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    蘭みつ/導入部分だけ/梵デザ軸
    連載にはしないのでこんなの書きたい〜っていう尻叩き

    #蘭みつ
    ranmitu

     その日は雨だった。いつになく土砂降りの日。天気予報では伝えられなかった事実。駅には大雨によって遅延した電車に巻き込まれ人が立ち往生、タクシー待ちの列はとんでもないことになっていた。
     幸いにも折り畳み傘を持っていたので人混みから抜け出す。羨む目を背に受けながら、豪雨の中へ足を踏み入れた。
     最寄駅までは運よく行くことが出来たのであとは家に帰るだけだった。慣れた道を雨に足取られながら帰宅する。
     後少しだな、という時だった。大通りに面する店と店の間。一人通る位がギリギリの道。何故だか分からないけれど、そこに目を向けてしまった。
     人が、居た。
     その小道。路地に人が一人、倒れていた。雨に濡れてよく分からないがこの匂いは知っていた。昔良く嗅いでいた匂い。鉄分の。血の匂い。
     血自体は雨に濡れて流されているのだろう。しかしそれは垂れ流しということで。出血で死ぬ。そう思わせられる。それにこんなところで死んでいるのだ、恐らく堅気ではない。裏世界に片足を踏み入れているか。それとも。
     さすがに助からないだろう。せめて救急車を呼ぼうとスマホに手をかけた時だった。
     肩が動いている。まだ生きている。呼吸をしている時の肩の動き。
     スマホを持った手が止まる。
     人はそのままのっそりと、ゆっくりと身体を動かして。
     目が、合った。
     ――それが全ての始まり。



     その男を持ち帰ってしまった。放っておいてはいけないような気がして。
     あの後意識を失った男を運ぶのは、体格差もあって大変だったものの家が近かったのでどうにかなった。
     タオルで全身を包み止血。風呂に入れたかかったが血液が急に循環する可能性も考慮して辞めた。身体を拭き上げベッドへと。汚れた衣類は洗濯機へぶち込む。血を取ってからの方がいいのは分かっているけれど、そんなことをしている暇がない。
     処置が合っているかどうかは分からないが、一先ずこれで良しとさせてほしい。ダメだったらそいつの免疫力がダメだった、ということにはならないだろうか。
     少し白状なことを考えながらも看病の手は止めなかった。
     何故拾ったのかは分からない。けれどあの時見た瞳。あれをどこかで見た気がしてならなかった。
     男の息は暫くして正常と言える呼吸になった。もう息も荒くない、峠を越えたと言うべきか。すこしだけほっとする。もう大丈夫だろう。
     人が目の前で命の灯火を消すのは見たくない。いい気はしないから。
     気付いたら丑三つ時、草木も眠る頃。男の看病に必死になって時間感覚も無くなっていた。そう言えば自分のご飯も食べていない。自覚してしまうともう駄目だった。疲労も空腹感も、雨に濡れたあと風呂に入っていないことによる不快感も一気に押し寄せてくる。
     まず何するか。飯か風呂。いや。
     もう寝てしまおう。三ツ谷はそう結論付けた。最悪起きてからでもどうとでもなる、まずは睡眠で今日までの仕事や看病の疲れを取ってしまおうと。
     クローゼットから来客用のスウェットを取り出して枕元へと置き、男を寝かせている三ツ谷のベッドではなく、その付近の床に簡単に毛布を敷いて眠りについた。

     翌朝、香ばしいベーコンが焼ける匂いによって目が覚めた。この家に住んでいるのは三ツ谷ただ一人。だから彼が今起きたのに生活音がしているのは不自然だった。
     脳が違和感を示す。行かない方が良いのではという警告音。しかしこれを放っていくのも危ない気がした。
     なるべく音を立てずに体を伸ばし、ベッドルームを出る。音がするキッチンの方へゆっくりと歩を進めていった。
     近づくにすれより濃くなる人の気配。誰かが居る。そしてベーコンを焼いている。疑問符が浮かぶ。確認しないことにはどうしようもないので、ゆっくりと扉を開けた。
