「あんた旅の人かい?」
深々とフードを被りいかにも旅人ですという身なりの人が商店で果物を見ているのを店番をしていた老婆が声を掛けてきた。
「あ、はい。そうです」
「それなら今日はどこかに泊まった方がいい。このまま村を出ていくと危険な鬼に喰われちまうよ」
声を掛けられた人、声からして男が肯定すると老婆は慌てて宿泊を勧めた。それに首を傾げ「どうしてですか?」と聞くと老婆は昔話をするかのように声を紡ぐ。
「大昔に森の奥にある使われてない邸に鬼が住み着いてからというもの、皆恐怖に震え討伐隊まで呼ぶ始末さ。だけど討伐隊は帰って来ず夜になると必ず家に帰る決まりになったのさ」
「鬼が…人を食べたんですか…?」
「そう聞いたよ。」
念を押すかのように「絶対明日の朝出なさい」と言い果物を売ると旅人を見送った。
旅人は宿に泊まるフリをして村を出ると老婆が言っていた森の奥を進んでいく。
暫く歩くと大きな邸が見えてきた。
「ここか…やっと、やっと会える…」
男はゆっくりと邸に近づくと草を掻き分ける音が聞こえピタリと歩みを止める。
「誰だ」
「…っ!」
その草を掻き分け現れた人物は男が会いたがっていた人物でその人物の見た目は40代ぐらいの見た目に髭を生やし目に光のない男だが人間にはない角を生やしていた。
「会えた…」
「あ?…誰だかしらねぇがここは鬼が出るって聞いてるはずだが?」
声を掛けられた男はフードを深く被ってるせいで顔が見えないため鬼は首を傾げるが見た目からして知らず警戒を示す。
「僕だよ、覚えてない…?」
「…?…っ!お前…!」
男はフードを外すと顔を顕にした。それを見た鬼はその人物を思い出したのか目を見開き駆け寄る。
「暁人か…!」
「うん…うん!やっと会えた…!」
暁人と呼ばれる男は駆け寄って来た鬼に抱き着いて温もりを感じる。それに鬼はそっと抱き締め返すも暁人がなぜここにいるのか疑問に思いそっと離れ声を掛けた。
「それよりなんでこんなとこにいるんだ?お前天界の人間だろ」
「それなんだけど…やっぱりあの時人間に傷付けられた羽根は元に戻らなくて天界に帰れなくなっちゃったんだ…」
遡ること大昔、そう、鬼がここに住み着く前の話だ。
鬼は見た目から人間に疎遠にされるか実験台にするため捕まえようとした人間に追われる日々を送っていた時人外を売り捌く闇市の人間が連れていた子供を見つけた。
鬼には遠い昔に人間との子供を授かっていたが周りの人間によって虐げられ殺された記憶がありその連れられている子供を見て何故か放っておけず助けた。
それが暁人だ。暁人には両親と妹がいたが暁人が捕まる前に殺されたらしい。抵抗された為痛みで支配しようとしたが失敗し暁人のみ捕まえざる得なかった。暁人も暁人で片翼は付け根から千切れ今にも落ちそうなほど重症で意識も朦朧としていた。連れていた、ではなく引き摺られていたというのを理解したのは鬼が人間を全て殺した後だった。
それからは知り合いの人外に暁人を任せ去ったのだ。
だが去る前に暁人から「もし羽根が治らなかったらお嫁にしてください」と可愛いお願いをされ了承した。翼は治るだろうとこの約束も忘れるだろうと思ったからだ。
暁人は傷付いてない翼から羽根を一片取ると鬼に渡す。
それが暁人との出会いだ。
「ねぇ、鬼さん、約束覚えてる?」
「あぁ、勿論だ。名乗るの忘れてたが俺はKKだ。もう離せないがそれでも後悔しねぇんだな?」
「KK…KK…そっか、やっと呼べる…後悔なんてしない。寧ろ嬉しいよ」
種族の違いでこれから大変な思いをするかもしれないがきっと笑い合って生きていけるだろう、そう確信する2人は再び再会の抱擁を交わしたのだった。