ウェルチに呼び出された一行はディベルの街へと向かっていた。
レイモンドは突然立ち止まり「そういえば」と呟く。それに他の者も立ち止まりレイモンドを見遣る。目線が向いたのを確認した後立ち止まった場所、レイモンドの目の前にあるとあるものを指差した。
「この献花台に供える花…あー…ヘル…なんだったか…?」
「ヘルメスリリーですね、その…ヘルメスリリーがどうしました?」
後頭部をポリポリ掻きながらレイモンドは花の名前を言おうとするも思い出せずレティシアが横から花の名を言った。そうそう!と言いながらレイモンドは献花台をじっと見る。
「そのヘルメスリリーなんだがよ、今まで見つけたことねぇよな…?」
「確かに見当たりませんね…そもそもヘルメスリリー自体が珍しいものなので見つからないのも仕方ないかもしれないですね」
その言葉を聞いた瞬間アベラルドは嫌な予感がしたと同時にレイモンドはニヤッと笑い「ならヘルメスリリー探そうぜ!そんな急ぎじゃねぇしさ!」と意気揚々と言うのをアベラルドは頭を抱えた。
「探すなら私とアベラルド、レイはエレナさんニーナさんの3人で分かれましょう。ニーナさんはヘルメスリリーを知ってますし私とアベラルドの2人で大丈夫ですし」
「よっし!なら早速行こうぜ!」
「あ、待ってくださいレイ!」
颯爽と走っていくレイモンドにエレナとニーナは慌てて追いかけていく。
残された2人のうち1人は駆け出していった3人を見てクスッと笑いもう1人はやれやれと額に手を当てて首を横に振っていた。
アベラルドとレティシアは3人とは別の方に行きヘルメスリリーを探してる最中怪しい動きをしている賊を見つける。
「アベラルド、あそこ…」
「えぇ…何やら怪しい動きをしていますね…」
岩陰に隠れ賊の動きを観察している時見た事もない紋章が浮かぶ理術を扱っているのが分かった。
そしてそれを向けているのは探していたヘルメスリリーだったのを見つけると2人は頷き合う。
そしてアベラルドがチャクラムを賊に投げるのを合図に戦闘が始まった。
怪しい動きをしていた割に賊はそこまで強くなくあっという間に倒しレティシアはヘルメスリリーの側に駆け寄る。
「良かった…まだ何もされてないみたい…」
安心したのも束の間倒れた筈の賊が最後の力を振り絞って先程と同じ見た事のない紋章を浮かべ理術をレティシアに放つ。
だがそれをアベラルドが先読みしていたのか響壁を展開し理術を跳ね返そうとした。だが響壁にぶつかった瞬間お互いの理術が反発し合い小爆発が起こる。
「アベラルド!」
「…っ…大丈夫です!」
アベラルドを隠すかのように土埃が舞いレティシアはアベラルドの方へ駆け寄ろうとするもアベラルドの制止にその場に立ち止まる。
暫くすると土埃は消えアベラルドが見えた。レティシアは安心してアベラルドの名を呼ぼうとしてピタッと止まる。
「…姫?どうしました…?」
口を開いて立ち止まったレティシアにアベラルドは首を傾げるとレティシアは慌てて丈夫な布をアベラルドの頭に被せた。
「うわっ!ど、どうしたんですか?!」
「アベラルド…落ち着いて聞いて頂戴…。貴方の頭に猫耳が…」
その言葉にアベラルドは丈夫な布を外し頭に触れると何故か髪の毛とは違うふわふわした感触に動揺した。
「な、ななな…!」
「ど、どうしましょう…!」
「取り敢えずあいつには秘密にしてください…!」
慌てふためく2人に神は試練を与えるかのようにタイミングよく「おーい、見つけたかー?」と声を掛けながらレイモンドが駆け寄ってきた。
後ろの2人は若干疲れたような顔をしていた。
アベラルドはビクッと肩を跳ねさせ丈夫な布を被り直した。
「アベラルドどうしたんだ…?」
「ど、どうもしていない!」
人間隠されると知りたくなる精神。
レイモンドは布を掴むと引っ張りアベラルドはそれに抵抗するように引っ張り返す。
だが悲しいかなレイモンドの武器は大剣。つまり力はゴリラだ。そんな彼に勝てる筈もなく呆気なく布は別れを告げた。
「猫耳…」
ニーナ、エレナは同時に呟きアベラルドは悔しさと恥ずかしさに上気した頬に若干涙目になりながらレイモンドを睨んでいた。
レイモンドは無言でアベラルドに布を被せ直すと腕を掴みズンズンディベルの街へ歩いていく。
「お、おい!何か言え!」
抵抗するアベラルドと無言で腕を引きながら歩くレイモンドという異様な光景にニーナはポカンとしつつエレナは合掌しレティシアは明日の出発は無しかしらと微笑んでいた。
レティシアの予想通り次の日はアベラルドが1日宿から出ることはなかったらしい。