     目に入ったのは長身の男。背を向けてフライパンを持っていた。それに乗るのは身体で隠されていて見えないけれど恐らくベーコン。
     その男のことは三ツ谷には見覚えがあった。というより今思い出した、昨日瀕死の男を拾ったことを。
     足音を殺すのをやめて近付いた。男も気配に気付いて振り返る。
    「あ、起きた?」
    「こっちの台詞。もう平気なんだ?」
     名も知らない男。彼は気安く話しかけてくる。昔からの知り合いの様な言葉の軽さ。そうやってくるのであったら三ツ谷も畏まる必要はない、そう判断して軽めの口調で返した。
     昨日が初対面の男に対する態度ではない。けれどお互い様なのだから気にしない。
     それにしても。三ツ谷は男を足元からなぞるように全身を見た。着ている服は友人たちが泊まる時用に置いてある大きめのスウェット、昨夜隣に置いておいたもの。そこからは見えはしないけれど怪我は治っていないはずだ。それなのに一人で支えもなく立っている。ふらつく様子もない。大した回復力だ。慣れているのかもしれない。
     男は薄紫を宿す瞳を細めて笑った。
    「なに、オレのこと気になんの」
    「いや、頑丈だなって」
     瞳が三ツ谷を射抜く。なにかを定めようとしているのか見抜こうとしているのか。三ツ谷の返答には表情を変えない。知らない男を家に上げて看病して、その真意を知りたがっているのか。恐らく三ツ谷の勘でしか無いが、この男は優しく温かい環境で生きていない。いつ背中を取られて命を奪われてもおかしくない。そんな世界で生きている。だから知りたがっていた。三ツ谷がどうして家にまで連れてきて看病をしたのか。
     だから三ツ谷も観察をした。この男がどう出てくるのか知りたかった。まあ、そんなもので尻尾を出すような人間では無いだろうけれど。
    「怪我は平気?」
    「お陰様で。痛みはあるけれど耐えられる」
    「へえ、そう」
     男はまた手元へ視線を戻す。三ツ谷は横へ並ぶように近付いた。フライパンの上にあるカリカリと焼けたベーコンは涎を誘う。二枚存在していた。油がパチパチと跳ねている。これは男が食べたくて焼いたのかそれとも。
    「なあ」
    「ん?」
     男が問い掛けてきた。
    「どうしてオレを拾ったの」
     視線は交差しない。どちらも写すのはベーコン。視線でさらに焼けそうだ。三ツ谷もそこから動かさずに口だけを開いた。
    「……、気紛れ? 見つけちゃったんだから、後味悪くなるだろ」
    「……そう。マ、感謝はしておく」
    「それはどうも」
     何故だか本当のことを言うのは憚られた。目が合わなかったらそのままにして救急車を呼ぶだけに止めただろう。この男の目に、どうしてだか身体が勝手に動いた。どこかで、見たような。いや違うか。まあどちらにせよ三ツ谷の気紛れだった。嘘ではない。
     男はベーコンを皿へと移し、トースターの中からトーストを取り出してその上へと乗せた。人の家であるのにもう好き勝手に使い過ぎでは無いだろうか。三ツ谷はパンを冷蔵庫の中へ入れておくタイプであるので、冷蔵庫もばっちり漁られているということ。いや、そもそもベーコンからして漁られている。
     この家を勝手知ったる様子で使っていた。恐ろしいな、神経の無さが。遠慮というものを知らないのか。堅気では無さそうな男ではあるので内心諦めた。
     パンは二枚あった。男はそれを両手に持ちダイニングテーブルへと運ぶ。立ったままの三ツ谷を手招きして引き寄せた。共に食べようとでも言うように。
     彼が作ってくれた、と言うべきなのだろうがその食材は三ツ谷自身のものである。食べる権利は当然存在する。冷蔵庫から市販のアイスコーヒーのパックを取り出してそれを持っていった。
    「いただきます」
    「いただき、ます」
     男が言ったので釣られて三ツ谷も言った。懐かしいこの感覚。一人暮らしを始めてから長らく口に出していなかったものだ。
     口に含んで咀嚼する。パンが齧られる音だけが部屋に響いていた。なんとも言えない不思議な空間。初対面の男、推定反社の男とと自宅で二人きり。
    「あの、さ」
