔を上げた。声の主はホワイトボード近くに立っている同中のアシュバッターマンだ。講師がホワイトボードの文字を消すのを手伝いながらアルジュナ 5361

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    PROGRESS遠路春々 5_1学生鞄を肩に引っ掛けたアルジュナは己の――兄弟たちの部屋を振り返った。一般的な広さの子供部屋だ。長兄と次兄と自分、弟の一人が使っている部屋。中高生三人が使うにはあまりにも狭いのに四男も使っていて、末弟はどうするのかというのがここ最近の家族の話題。
     今もリビングから長兄と母が口論になっているのが聞こえる。彼が進路調査の紙を貰ってからずっとこうだ。
     二段ベッドが二つ並び箪笥と勉強机は二人で一つ。同時に何人もこの部屋で勉強ができないからアルジュナから下の兄弟はリビングやダイニングで勉強をすることになる。
     来年から長兄は大学生になるにも関わらず個室を持っておらず、次兄と揃って自分の部屋を欲しがっている。当然だ。ベッドは狭いし、自由に部屋を使えないし、恋人も呼べない。
     それに。
    (窮屈)
     カルナの部屋を思い出したアルジュナは嘆息すると、傍でランドセルを背負って顔を強張らせている弟二人を見た。いってきますを言いたいのに言えないので困っているのだ。弟二人も兄二人が家を出たがっていて両親と衝突しているのを知っている。幸いにして両親は別の兄弟に八つ当たりのようなことはしないので弟たちが親の顔色 2030