     沈黙に耐えきれず思わず三ツ谷から切り出す。ん? と男は首を傾げた。
    「もう怪我大丈夫なら出ていく?」
     そう問いかけると男は「なんで?」という顔をした。
    「普通そっちが出てけって言うんじゃねえの? お前の家だし」
    「いやそうなんだけど」
     まだ完治とは言い難い。それは見ていても分かるし本人もそう言っていた。だからまだ良いのでは無いかと。ゆっくりしていってもらっても構わないなんて思っていた。初対面で名も知らない男に対して。不思議な感覚。
    「居たいならどうぞ。どうせオレ一人しか居ないし。仕事とか持ち込まないでくれたら」
     三ツ谷は一介のデザイナーである。クリーンな印象であるべきだ。だから反社との関わりは無い方が良いに決まっている。だからその条件を出した。
     男はそれを聞いて頷いた。
    「それくらいなら。逆にこっちからお願いしようと思っていたから助かる」
     アイスコーヒーを一口飲んで一息付いた。男は頬杖を付いて目を向ける。
    「知っているというか理解していると思うけれど、襲われてあんな場所で倒れてたんだよな。で、その残党がまだこの辺に居るらしくて」
     どうしてもオレを殺したいらしい。ウケるよなあと笑う。三ツ谷からしたら知らない領域、裏社会とは無関係でありたいのでなんの反応も示さなかった。それを視界に入れても気にせずに男は続ける。
    「匿ってよ。暫く、少しの間だけで良いからさ」
     それを聞いてしまったら三ツ谷は彼に対してノーと言えるだろう。自分に対しても命の危機が訪れる可能性がある。赤の他人に巻き込まれて。
     けれど先にもう言ってしまった。居ても良いと。まあ、三ツ谷は先に言っていようがいなかろうがノーという気は無かった。
    「気の済むまでいれば良い」
     三ツ谷は身内には甘いタイプだ。けれどお人好しというタイプではない。線引きはしっかりとしている。普段なら赤の他人に対してこんなことしない。けれど三ツ谷は頷いた。これに対する明確な理由は言えない。ただ、この男を放っておきたくなかった。目を見た時から。そう思ってしまった。
     男は目を細めて喉を鳴らし笑った。
    「じゃ、よろしく」
    「あ、金だけは寄越せよ」
    「それはもちろん」
     挨拶も無く名も交わさない。そんな二人の奇妙な同居生活が始まった。
     思えば三ツ谷は絆されていたのかもしれない。薄紫色の目によって。判断力が低下していたと言われてしまえばそうである。けれど此処での応答はそこまで重要ではない。
     この男を家の内側へと受け入れた時点で既に決まっていた。
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    PROGRESSリビルディング12話/久々更新で申し訳。🈁🐶につなげたい話。ちゃんと終わらせたいので少し駆け足気味になります。
    来世兄弟12「た、だいまっ!」
    「うお、おかえり」
     夕食の準備をしていたら青宗が勢いよくドアを開けて飛び込んできた。肩を思いっきり上下させて呼吸を整えている。全力疾走してきたということか。けれど青宗がこうなるってことは何かがあったんだろう。
     菜箸を置いて青宗の方へ近寄り片手を差し出した。
    「どうしたんだよ」
     青宗は素直に右手を乗せて顔を上げる。その顔は汗で塗れていた。白い肌のせいか一層赤く見える。少しだけその体勢のまま息を整えて口を開けた。
    「いや、……ココが」
    「あー」
     成程な。大体を理解した。
     青宗はオレたち兄弟の中で一番旧友たちと関わりたくないと思っている人間だろう。だから色々と慎重に考えていたのはなんだかんだ青宗だし、オレが考えて導いても最終決定権は青宗だった。特にココくんに対しては、青宗自身のことを完全に忘れて欲しいようでチラつかせるようなこともしない。すれ違うことも許さない。あの業務用スーパーで出会ったのも偶然からきた割とやばいハプニングだったけれど、どうにか切り抜けたし。
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